26話8Part Fake World Uncover⑧

「あれ、この程度?」


「あんたが刺したんでしょうが!!」



 初めは拮抗していた鐘音と聖火崎だったが、途中から聖火崎が徐々に押され始めた。


 それに若干拍子抜けした鐘音が真顔でさらっと煽り、聖火崎は思わず言い返す。


 ......聖火崎本人にいくら痛み耐性があっても、背中からぐっさりと深く刺された直後にぐっと力を入れ続けるのは無理だったらしい。


 そんな中、聖火崎はふと鐘音の攻撃の手がゆるんだのを感じ、その刹那で弾き返した。



「......あんた、なんでそっち皇国についたの?」


「は......?」



 そして、自分でも意識する前に、そう訊ねかけていた。


 単に疑問に思ったのと、今聞くべきだと直感したからだ。



「だって、あなたに皇国政府や聖教側につくメリット、ないじゃない」


「......」



 鐘音の沈黙に、聖火崎は困惑の情を感じ取った。


 その瞬間、微かにだが、鐘音の顔に怒りの表情が浮かんで、消える。



「そんなの、どうだっていいでしょ。聖火崎には関係ない」


「そうね、私には関係ないわよね。......でも、」



 聖火崎がその次に口にした言葉に、鐘音ははっとした。



「......目の前であんな事があって、帝亜羅ちゃんはさぞかし傷ついたでしょうね」


「......!」



 ......分かってはいたのだ、自分でも。



「っ、黙れ!!」


「ふっ」



 だからこそ、聖火崎に改めて言われて腹が立った。



「......っは、なあに?本当のこと言われて腹でも立った?」


「っ!!黙れええええええええええ!!!!」


「おっ、と......ってて......」



 聖火崎の煽り返しにも、鐘音は易々と乗ってしまった。再び爪で聖火崎に切りかかり、聖火崎もまたそれを聖剣で防ぐ。


 やはり先程までと同じように、鐘音が若干先んじていた。が、



 ギ、ギギ......



「よっと、せおらっ!!」


「ぐっ、」



 キィンッ......



「......ははっ、本気出せてない、じゃない......」


「っ......」



 垂れる血と荒い息をそのままに、聖火崎は鐘音の方を見遣ってから、笑みを混ぜつつそう言う。


 東京の街並みをバックに飛んでいる鐘音は、頭には鐘音......ベルゼブブが元々持っている角と触角があり、右手のみが悪魔型の際と同じように黒く硬質化し、指は爪と化していた。尻尾もある。ただ、それ以外は人間の時の、普段の鐘音と何ら変わりないのだ。


 ......つまり、今の鐘音は、完全な悪魔型に戻ってはいない。


 それが、鐘音が本気を出していない何よりの証拠であり、聖火崎にそれを察された理由でもあった。



「......だって僕は、元々......お前らの味方じゃ、なかっただけ、だし......」



 痛い所を突かれたらしい鐘音は、分かりやすく何もかもの勢いを失っていく。


 そんな尻すぼみな台詞は、海風に打ち勝ち聖火崎の耳に最後までしっかりと届いた。



「そ。私達とは元々仲間じゃなかったのね。......じゃあなんで、私をグサッと一気にれないの?」


「っ、それ、は......」



 聖火崎からの問いかけに明らかに動揺した鐘音は、しっかりと見据えていた聖火崎の姿を視界から消して俯いた。



「ねえ、鐘音」



 項垂れたまますっかり固まってしまった鐘音にゆっくりと近づいて、警戒を解いて......はいないが、聖火崎は静かに話しかけた。



「......私はね、こっち日本に来てからのちょっとの期間、それなりに楽しく過ごせたと思ってるのよ。そりゃあ、襲われたり戦ったりだってしたけど、それ以外の楽しいことをした時間は、嫌な時間とは比べ物にならないほどあるし......仕事だって楽しいし......」


