水玉模様は何処へ

中川葉子

第1話

 目を覚ますと夕方だった。二階の自分の部屋を出て台所へ向かうと母が優しい声で私に言う。「よく眠れた?」私は小さく首を振り母が昼に作ってくれたであろう食事をレンジで温め食す。ずっと母は優しい笑顔でこちらを向いている。


「どうしたの?」

「いいえ。どうもしないわ。ただね、あなたが生きてくれているだけで嬉しいの。12歳だからといって小学生だからといって辛い思いをして学校に行く必要なんかないのよ」

「……ん。ありがとう」


 私は母の言葉に対する恥ずかしさを隠せず、右手の人差し指で顔をかきながら、なんとも言えない表情を浮かべながら食事を終えた。「じゃあ部屋に戻るね」そう伝えると母は笑顔で薬と追加で飲む用の薬を持って行きなさい。と言い、睡眠導入剤と睡眠剤を手渡してきた。受け取り、また眠ろうかと思いながら部屋に戻る。

 部屋に戻ると学習机にぶら下げているラジオをつけ、ベッドに横たわる。夕方の音楽が流れるFM番組を流した。洋楽から今流行っている曲。パーソナリティの楽しげな言葉。なぜか分からないが自分が一人ではないように感じる。

「さて、続いての曲は人気急上昇中のバラシ。バラシの新曲を流していきます。タイトルはそうそう笑顔になんてなれないんだから」

 私は静かにラジオの電源をオフにした。学校に行けなくなった理由がフラッシュバックする。

 クラスメイトが思い思いのことをする朝礼前の時間。読書をしている子も仲間内で騒いでいる子も、いろんな声が行動が入り乱れている中、バラシの熱烈なファンで仲のいいクラスメイトが近寄ってきて、私に立ち上がるよう促した。指示の通り立ち上がると、なぜか私のスカートを脱がしてくる。その子は男子達に大きな声で叫んだ。「この子水玉のパンツ履いてるよー!」私は腰が抜けてしまいへたり込んでしまった。なぜ? 仲がいい子なのに? パニック状態に陥っていると彼女は私の耳元で言った。


「残念ながら私はあなたみたいなやつのことは嫌い」


 腰の抜けたまま涙が溢れ止まらなくなった。先生が教室に来てもずっと涙が溢れ動けないままで。私は家に帰された。あの日から学校には行ってない。


「少し眠りたいな。夢の中でくらい楽しく生きたい」


 誰に言うでもなく小さく口を出た。導入剤と睡眠剤を飲みベッドに横になる。ラジオ局を変え古い洋楽しか流さない局にチューニングを合わせる。誰かはわからないがとてもいい雰囲気の歌を男性が歌っている。

 あぁ、彼はこんな辱めにも裏切りにもあったのだろうか。何かそういう経験があるから音楽というものを使って発信しているのかもしれない。


 などと考えているといつのまにか夢の世界に落ちたようで。目を覚ますと朝になっている。カーテンを開くと空が水玉模様のようになっていて私は朝を恨んだ。だが、いい気分にもなった。少しずつ解消されるのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水玉模様は何処へ 中川葉子 @tyusensiva

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る