第3話 亀裂


「今回、君たち与えられた任務は敵攻撃基地の破壊、及び占領だ」

「占領するのに破壊する必要性は?」

「このゲームの仕様上、別の軍が作成した設備は使用できないようになっている。そのため破壊した後新しく作るという方法を取らざるを得ない」

「なるほど」


 薄暗い会議室、招集されたクリーガーとクレストは新しい司令官とブリーフィングを行っていた。


「目標はゴーズタウン北東部に位置する、英、露の共同戦線基地だ」


 ヒュー、とクリーガーが口笛を吹く、共同戦線という事は、同時に2つの国に喧嘩を売ることになる、それはつまり。


「敵の配置や大まかな規模は?」

「3個大隊に戦車8両、機関砲にオートタレット、それに、最新鋭のドローンもある」

「俺たちは陽動ってことですかい?」

「そうだな、少なからず。今回の作戦では同時に3方面へ攻撃を向ける、だが攻撃する相手は共に英、露のどちらかだ」

「おまけに援軍も期待はできない」

「気に食わないか?」

「俺たちは懲罰部隊だ、罪に対する精算方法は、俺たちじゃなく、あんた達が決めることだ」

「そうだな、詳細を教える」


 そう言って司令官がリモコンを操作すると、壁に敵の使用武器、駐屯場所、などが鮮明に投影された。


「英、露と言ったが、大した規模ではない。ゴーズタウン北東部の富裕層地帯の家を占拠しているだけなのだが」

「ゴーズタウンの特徴である、富裕層地帯特有の坂か」

「そうだ、くねくねと迷路のように入り混じわり、道に迷ったら最後、高所からの狙撃や砲撃、ドローン攻撃に狙い撃ちされる」

「? なんでマップがあるのに道に迷うんだ、おかしいだろ」

「そう、そこが奴らの賢い所だ。生還した斥候からはジャマーが至る所に設置されているらしい。一定範囲以内に入ると通信機器、マップ機能が全て遮断される」

「長距離狙撃によるジャマーの破壊は?」

「不可能だ、ジャマーの形状も不明な上、全て富裕層の建物内にあると思われる」

「ジャマーの設置範囲は?」

「一般人の侵入を防ぐための警戒エリア判定が辺り一体に制限線が設置されている、その範囲内全てと考えて差し障りないだろう」


 全ての軍事機材、防衛設備が整った上に情報戦を不可能にするジャマーの配備。

 アナログな方式だが、地図を使う他ないだろう。


「下水道やマンホールの位置を見れる地図はあるか?」

「クリーガー、いくらなんでもそんなものはゲームの中でもないだろう」

「あるよ、ただそこに敵が配置されてないとも限らない」

「本隊の作戦開始時刻は?」

「今から8時間後、フタマルサンマルだ」

「わかった、それまでには突入を開始しよう」

「おい! クリーガー! いくらなんでもむちゃくちゃだぜ今回は」

「俺たちの罪はこの軍で精算されなければならないものだ、いい加減腹をくくれクレスト。この任務が通達された以上、俺達には決定権も拒否権もない」

「っ、それはそうだが」

「いい心構えだクリーガー、俺は付近での監視及び司令を下す」


 ※


「さてと、ゲームの中へとダイブしますか」

「俺たち3人はともかく、他の奴らはあっちでの実戦経験は?」

「俺とバビロンはお前と同じ頃に1度」

「私は初めてです」

「キャッキャッ、お姫様の護衛が必要だなぁクリーガー? ケッケッケ」

「その点に関しては司令官の指示に従う、クイーンに関してはこちら側の人間とは思えん」

「ま、衛生兵に出来ることなんてゲームの中じゃ限られるがな」

「無駄口はいい、お前ら準備しろ」


「ダイブ開始っ」


 ※


「全員無事にダイブ出来たな」

「こ、これが現実じゃないんですね。こんなに本物のようなのに」

「お姫さんは俺達となれることに専念しますよー、隊長殿の足を引っ張るわけには行きませんからね」

「は、はい!」


 そういってヘカテーとクイーンを連れ、ヴィジランテは演習場の方へ走っていった。

 残された5人はというと、何をするでもなく司令官の到着を待っていた。

 数分して軍事用トラックが1台近くに走ってきた。


「ベージ隊。こっちだ、武器と弾薬を支給する」


 トラックから降りてきたのはクリネンス、というID名の男だった。

 サングラスを付けた半袖に迷彩柄の長ズボンを着用した、その男は、現実とは欠片も似ていないアバターだった。


「AKにM4、手榴弾にスモークグレネード、ボマーには特別にC4を用意してる」

「俺の頼んでたコルト44マグナムは?」

「今パーツをかき集めてる、出発までには用意できるだろう」


 ゲームのシステム上武器や手榴弾はインベントリに入れることが出来ず、武器の重量などによって移動速度の低下、上昇などもある。


 肝心の装備スロットはヘビーウェポン、メインウェポン、サブウェポンの3つ飲みとなっている、スキルによってはヘビーをふたつ持ったり、メインを2本持ったりと様々な特権がある。


