印象に残る掴みのシーンを研究

仲仁へび(旧:離久)

ケース01 浮遊大陸

第1話



 浮遊大陸 グランデア


 これが俺達の住む場所で、世界の全てだ。

 ここ以外に生命の場所などない。

 大陸の周囲をぐるりと囲むのは魔力の霧ミストリウムだ。


 例外としてぽっかりと頭上にあいた霧の穴からは、真っ青な空と、昼には輝く太陽。夜には仄かに光る星々が顔をのぞかせる。


 そんな世界の事を考えていた俺は、見上げていた視線を移動させた。

 遥か頭上、手の届かな場所にある天体などではなく、努力次第では手の届く程度の高空へ。

 そこに、不自然に浮かでいる異物へと。


 知らず、表情がゆがむ。


 あんな物があるから俺達は幸せになれないんだ。


 そこにあるのは、巨大な扉だ。

 この世のありとあらゆる闇を煮詰めて作ったかのようなどす黒い色づかい。巨人が彫刻刀を片手に憎き者への憎悪をぶつけたかのような掘り込み。そして扉の中央……閂にて襲えている翼のある悪魔の像。


 目の先のそれは、醜悪極まりない物だ。

 間違っても芸術品だとは称せない、いっそ呪術物とでもいいたくなる物。


 一体、何度、自分はこの扉を見て不快な気もちになっただろう。

 数数えきれないほど、だ。


 この目に入れるも忌々しい物体は、月に一度開いてこの世界に不幸をまき散らす。


 魔界につながっているとされる扉グリムゲートは、夜空で淡い光を放ちながら浮かんでいる惑星が満月になる頃開き、それと同時に瘴気をまき散らし、悪魔を侵入させる。


 言語の通じない凶暴性が塊になった様な生物は倒せば済む話だ。だが、瘴気はそうはいなかない。

 瘴気を吸い込んだものは肺をやられ、体を蝕まれて、やがては死に至る病気を発症してしまう。


 そんなとんでもない代物を放置しておくわけにもいかず、扉は当然の流れとして破壊するべきだという事となる。

 だが扉は壊せた試しが無かった。

 ありとあらゆる手段を試みて、そのことごとくが失敗に終わった。


 いつしか破壊に手を尽すものは減り、人々は扉の害を運命だと受け入れるようになった。

 人々は半ばあきらめかけていた。彼らは運命に膝を屈したのだ。


  そうしてこの世界には緩やかな死の空気が蔓延することになる。



 だが、そんなの知った事じゃない。

 俺にとっては、そんな有象無象のだした結論なんて関係ないのだ。

 あきらめようがあきらめまいが俺のやる事は変わらない。

 あの扉を破壊する。そう決めた。

 突き進むだけだ。

 他の誰でもない、自分自身の為だけに。


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