15:所信表明

 さて、そういった感じでレギュラー陣が集まりました。と、同時に、不安になる情報が形をとった時でもありました。 


 次の土曜日の事です。皆さんに僕の家に集合してもらいました。

 部屋の中央でヤンキー座りをキメるヤンさん。

 そのフードから顔を出してビヤァーと鳴いてるリョータちゃん。

 そのリョータちゃんの頭を立膝でカリカリ掻いているヒョウモンさん。

 そして、そんな二人のお尻の下に座布団を滑り込ませているオジョーさん。

 中々の和気藹々わきあいあいぶりです。僕は居間のテレビの前に立ち、委員長は部屋をゆっくりと移動しながらカメラで皆の顔を撮っており、ばーちゃんはちょっと離れた壁際に胡坐を組んで座っていました。


「えー、それでは、番組制作会議を始めます。まずは遅くなりましたが、この番組『ぶらりオッサン旅』レギュラーの皆様、ご協力かつ本日のご足労ご苦労様です」

 タイトルがダセエぞーとか、ほんとに小学生かーとか野次が出ましたが無視です。ちなみに野次ったのは全部オジョーさんです。

「皆さんは、その――この町で起こった奇妙な体験を間接的、もしくは直接的に体験しています」

 僕は言葉を切りました。

 言っていいものか、と昨日から、そして言っている間もずっと悩んでいました。

「ということは、僕達以外もこういう体験をしている人達がこの町にはいると思うんです。僕はこの番組を――そういう人たちの為に――いや、違うな。ああ、もう言うぞ……ええっと、今この町では何かが起こりつつあります。それは皆さんも感じているでしょう?」

 全員がいつの間にか姿勢を正していました。


「その起りつつある事は――多分悪い事です」


 既にヤンさんの動物虐待の話、オジョーさんから得た動く絵の話はSNS等で共有しています。なので、全員が小さく頷きました。

「僕の考えは、その悪い事を未然に防ぐべきである、という事です。それが、どのくらいの『オオゴト』なのかはわかりませんが――ちょっとクサいんですけど、この町に住んでる人を守るため、みたいな? ゆるい番組だけど見る人が見れば、警告になってる。そんな番組作りをしていくべきなんじゃないかと思います」

 ヤンさんが拍手をしてくれました。

「いいんじゃねーかな? ちなみに警察や学校は?」

「勿論、警察や学校にも明確な情報があれば報告していきます。それに僕達が相手にすべきは、いや、僕達が相手にしなければならないのは、警察とかが手を出せない類の物です」

 ばーちゃんが手を上げました。

「その灰色のジャージの連中はどうなってるの?」

 オジョーさんが立ち上がりました。

「はい。あの後、お父様経由から情報を仕入れましたが、警察としては住居不法侵入の線で捜査を進めているそうです。ただし、巷間に流布する噂として、動物虐待や器物損壊の疑いもあり、という情報も浸透しているそうです。というか――」

 オジョーさんは僕に向きなおりました。


「どうも、そういう通報は去年から増えているようで、現場レベルでは常識になっているそうです」

 ばーちゃんがやっぱりか、と言いました。

「うん、昨日某お寺の関係者から聞いた話じゃあ、要石かなめいしが割られた夜、防犯カメラにそういう連中がバッチリ映ってたそうだからね、流石に警察も知ってるわけか」

 ヒョウモンさんは眉を曇らせました。

「え? じゃあ、なんで、まだ捕まってないの?」

 委員長はカメラをヒョウモンさんに向けながら話します。

「それは、色々理由があるんでしょう。とにかく私達には関係ないわ」

 僕は手を打ちました。

「そう。だから僕達のうち誰かが、仮に連中に会ったり、見かけたりしても、決して接触したりしないようにお願いします。いいですか?」

 僕は、最後の『いいですか』を強く、そしてそれとなく委員長に向かって言いました。

 あの時、わざわざこんな集まりをしたのは、所信表明と、はっきりと番組の方向性を決める必要があったのは確かなのですが、一番大きかったのはこの言葉をみんなの前で言うためだったのです。


 この町の人たちを守る、という番組作りをするという事は、あの灰色の連中に対して、宣戦布告をするようなものなのです。

 そして、委員長は僕達の知らない目的を持っています。

 いずれ教えてくれる、その言葉を僕は信じていました。だけども、委員長だって人間です。例えば――そう、非常に身近な人を助けよう、なんて考えを持っていたら、僕が隣にいない時に、ふっと走り出してしまうかもしれません。


 委員長は僕に背中を向けていました。ヒョウモンさんが委員長の顔を見て、ん? という顔をしました。きっと何かが顔に浮かんだのでしょう。返事を期待していたわけじゃありませんから、それであの日の目的は達成されました。

「では、そんな感じに番組制作を進めていこうと思います。異論のある方はいらっしゃいますか?」

 いや、ないな、とヤンさんは言うと、僕に再度拍手をしました。他の人達も続いて拍手してくれました。そんな経験は初めてだったので、凄く恥ずかしくて、真っ赤になりましたが、なにげに委員長が僕の顔をアップで抜いていて、後で確認して更に恥ずかしくなりました。ですが、素材的には大変おいしかったので、夏以降のOPで使っております。


 さて、次の日曜日です。ヤンさんは仕事なので、僕に委員長、ヒョウモンさんは繁華街に出かけました。所信表明の後、みんなで噂の整理をした際に、ヤンさんが『絶対に当たる占いマシーン』の噂というのを仕入れてきました。それは例の結界候補であるオタクビルの地下にあるゲームセンターにあるというのです。

「うーん、ゲーセンはやっぱ保護者がいないと、百合ちゃん先生がうるさいと思う」

 というヒョウモンさんの常識的すぎる発言を受け、僕は、ばーちゃんに話を振ったのですが、ばーちゃんは調べものがあるとのことでパス一。

 ヤンさんは二連続で休みは取れねえ、とパス二。

 むむっと、悩んでいるとオジョーさんがはいっと手を挙げ、私がご一緒しましょう! と言ってくれました。ばーちゃんは、むむむっと首を捻りました。

「高校二年なら、保護者として確かにギリギリだけど、さて、どうしたもんか――」

 オジョーさんはニコニコしながら腕をぶんぶん振りました。

「いえいえ、ご安心を! 実は明日はある人と町をブラブラする予定だったのです! 町ブラです!」

 町ブラ、とキョトンとしているばーちゃん。委員長が代わりに質問します。

「その人は、その、撮影とかは――」

「大丈夫です! その人ですが、文武両道、質実剛健のちょっと怖い所のある人ですが、私が保証します。とても頼りがいがあって、面白くていい人です! ただ、ちょっと条件があります」

 なんですか? と返す委員長にオジョーさんは全部話すことです、と言いました。

「こういったことはあまり公言すべきではないのでしょうが、あの人ならば大丈夫です。私が保証します」

 僕とヤンさんは顔を見合わせました。

「そりゃ、オジョーさんは信用してますけど――」

「大丈夫です! 何故なら姉は信じてくれたんです! 落書きの話を!」


 委員長が無言で手を挙げ、オジョーさんと壮快なハイタッチを決めました。

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