親離れのススメ、もしくは毒親からの更生のススメ 橘家の場合

橘 雨月

第1話 はじめに

我が橘家は、父・母・姉・私の4人から始まった。


父は、いわゆるフェミニストで、女性に優しい。

母や姉が言うには、(若い頃は)男前の部類に入るらしい。

物腰も柔らかで、話も良く聞き、

自身に関わりない事でも、

また自身の知らない所で起こった出来事にも公平の立場を通す。

ご時世的に、社畜のような人々の多い中、

仕事より家庭を子どもを優先してくれるような人だった。

多少、理屈屋な所と趣味に没頭しやすい所を除けば

女性にモテるだろうな、と私でも思う。

のちに、家を出て行くが、その後も、毎月家賃や光熱費を払い

給料の半分と年に2度のボーナス時には100万程、

会社を辞めるまで払い続け、母が納得してくれるまで

離婚をせずにいた、ある意味変わり者ではあるが

常識人でもある。


この、父が家を出て行くまでは、我が家は案外と普通だったと思う。

父が、家を出たのは私が7歳の秋だった。


この年の夏休み、父方の祖母が急死したのだ。

元々、出張の多い父は、この時も出張へ行っており

祖母の葬儀に間に合わなかったのだ。

携帯電話のない時代で、父は祖母が亡くなった事を知らなかったのだから

もちろん間に合うはずがない。

母が意地悪で連絡しなかった訳ではなく、

父が置いて行った連絡先に、父は居なかった。

父は、出張ではなく、女性と旅行に行っていた。

祖母は母との結婚に反対しており、

反対を押し切って結婚したと父から聞いたことがあったが、

その祖母の死で、父の不貞がバレるとは、

何かのジョーダンかと思えるぐらいのタイミングの良さだった。

父が言うには、それが初めての旅行だったそうだ。


旅行は初めてだったのだろうが、件の女性とは

それなりにお付き合いを続けていたらしく、

父は、離婚を切り出した。

母は、初めこそ離婚に応じようとしたらしいが

周囲の反対で思い止まる。

これが不幸の始まりだとも知らずに。


かくして、何度かの大人だけの会議は繰り返され

毎月の支払等の他、母が納得するまで離婚はしないと約束し

『単身赴任』という名目で父は家を出て行くのだ。


父は約束を守り、仕事を辞めるまで毎月金を払い

母が納得するまで30年近く離婚せず待ったのだ。



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