26話2Part Fake World Uncover②

「さあて、君達もそろそろ限界でしょ?それに、ラファエルの方も動けるようになるくらい回復はできないっぽいし〜......ロキ」


「......、」



 妖美な笑みを浮かべながら、そのままエクスカリバーをまさに虫の息である来栖亭に斬りかかるべく再び振り上げる。そのまま宮廷魔導師......こと、金髪に紫色の瞳を持つ少年·ロキに声をかけた。


 それを受けて、ロキは今までの弾幕とは比べ物にならないほど濃い神気を使って生成した神気弾を、我厘と天仕の方に向けて構える。


 ......そして、それぞれ目的達成のための最終攻撃トドメを刺した。



「なっ、」


「......!」



 ......が、カエレスイェスが得た感触は、明らかに人っぽい生き物に攻撃した時のものではなかった。


 例えるなら、大きな衝撃にも耐えうる硬い硬い防弾ガラスに刃を突き立てたかのような......そんな硬い感触は確実に人のものではないのだが、来栖亭は何もしていないし、そもそもできるだけの神気も体力もない。


 そこでふいと横を見ると、ロキが攻撃した2人我厘と天仕もまた、来栖亭同様何もできないはずなのに、今の攻撃は命中しなかったらしい。


 そんな2人の傍らで、判り辛いが驚いたようなどこか焦っているような表情を浮かべているロキ。それは、今の謎の現象に対してのものではなく、遠方の空から近づいてくる大きな魔力反応、そして、



「......あれ、なんであの方が......?」


「あ......!」


「あいつ......ったたた......」



 カエレスイェスも軽く敬遠するような素振りを見せ、天仕はぱあっと顔を上げ、我厘は少し不機嫌そうに小さくぼやきながら、反応のある空の方を見上げた。


 その視線の先にいたのは、桃色の髪をしており日本の中では割と長身、そして、濃黄こききの瞳を持ち背に大きな2対の白翼を携えた青年だ。その後ろには、少年が機械の翼を羽ばたかせながら、じっとこちらを見据えている。



「......はあ、これだからあれほどあの方の同行も掴んだ方がって進言したのに......」



 カエレスイェスの自身の上官に対する今更な小言は、勿論もちろん役に立つ事はなかった。


 そんな後悔で軽く頭を抱えていつつも臨戦態勢を取っているカエレスイェスの目の前に、青年大天使......こと、宇左うさが、淡く光る羽根を数枚落としながらざっと舞い降りる。


