26話3Part Fake World Uncover③

「うおわっ、な、何だこの揺れ......」


「......外で何か......あったっぽい......?」


「こ、こわ......」



 ......一方その頃、レヴィアタンによって形成されたらしい、もう1つの異空間·クライナチャロフランドにて絶賛戦闘中......の傍らで、魔力多重結界を張って待機している望桜まお瑠凪るな帝亜羅てぃあらの3人は、一瞬だけガンッ!!ときた大きな縦揺れに、各々驚きつつも状況の把握と整理を続けていた。


 そしてその多重結界の外では、



「ちょっと何よ今の揺れ!?」


「知らない、よっ!!」


「いたっ!?やったわね鐘音!!」



 揺れに少しばかり驚いた聖火崎の隙を狙って、鐘音が魔力による硬質化によりかなり硬くなった自身の拳を打ち込み、



「さっきの揺れのせいで空間が崩壊しかけてるわよ!?貴方あなたが重すぎるんじゃなくってぇ?」


「この期に及んで人の悪口言うな!!」


「でも貴方あなたがちょうど着地したタイミングだったわよ?わたくしが見てたもの」


「うるせええええええええ!!」



 ガルダがオセの攻撃を凌ぎながら割と失礼なことを言い、オセはそれに対してイライラしつつも攻撃を止めずに繰り出し続ける。


 因みに、今の縦揺れの原因はもう"偽の日本"での葵雲による富士焼き払いなのだが、こちらの一同は知る由もないのでこの調子なのである。



「っていうかあんた、今さっき空間が崩壊しかけてるっつったよな?」



 そんな中、オセは唐突にガルダにそう訊ねかけた。



「ええ」



 そして、その問いにガルダは素直に返事する。



「なるほど、外部からの大きな魔力干渉によって空間が崩壊することは有り得る、と......つまり、レヴィアタンを倒さなくても脱出できるんだな?」



 そのガルダの返答を聞いてオセは2、3回頷くと、ガルダに対して敵対するような再び質問をなげかけた。



「..............................あ、」



 その質問の意味を頭の中で何度もよく考えた後、ガルダは小さく声を上げる。



「ふっww......あんた、案外頭良かねぇんだなww」


「うるさいわねぇ!?口を慎みなさい口を!!」


「慎んだ結果がこれだよ悪かったな」


「んもー!!なんなのよ貴方あなた!!」


「ただの若い悪魔だ」


「むきーっ!!ほんとなんなのよ!!腹立たしいったらありゃしないわぁ!!ったくもー......」



 オセによる人によっては割とぐっさりくる悪口を受けて、ガルダは無意識ながら臨戦態勢を解いてしまっている。それを知ってはいるものの、オセはもう攻撃はしないしする気もない。そればかりか、自身の掌を眺めながらこんな事を言い出した。



「......なあ、」


「あによ」


「あんたさ、次元って知ってるか?」


「次元?知ってるようで知らないわねぇ。だって、そんなに気にすることないんだもの」



 オセの問いに、ガルダは今回も素直に返事する。



「そりゃそうだよな。大体の奴らはそんな認識だ。ただ、一部の奴らにとってはこれがかなり重要な代物でな」


「どういうことかしら?」


「重力や電磁磁場、音、光とかを操る魔法や法術ってのは、他の魔法や法術よりも次元が高いらしいんだ。んで、次元が高い物は、この世の空間本体世界に与える影響が大きい」


「へぇー......で?それが何かあるのかしら?」


「ただ、そういった"高次元"の物を操る魔法や法術は、"世界"をねじ曲げるほど大きな規模になることは滅多にない。それこそ、さっきみたいに揺れて壊れの状態にすることは可能だが、完全に崩壊させたり穴を開けたりすることはできないんだ」


「......どういうことかしら?」


「魔法や法術ではなく、個人単位で有する能力。世間では異才異常な才能だの突然変異と呼ばれていたりする。まあ、それもごくごく一部の層からだから、知らない奴は本っ当に知らないんだけどな。特にここに今閉じ込められてる奴らとか、今外で何やかやしてる奴らとかも多分知らねえんだろ。......異才について知っているのは、ウィズオート皇国の約900,000,0009億人の国民のうち、およそ0.0000001%だと思っていい」