 ただスキルの取得方法は不明でゲーム開始時に初期から取得している能力以外では今のところ公式には発表されていない。


「再び言うが作戦開始は8時間後、それまで正規隊の邪魔にならない場所で待機又は打ち合わせでもしていろ」

「了解です」

「クリーガー、リッパー少しこっちに来い」


 クレストに呼ばれ仮設テントの中で操作練習をしていたクイーン達のテントの入口へと呼ばれた。


「今送るデータを見てくれ」


 腕部に着いている装備から空間へ画像が表示される、網膜に直で見せるタイプとあるが、リッパーとクリーガーは使用していない。


「これは?」

「ゲーム内で流通してるジャマーだ、初期からある良い奴だ」

「なんか特徴はあるのか?」

「何も、サイズが大きければ大きいだけ妨害範囲が広かったり、耐久値が高かったりだ」

「目視できなかったっていう点を考えるとサイズは小さい、だが、建造物に隠せるようなサイズのものは流通してる中にはない」

「とするとオリジナルで作られた第ジャマーになるってことだ、作りは簡単だからな技術者が居ればいくらでも試行錯誤して作れる」

「あー、おらぁさっぱりだお姫様のとこで暇つぶししてるよ」


 リッパーがいつもの調子で薄ら笑いを上げながらテントの中へ入って行く、基本的にはいつも通り、頭脳戦は得意分野のクレストと隊長のクリーガーに必然的に回ってくる。


「ったく、あいつは」

「問題ない、いつも通りだ」

「それでな、作る為の材料としては通信妨害機能とバッテリーだけだ」

「それで作れるなら兵士全員に携帯させてる可能性もあるな」

「そもそもたった一つの拠点にここまでの設備を置く自体おかしいんだがな」

「拠点以外の何かを守っているなら、辻褄は合う」

「住宅街の奥になんかあるってのか?」

「下かもしれないしな」

「俺たちは少し早く出たほうがいいかもな」

「クイーンのことか?」

「それもあるがな、チームワークができてない今、チ-ムで動くのはリスクのほうが高い」

「ないなら、作ればいい」


 クリーガーがテントの中へ入り進捗を確認した。

 初ダイブ者はクイーンとヴィジランテの2人。


「お前らどんな具合だ?」


 クリーガーについてきたクレストが3人の様子を聞いた、見た感じはクイーン以外は平気な顔をしている。


「なんで皆さんはそんなに動けるんですか?」

「慣れだよ、スタミナとヒットポイントが出てるっしょ、スタミナが3割切ったら派手に動かない!!」

「実戦では武器の重量もある。クイーン勝手が変わるから注意しろ、10分で出発する」

「「ええっ!?」」


 信じがたい発言がクリーガーの口から飛び出た、まだ30分も経っていないというのに、出発の合図を出している。


「流石にそりゃきついんじゃないのか」

「きついだろうな、でもクレストの懸念していることを解決する方法を思いついた」

「クイーンお前はここに来た時なんて説明された」

「ええっと、なんていえばいいんでしょう。男だらけの場所だから気をつけろと」


 今の一言を言う間にクイーンは瞬きを12回、体を数回もじもじさせた。

 そしてその行動をその場にいた全員が見逃すことはなく、一斉に視線クイーンを向けた。


「な、なんですか??」

「なんでもない、といいたいが」

「そのキョドリ何回めよお姫ちゃん」

「な、な、なんのことですか」

「疑うのはやめろ」

「でもよぅ、隊長」

「やめろと言ってるんだ」


 クリーガーがヴィジランテに向け腰の銃を頭に向けた、ヘカテーが銃を引き抜こうとしたが、すでにクレストが止めていた。


「バビロン、ボマーお前らはこっちにくるなよ」


「なにかトラブルですか!」

「やめとけバビロン、やつに従うのは癪だがなあいつらはいま大人のお話中だ」


「すこしは察しがよくなったなボマー」


 笑いながらクレストがボマーへ返答する、仲が悪いからだろうか皮肉そうに笑っている。


「てめ、この野郎。黙ってきてりゃ、お前はそもそ—」


 通信が切られたプツリと、クレストが通信を切ったのだ。


「あいつこら、乗り込んでやろうかな」

「止めておきましょう、通信越しでも緊迫してるのがわかりますし、盗み聞きでもしますか?」


「何のまねっすか、隊長さん」

「隊長命令だ、黙れといっている」


「ですってボマー」

「わーってるよ」


「知ってるでしょ隊長さん、俺らにはその行動だけでも死に繋がるって」

「その程度で死ぬならお前はその程度の人間だってことだぜケッケッケッ」

「冗談きついぜリッパーさん」

「や、やめてください話しますから、私本当のこと話しますから!!」

「お前も黙れ」

「はい、黙ります。はい!」

「クリーガー、10分だ」

「わかってる」


 銃をホルスターにしまい、ヴィジランテに背を向ける。


「撃たないっすよ俺は」

「好きにしろ、ただこの件は二度と触れるな、バビロン、ボマーお前達もだ」


「了解です隊長殿」

「了解しました」


「寿命が縮む思いだ」

「すまんなヘカテー、あれがうちの隊長流だ」

「ヘッヘッ、心配しなくても味方に引き金引くようなたまじゃねーぜうちの隊長は」


 ケラケラとリッパーが笑う。だが、クリーガーの口笛がなることは無かった。


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