闇夜に蠢く挑戦状

大和ラカ

廃墟に蠢く願望

第1話

 七月のある日。

 担当していた事件の報告書をまとめ終え、俺は自分のデスクで休憩をとっていた。


「はぁ、やっと終わったな。例の強盗殺人事件、お前の手柄があったから解決できたよ冬月」


 冷たいコーヒーをすすり、隣のデスクに座っている後輩の冬月美夢に言う。


「いえ、先輩のフォローがあってこその事件解決です。私一人の手柄ではないです」


 冬月は少々照れくさそな表情を浮かべて答えた。

 俺の名前は山川隼。都心の警察署に勤務する26歳の刑事だ。期待の新人として成果を残し署内でも優秀な刑事と称されている。

 ただ一つ、他の刑事と違うところがある。

 俺は現場に行くとき拳銃ではなく日本刀を所持しており、周りからは『日本刀刑事』などと呼ばれている一風変わった刑事だ。


 そんな俺の相方ともいえる冬月美夢とは去年から共に行動している。

 彼女は署内でも拳銃の腕が立ち、器用で頭もよい刑事であり警察学校での成績はトップクラスだったらしい。

 ただ、少々小柄で若い顔立ちのためよく学生に間違えられたりしている。


 また両親はもう他界しているため一人で暮らしているらしい。

 年齢が近く優秀だった俺が教育係になり、それ以来共に事件を解決している。

 性格が似ているからか息の合った動きが取れ、非常に動きやすかったりし、相方としては最適だ。


 事件解決を喜ぶ話をしていると、俺の上司の荒巻警部が声をかけてくる。

 荒巻警部は俺たちがいるこの署でもかなりの成果を上げているベテラン刑事である。


「二人とも例の強盗殺人事件の解決、非常に素早く解決できて素晴らしいと上から連絡が来た。さすが期待のコンビだな。そんなお前たちにまた仕事なんだが」


「構わないですよ荒巻警部。ところで次の仕事はどのようなものでしょうか?」


 荒巻に尋ねると、

「フリージャーナリストの津村由香という人が行方不明になっているのだが、その人の捜索を頼みたい。例の行方不明事件と関りがあるらしい。ったく、これで何人目だよ。最近多すぎるんだよな。まぁこんなことお前らに行っても仕方ないか。んじゃ、そっちは任せたから」


 荒巻が自身の持ち場に戻ろうとするのを制するように質問する。


「あの、その津村という人の住所とか教えてもらえないのですか?」


 荒巻は一度振り返るとハッとした顔で口を開く。

 ポケットから一枚の紙きれを取り出すと、俺に渡した。


「すまん、うっかりしてた。ここが津村の自宅の住所だ。んじゃ、あとはよろしくな」


 そう伝えたのち、荒巻は自分のデスクの方に出ていった。

 荒巻が戻って行った後、キョトンとした表情の冬月が聞いてくる。


「例の行方不明事件って何ですか?」


「あぁ、今世間を騒がせてる事件なんだ。何の共通点のない人が次々に行方不明になっているとかでな。一応誘拐事件の可能性も視野に入れて捜査してるのだがどうも解決できてないそうなんだ。今で確か八人ほど行方不明になってるな」


 冬月は怪訝そうな顔で首を傾げる。


「あの、そんな話聞いたことないんですけど」


 署内で騒がれているのに知らないのかと思うがまあいい、任されたからには事件解決を目指すしかない。

 この事件による被害がこれ以上増えないためにも。


「とにかくだ、さっそく調査に行くぞ冬月」


 カバンに荷物を詰めデスクに立てかけていた脇差を持ち、外に出る。


「え、ちょっと先輩! 待ってくださいよ!」


 冬月も急いで荷物を用意して、俺を追いかけるように外に出た。

 外に出て、駐車場にある覆面パトカーに乗り後部座席に持ってきた脇差をのせエンジンをかけ冬月を待つ。

 この時期にもなると車内は蒸し風呂のように暑く、すぐに冷房をかけた。

 いい具合に涼しくなった頃に冬月が走ってこちらに向かってくる。


「遅いぞ冬月」


「せ、先輩がすぐに行っちゃうからじゃないですか……はぁ、暑いですね」


 やや息を切らしながら冬月が隣の助手席に乗り込み、服で胸元を仰いでいる。

 この暑さだし仕方がない。

 しばらくして突然、冬月は動作をピタリとやめる。


「せ、先輩、早く行きましょう」


 そう言って咳払いをする。

 その行為の意図が読めなかったが「あぁ」とだけ答え、先輩から受け取った津村の家の住所に向かって車を走らせた。

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