 長々と説明を続けていたオセが自身の掌を突きつけるように前に向けたのを見て、ガルダは少しだけ身構えた。



「......貴方あなた、何を隠してらっしゃるの?」


「あ?決まってんだろ。家に帰るんだよ。っつーかあんたも、薄々察してんだろ?」



 ガルダが訊ねてきたのに対して、オセはさらりとそう答える。その答えは、ガルダにとっては都合が悪い情報の暗示であった。


 ガルダの冷や汗を視界の隅に見て、青年悪魔は突きつけた手をそのままに薄く嘲笑を浮かべた。



「まあ、分かってはいるけれど......一応聞いておくわ。貴方あなた、その"異才"とやらをお持ちなのね」


「ああ、まあな。あんた、察しは良かったんだな。助かるぜ。......っつーことで、帰らせてもらうわー......高位異才術式展開、《Гравитグラニテонная·ィゾン·oперацияアティラッツェ》」


「......へぇ、驚きだわ」



 オセが小さく詠唱を唱えると、オセの直近1mあたりの空間がぐにゃりとゆがみ始め、ガルダはそれを見て感嘆ともほんの少しの遺憾とも取れる台詞せりふを吐いた。



「......なんだ、別に歯噛みも攻撃もしねぇんだな」



 そこまで残念そうにしていないガルダを見て、逆に若干の悔しさを滲ませながら呟くオセ。


 青年悪魔の少し子供っぽく見える表情に、ガルダは状況に合わないが微笑みながらその様子を静かに眺めて、長い沈黙の後にオセの言い草にこう返した。



「........................ええ。だって、する意味も、義理もないもの」


「へーぇ......っと、ねじれるまでもう少しかかりそうだ」



 それにオセは触れずに、空間捻じ曲げを続ける。が、進捗は異空間展開魔法が思いのほか強固なのか、あまり順調ではないらしい。



「あー、あいつらは戦いに夢中、残りの奴らはー......結界かなんかの中だな。その場からあんま動いてねぇから死人とかも出なさそうだし、もう少し時間はかかっても「出してあげるわよ」


「......え?」



 そんなオセの独り言に、ガルダはさらりとそう返事する。



「あんた、自分が何言ってるか......」


「......分かってるわ。分かってるから、黙って出なさい」



 ガルダの声は、敵に塩を送るばかりか、実質的に自ら仲間の首諸共ねにかかっている者の声とは思えない程、いさぎよく爽やかなものだった。



「......あんた、自分の首が飛ぶからこいつらを殺しにかかってここに入れてたんだろ?......助けに来た俺が言うのもなんだが、こいつらをあと20分ここに入れておくだけ、あんたらの命と安全な日常は保証されるんだろ?」


「ええ」


「なら......」



 オセの思わず口にした敵に対する色々な心配の言葉と問いかけに対しても、ガルダは首を横に振るばかりだった。



「いいのよ。別に」


「はぁ!?それどういう「ほら、出口は開けたわ。とっとと行きなさい」


「なっ」



 あまりにも華麗な手のひら返し。自身と仲間味方の命、反対側にオセ達の命が乗った天秤の、自分達側の皿をひっくり返すみたいに命知らずで、無鉄砲に磨きをかけたかのような行動に、オセはイライラし始めて声を荒らげるが、落ち着いたガルダの声がそれを遮った。


 まだ何か言いたげなオセの言い分の全てが音に成る前に、ガルダは口を開く。



「forced《フォウスド》repatrリペテイiationション》」


「っ」



 詠唱が全て唱えられた直後に、周囲のガルダと鐘音以外の全ての人間と悪魔がこの異空間から現実へと強制的に移動させられる。辺りはしー............んと静まり返り、その静寂に満足気に微笑むガルダに向かって、困惑しつつも不満げな鐘音が今更ながら異議を申し立てる。



「ちょっとガルダ、どういうつもりだよ」


「どういうつもりかしらねぇ......自分でもよく分からないけれど、うん............そう、ね。うん。本当に自分でも分からないわ」


「は?」



 はっきりとしない物言いは鐘音の機嫌をますます悪くさせたが、ガルダはそんなことを気にも留めなかった。静かに佇んだまま、ただただ爽やかな笑顔で偽の翠彗暁宮の時計台と薄紫色の空を眺めて、小さくこう呟いた。



「......自分1人の天秤と釣り合う1億人分の命なんて、あるわけないのよね」


「......、」



 今、そうふと思った、といった表情で空を見上げるガルダの小さなボヤきを耳にした鐘音は、その場でずっと目を伏せた。




 ───────────────To Be Continued────────────



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