眠り姫と王子様

怠惰な猫

うさぎ少年は眠り姫の夢を見る

うさぎ少年と眠り姫

プロローグ

今日もまた、花を持って、彼女のいる屋敷へ向かう。

彼女は今、どんな状態なのだろう。

笑ってる?

それとも、泣いてる?

泣いていて欲しくはないな。

せめて、楽しい夢を見ていて欲しい。

彼女に会いたい。

でも、彼女に会うことは出来ない。

合わせる顔がないというのもあるし、そもそも…彼女の家族が許さない。

これは、僕たちのせい。

だから、強気に出ることなどできない。

出来るはずもない。

どの面下げて、そんな厚顔無恥なことが出来ようか。

もし仮に、此方の方が身分が上であり、僕が彼女の婚約者であるという紛れもない事実を盾に、僕が迫るとしよう。

そしたらきっと、彼女の家族は…被害も気にせず、全力で反抗する。

最悪、一家心中をしかねないのだ。

そのくらい、彼女の家族は彼女を愛していて…僕たち王家を憎悪している。

でも、僕も、を憎んでいる。

ふとした瞬間、暴れ出しそうになるのを抑えるのに苦労するくらいには。

ずっとずっと、後悔している。

何故、もっと警戒しなかったのか。

何故、あいつの近くじゃなくて、僕たちの近くに来てもらっていなかったのか。

何故、あいつじゃなくて、何の罪もない彼女なのか。

何故、何故…と。

でも。

幾ら考えても、もう遅いのだ。

どれ程過去に戻れたらと望んだことか。

でも、人の身にそれは不可能なのだ。

それにもし…もし、僕が過去に戻れたとしてもだ。

また元の時間軸に戻るなど、過去を変えた時点で不可能である。

その上、そもそも過去の僕と今の僕、どちらも本物の僕であるが故に、出会ってしまった時、僕という存在の定義があやふやになってしまうか、世界が同じ人間が2人いるというのを許さず、強制的に排除されるか、はたまた別の理由か。

分からないけれど、ドッペルゲンガー現象が起きて死ぬ確率は高いだろう。

別に僕はどうなってもいいけれど、もしそれに彼女が巻き込まれたら、なんて考えると…恐ろしくて出来ない。

だから、替わりに、彼女を起こす方法を探している。

今のところ、見つからないけれど。

きっと、あるはず。

だから、落ち着かなければ。

そう考えるのに、気が急いてしまう。

彼女が今の僕を見たら、何と言うだろう?

“バカね”

なんて笑うだろうか。

それとも。

“心配してくれてありがとう”

とでも言ってくれるだろうか。

ああ、彼女のことを考えていると…益々会いたくなってしまう。

彼女と会った当時は、こんな気持ちになるなんて、考えもしなかった。

目を閉じて、思い浮かべると、その景色が脳裏にありありと浮かび上がってきた。

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