「っ、......」


「でもね、それだけこっち日本での時間を楽しく過ごしてる私には、日本で、まだ友達って呼べるほどの仲の人はいないの。それに、仲間もこっちに固定でいる人はいないしね」


「......」


「............、............あなたにはいるじゃない。友達が」


「っ、............!」



 聖火崎の、まるで幼子に語りかけるかのようにゆっくりと紡がれた言葉を受けて、顔を上げた鐘音の目の前には、



「......な、んで......」



 どういう訳か、自身で飛行魔法フライを使って浮遊している、帝亜羅てぃあらがいた。



「鐘音くん」


「はっ、はいっ......」



 鐘音の返答が驚きと、申し訳なさその他諸々でつい敬語になってしまったのは無視して、帝亜羅は続ける。



「私ね、すっごく傷ついたよ。さっきの」


「ご、ごめん、なさい......」



 ぽろりと口から出た謝罪の言葉と共に、鐘音は頭を垂れる。



「でもね、なんでか分からないけど、怖くはなかった」


「すみま......え?」



 帝亜羅の顔に、夜の光と影をまとめて包み込む、月光のような優しい笑顔が浮かび上がる。



「......だって、鐘音くんが私たちを心から敵だって思うことないって、信じてたから」


「てぃあ、ら......」


「鐘音くん、何か理由があったんでしょ?私たちに、銃を......武器を、向けた理由が、」



 不意に切られた帝亜羅の言葉の後、



「っ............へ、」



 鐘音は、帝亜羅に抱きしめられていた。



「っ、」



 ぎゅっと、強く抱きしめられ、鐘音は微かに身じろぐ。



「だから......私、鐘音くんのこと、好きなままでいるよ」


「え、」



 唐突な告白に、鐘音ははにかんで声を上げた。


 帝亜羅の温かさと恥ずかしさに影響されて頭がふらふらとしているが、鐘音は帝亜羅の話に必死で耳を傾けた。



「鐘音くんが私たちに銃を向けなくちゃいけなくなった理由は、私には分からないし、今の私にはまだ、知るには早いことだと思うの。それに、」


「......、......」


「鐘音くんがまだ、私たちのこと友達だって思っててくれてるから、そんな理由なんてどうでもいい」


「な、なんでそう、思ったの......」



 鐘音の言葉が疑問の意味を含む前に、帝亜羅の述の先は紡がれる。


 いつの間にか、帝亜羅は鐘音の手を握って、さっきと同じように鐘音の目の前に浮かんでいる。



「敵の人達の中で鐘音くんだけ、私たちのこと本気で殺そうとしてなかったから............ううん、違うね。殺そうとしたってどうしてもできなかった、でしょ?」


「......な、んで......」


「簡単だよ。私たち、今、生きてるもん」


「......!」


「だからだよ」


「........、」



 朗らかに笑う帝亜羅を、鐘音は直視する事ができないと今、初めて自覚した。



「みんなのところに、帰ろう?」


「う、うん......「後ろっ、危ないっ!!」


「「っ!?」」



 鐘音の手を引いて帝亜羅が地上に戻ろうとした時、聖火崎の警鐘を鳴らす掛け声がとどろいた。


 2人が反応して後ろを振り返ると、そこには赤黒い結晶のようなもので形成された、鋭い巨大なトゲがこちらに轟速で伸びてきていた。



「《クラッシュ·バリア》!!ぐっ、」


「聖火崎!!」


「聖火崎さんっ......ひ、け、怪我してる......」



 身構えた2人とトゲの間に聖火崎がなんとか滑り込み、防護法術陣を展開させる。



「な、何このトゲ、無駄な高火力......!」



 ギリギリ間に合った防護法術陣の展開だったが、早くも破られそうになっている。ピキ、ピキと悲鳴を上げている防護法術陣に、聖火崎は目一杯神気を込める。が......



「あ、だめだこれ割れる」


「「え、」」



 聖火崎がサラッと言った事に、鐘音と帝亜羅は思わず固まる。



 ピキッ、バリッ!



「あ、割れた」



 そして、防護法術陣の短い断末魔が響き、



「危なっ」


「ぎゃああああああああああああああ!?」


「聖火崎さあああああああああああん!!」



 鐘音は帝亜羅を抱えて寸での所で逃げ出したが、聖火崎はしっかり被弾した。




 ─────────────To Be Continued─────────────

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