俺は笑顔《タダ》で魔法少女を酷使する
坂ノ木 竜巳
紅蓮の魔法少女
プロローグ: これが私のご主人様
ーー街が燃えている。中華料理屋が入っていたビルが、火の不始末が原因で燃え広がったとかそういう日常を壊す悲劇を通り越して、文字通り街の全てが燃えていた。瓦礫と化したビル群から上がる真っ赤な炎が天を焼き、煙が夕日を隠した。
そんな世界の終わりのような景色には目もくれず、動揺する心をひた隠し、私は煙で遮られた眼下に必死で目を凝らした。
ーーどこ?あれだけ大きいんだ、探すのに苦労は……。
「ーーーーーーーーー!!」
大地を揺るがす低い唸り声が響き渡り、煙の中で大きな影が蠢いたのがはっきりと見えた時、私は既に動いていた。何でもない空気を、まるでそこに壁があるかのように私の白いブーツが蹴り、重力に逆らわず、寧ろ加速して地上に落下しながらトドメを決めに行く!
右手に握ったステッキがルビー色の輝きを放ち、即座に魔法陣を組み立てる!
「我、放つは炎獄を咲かす━━ってきゃああああああ!!」
いきなり煙をなぎ払い、根元から折られた高層ビルが詠唱中だった私に飛んできた!!
こんなもの、ステはINT《知力》に極振りの、か弱い魔法少女である私が防げる訳が無い!!
「ぐぐぐうぅぅーーーー!!!」
なんとか直撃を避けた私だったが、凄まじい風切り音を立てて彼方に飛んでいくそれが生み出す衝撃波に、枯れ葉のように遥か遠くに吹き飛ばされた。
たっぷり30秒ほど経ってようやく遠くに落下したビルが轟音を立てて崩れていく。
その衝撃は凄まじく、私のお腹を激しく揺さぶった。
ーーあ、さっき飲んだLサイズのバニラシェイクでそう。
幸いだったのはそのお陰で瓦礫の下敷きになる事は避けられたことだろうか。いや、この悪夢が続くことを考えれば、不幸なのか。
積み木のように積み重ねられたビルの山の上に座り込んだ私の目の前で、燃え上がる街から、バケモノがぬっとその姿を見せた。
駅前にあった80メートルを越えるゆるキャラの像をワニのような口で軽々と咥え、翼竜のような翼が付いた前足で、僅かに残っていたビルを薙ぎ倒しながらやって来る。
その爛々と光る8つの目は、しっかりと私を捉えていた。
…………………。
いやー、うん。
無 理 だ ろ
え、こんなバケモノ共とこれから戦かっていかなきゃいけないの?不幸以外になんなの?
何より、例え万が一、こいつを倒せたとして。
あんなヒ・ト・デ・ナ・シ・にこれからも使役されてしまう事を考えれば。
いや、でも、もしかしたら、流石にこれはアイツだってーー。
「負けちゃダメだっキュ!頑張れだっキュ、未紅みくちゃん!」
その時、手にしていた魔法のステッキから声が聞こえたかと思うと、グリップの根元にあるルビーから輝きが放たれ、一つの形を作った。
光が収束した時、そこにいたのは三頭身のずんぐりした体、テディベアのような丸い耳をした、
何も知らないいたいけな少女なら思わず「可愛いーー!!」と叫んでしまうであろうぬいぐるみがいた。
「大丈ブイ!! 君ならやれるっキュ! 選ばれた魔法少女である
つぶらな赤い瞳で私を見ながら、短い腕を振り上げて、そいつは甲高い声で、そう叫んだ。
いやいやいや、いつも私に言ってることと違うよ?!
「い、いやー。あんなに大きいんだよ?あんなのに比べたら私なんて、アリみたいなもんだよ。どう考えたって勝てっこなーー」
「キュウン!!」
私の必死の説得をこいつは可愛らしい鳴き声をあげて遮った。思わず顔を引き攣らせる私に、赤い瞳を閉じ、ニッコリと笑い、そして言った。
「いいから働けよ」
「……はい」
そうだ。分かっていた。こいつはこういう奴だ。この愛らしさにコロリと騙され、契約内容をロクに確かめずに、関係を持ってしまった過去の私を呪う。
そう、これが私の
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