悪党が、正義のヒーロー始めました
箱丸祐介
第1話代理戦争
はい。完結作品を1作も作らないで有名な箱丸祐介です、今回はまた新作。
なれない三人称の小説を描きました、誤字脱字はオプションです、不治の病です。
これだけは一生治りません、治ったらなんでもしてやるよ(なんでもとはいってない)
※
数十年で進歩した人類の技術は人を現実ではない世界へと駆り立てるきっかけになった。
そして、技術の進歩は人類を現実から離れた世界へそして地球を汚さないクリーンな戦争へと駆り立てた。
※
「♪~~~~♪~~~♪~♪」
呑気な鼻歌が刑務所の奥深く牢屋の中から響いていた。
「いつも通り機嫌がいいねぇ、200人近く殺した極悪人さんよぉ」
「この刑務所の最下層に居る時点で俺たちゃ全員極悪人だけどな、キャッキャッキャ」
「うるさいぞ! 囚人ども!」
口笛を吹いていた者の他に男の囚人が二人、そして看守の声がここ、世界一強固な地獄門(じごくもん)監獄の最下層に賑やかに聞こえていた。
誰かの処刑の日が来るまで、それは続くものだと思われていた。
※
「ベージワン列車運転席に到着」
豪雨が降る真夜中、走行中の列車の屋根に人影が2つ、貨物の中身を我がものにしようと強奪を試みていた。
「ベージツーも目標地点に到着、警備の無力化はいつでも出来る」
「ベージスリー目標地点到着だ、いつまでこんな言い回し使うんだ? ケラケラ」
無線越しに聞こえる聞きなれた声に耳を澄ます、列車強奪なんて大それた事賞金首だった俺達には普段なら出来なかっただろうな。
「作戦内容の再確認をするぞ、3分後通過予定の線路をベージスリーが爆破。2分で警備と汽車長を無力化し、目標の貨物車を列車から切り離す。6分後に来るヘリに貨物を乗せて撤収だ」
「べージツー了解」
「ベージスリーも了解だケッケッ」
口ずさむ口笛は列車のエンジン音と雨の音にかき消された、耳に響く自身の口笛が暗い過去の記憶を蘇らす、血の海の中一人だけ生き残った時のことを。
「ベージスリーからワンへ、目視で列車が確認したぜ」
「相変わらずご機嫌な口笛だな」
「口笛はクリーガーの代名詞だからな、許してやれよケラケラ」
「お喋りはおしまいだ」
「ヘッ、爆破するぜぇ」
予想以上に大きい爆発により300m程先の線路が爆散した。
「ベージツー、無駄な死人は出すな。ベージスリー火薬が多すぎだ」
指示を出し、止まった列車の機関室へと入りドアの開く音に気が付いた汽車長の首へ持っていた鈍器で強打した。
「妙だな」
「そっちもか?」
「ベージツー、ベージスリー積み荷の確認を急げ」
意識のないと思われる汽車長の姿には本来あるはずのものが無かった、なくてはならない物が。
「金や銀、骨董品とか俺らにはわからん美術品ばかりだ」
「それが目標で間違いないだろう、ヘリが来るまでに連結部を破壊しておけ」
「こちらドラグーン、あと1分で到着するが、レーダーに不審な歪みと機影を確認、そちらから確認できるか?」
「こちらベージワン残念ながら、雨でろくに空を見れない上に雨音でヘリの音も聞こえないな」
「俺たちは目標車両のそばに居るが、こっちも同じ状況だ確認はできない」
レーダーに映るヘリが、目視では確認できない、しかも天候は豪雨。
「どうせ輸送機だ、ろくな兵器も積んでないんだろう?」
「もちろんだ、こちらの任務は回収だけだからな」
「この作戦自体陽動で、他で作戦があるって可能性は? 俺たちは元々捨て駒な訳なんだし」
「可能性は低いな、基地の連中は休息を取ってたし、なにより、この作戦のクライアントはアフリカの金持ち連中だしな」
NPCからのクエストのようなものと言えば分かりやすいだろうか、今回は実際にNPC(ノンプライヤーキャラ)から依頼を受け、この世界に慣れるためのウォーミングアップとして俺たちベージチームが任務(依頼)を遂行していた。
ベージ隊、別名懲罰部隊として招集された3人はいずれも終身刑、又は死刑が確定されている3人だった。
[こちらドラグーン、緊急事態発生! 正体不明の戦闘ヘリから攻撃を受けている!]
慌ただしく入った無線からはその場にいたベージワンのみが予想はしていた、最悪のケースだった。
「何かの陽動である確率に今日の飲み代賭けるぜ、ケッ」
「同じく」
「敵にとって取られちゃいけないブツだったんだろうな、この列車には」
[ベージ隊! こちらドラグーン! こちらは数発被弾した、もう持ちそうにない!!]
味方の陽動作戦でも、何かしらのゲームシステム的なランダムイベントでもない、その結果から導き出される答えは。
「罠だな」
「だろうな、今調べたがこのミッション事態元々が危険度の高いらしい、たった数時間で大量の武器弾薬が手に入るから狙われやすいらしい」
「俺たちはまんまと上の作戦に乗せられて、軍の目を向けさせられたってことだな」
「ケッ、気に食わねーぜ。俺たちゃ所詮捨て駒かよ」
「懲罰兵が何言っても関係は無いだろうからな」
「ま、そんな不測の事態に備えてAAM(アンチエアミサイル)を持ってきたんだがな」
持ってきた、というよりはくすねてきたAAMを、ベージスリーは構え始めた。
だが、生憎の悪天候、ヘリのエンジン音もしなければ射撃音すらもしない、視界が悪く目視も出来なければ、ロックして放とうにも敵味方の識別も不可能。
だが、ここはゲームの特権、MAPシステムがあった。
「攻撃されるまでMAPにも映らなかった、ただし攻撃ヘリ、コマンチか?」
「ドラグーン、列車を中心にしてどっちの方角にいる」
[東だ]
「ダメだな、方角だけじゃ判別できん。詰めが甘いなクリーガー」
「さっさと落とせベージツー」
「早くしねーとドラグーンが消し炭になっちまうもんなー、ケラケラ」
「せっかくのAAMも役に立たずか」
「こっからは運任せになるが、ドラグーン列車の上ギリギリを飛べるか?」
[あまり操縦に自信はないんだがな、死ぬよりはマシか]
「死んでもゲームだぜ、兄貴あんた達からしたらな、ケッケッ」
「··········、クリーガー、戦闘ヘリのコックピットを1発で撃ち抜く事は出来るか?」
「可能だ。だが、どうする列車から西側は山だ」
「ドラグーン、ヘリの操縦歴はどれくらいだ」
[半年だ、こっちでだがな]
「てかよ、ロックオンしたら警告なるんじゃねーのか?」
[あっ]
「あっ」
「この天候じゃ当たる確率の方が低い」
「·····20秒くれ、銃を組み立てる」
「了解、こっちはロック付けて的を絞っておく。ドラグーン、警告が鳴ったら教えてくれ」
[了解した]
ホルスターからリボルバー取り出し、慣れた手つきでスコープを取り付け、弾薬を特注弾に変えていくクリーガー。
ヘリに標準を合わせある程度の的を絞っていくベージスリー。
やることが無く積荷を漁るベージツー。
「終わった」
「こっちも的に合わせたぞ」
[このままそっちに突っ込めばいいのか?]
「いや、AAMの射線上に出ないようにそのままクルクル回り続けてくれ」
[了解した]
雨が少し小雨になり、それでも大雨であることに変わりはないが、少しずつヘリの音が聞こえるようになってきた、少なからずドラグーンは列車に逃げるように近づいてきていたのだろう。
「やるぞ、クリーガー」
無言の意思疎通が、たった1人の、死んでもいい駒のために放たれる。
「3.2.1」
ベージツーがAAMの引き金を引き、当たりはしないロケットの弾頭が、火の光を発しながら敵の戦闘ヘリに進んでいった。
小さな光が空へ飛び、2つのヘリの影を移す。
その刹那、たったの一瞬の時間で放たれたクリーガーの弾丸は、ヘリのコックピットを撃ち抜いた。
MAPからプレイヤーアイコンが消えた、それは目視できない相手との戦いに対する勝利を意味した。
「グッドキル、クリーガー」
「···············」
「こっちは全部1つのコンテナに荷物積み込んだぜぇ。ヘッ、殺人鬼の名は伊達じゃねーか、クリーガー《戦士》さんよ」
[た、助かった]
「命を助けた代わりに、このAAMはたまたまそのヘリに積んであった忘れ物って事にしといてもらってもいいか?」
[それくらいなら、協力しよう]
「ていうか、そのヘリ1台でこんだけのコンテナ運べるのかよ、俺の知ったこっちゃねーけどケッケッ」
[その辺は問題ない、パワーならあるヘリだ多少損傷していても君達3人とある程度の積荷なら運べるさ]
「こりゃ。墜落不可避だな。ケラケラ」
※
「今回の作戦、よくやってくれた。と言いたいとこだが」
ゲームの中から戻り、意識がはっきり現実世界へ戻り始めた後、呼び出され、3人があくびをしながら司令室へと呼び出された。
眉を顰める司令官との対面。ただベージ隊全員の死を望んでいる彼からすれば、結果は芳しくないと言わざるを得ないだろう。
ピザ体型の司令官は、小言、無茶ぶりいつ間にか消えてる、の三拍子を兼ね備えてるんだろう、@ピザっと。
「AAMの無断使用、輸送ヘリの予想外の損傷、そして、敵との交戦」
「然るべき対処を施した交戦です」
「言い訳は聞いていない! 次の作戦まで独房にて頭を冷やせ!」
「··········、了解しました」
ベージ隊の面々全員が雲一つない表情を浮かべていた、これが現実だ、どれだけの功績をあげようと、勲章はない。
因数外の戦力としてこき使われるだけ使われ、責任は全て押し付けられる。
※
「まーたここに逆戻りか」
「ま、どの道俺たちの家はここだしな、ケラケラ」
ベージツーの笑い声、そしてクリーガーの口笛が、今日も地下深く監獄の中で響いていた絶えることなく、眠れない時間が。
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