 そんな宇左は脳天気で比較的朗らかな彼にしては珍しく、怒りの表情を浮かべていた。



「......一体、何があってこんな事になっているのですかな?プテリュクス騎士団団長、カエレスイェス」


「べ、弁解のしようもないです。大天使、ウリエル様......」



 般若と形容してもあながち間違いではない、なんとも恐ろしい表情に見合った冷たい声で訊ねられ、カエレスイェスはあからさまな期待の笑みを顔に貼り付けて返事をした。



「まあ、今のやつがれには君達の目的を邪魔する予定も義務も義理も気もないのですがな」


「そ、それはそうですよね......」


「......ただ、やつがれの目的は、ただここにいる全員を生き延びさせること」


「そ、そうですk......え、え!?」


「彼らをここから解放してやって欲しいのです」


「な、何言ってるんですかウリエル様!!」


「だから、彼らをここから解放してやって欲しいと言っているのですぞ」


「血迷ったんですか!?」


「別に血迷ってなどおりませんぞ?」



 ......が、宇左がふっと怒りの表情を崩した後に言い出した事で、カエレスイェスはその期待の笑みを見事に崩壊させた。



「な、なんで大天使である貴方あなたが......」



 その理由は、聖教教会で信仰の対象となっている、神に使える存在の"天使"であるはず......というより確実に"天使"であるウリエルが、



「教会に......神に背くような真似を......?」



 "神"からの言伝の内容に沿った事を行っている聖教教会と皇国政府に逆らうような発言をしたから、である。


 大天使が神への背徳にも値するような事を言っているのに困惑して固まっているカエレスイェスを他所に、宇左は気息奄奄な来栖亭に手早く回復魔法ヒールをかける。



「げほっ......けほけほ、助かった......ウリエル、殿......」


「お礼は後でで結構ですぞ、ラファエル」



 その数秒後に軽く咳き込みながらゆっくりと体を起こし、来栖亭は宇左の方に顔を向けて小さく礼を告げた。宇左はそれに対して会釈しながらも、来栖亭が無事そうなのを確認してふっと笑みを零した。



「それはそうとラファエル殿、」


「なんだ?」


「敵にとって、やつがれがここに来ることはかんなぁ〜り想定外だったらしいですな」


「ああ、だな。敵ながら言わせてもらうと、戦場でああなるのは敵に背を向けるのと大差ない。望ましくないな」



 すっかり平常通りになった来栖亭に声をかけながら、我厘と天仕にもヒールをかける宇左。


 薄く苦笑しながら来栖亭に確認の意を込めて、「んね?」と小首を傾げながら訊ねかけると、来栖亭は呆れた表情を浮かべながら、目の前で完全にフリーズしきっているカエレスイェスとロキをしらーっとした冷めた目で見つめている。



「......えーっ、と......」


「......?」



 うわ言のように「えっと......」や「な、なんで......」と呟きながら固まっているカエレスイェスと、想定外の出来事に何かが狂ったのか、困惑したままで我厘と天仕、来栖亭、宇左の事を見つめているロキ。


 よく分からない形勢逆転に見えるが、"天使は神に絶対服従する生き物"というのが当たり前だと幼い頃から、半ば洗脳的に思わされていたウィズオート皇国国民の内の約9割9部9厘の者達。


 その中に含まれており、更にはプテリュクス騎士団という"西方の地方騎士団=教会騎士団"に所属しているカエレスイェスにとっては、今の出来事で与えられる衝撃ショックは凄まじかった。



「あー......なんか、よく分からないけど上手くいった?ってのは理解したよ」


「予想通りではないのですがな、まあ、うん。大丈夫ですぞ。......って、フレアリカ〜、フレアリカ〜?」


「あっ......う、ウリエル?りっちゃん達も無事だ......な、なんか知らないけど助かった......ありがとう」


「別に気にしなくてもいいのですぞ」


「ところで、これからどうすればいいんですか〜?」



 そんな2人の敵を他所に、一同はやや焦りながらだが、ゆっくりと作戦会議的な会話を開始した。



「作戦は至って簡単で簡潔なのですぞ。まず〜......ここは、現実世界ではないらしいのです」


「「「あ、それは薄々気づいてた」」」


「なら話は早いですな!!ここから脱出すれば、作戦の半分は終わったも同然なのですぞ」



 宇左がさらっとそう告げると、他の4人は全員でこくりと頷いて、



「なら、さっさと脱出しよう。腹減った」


「そうですね〜、あまり時間はかけていられなさそうですし、ぱぱっと終わらせましょう〜」


「ビフテキ!!帰ったら千代と一緒に食べに行くの〜!!だから絶対にみんなで帰る!!」


「平和のための第1歩だな」



 と、各々の思った事を口にした。それを聞いて宇左はこくりと頷いて、後ろ上空で控えている葵雲の方に目配せする。



『もうやっちゃってもいい感じ〜?』


『めっぽう派手にどかんとやっちゃって下さいな〜』



 葵雲はそれを目視すると、右手に魔力を込めながらテレパシーで宇左にそう訊ねかける。それに対する宇左の返答に、葵雲はにたりと無邪気なのにどこか悪い笑みを浮かべて魔力をさらに込める。


 そして、



「高位火力攻撃魔法、《ヒートレイズ·エクスプロージョン》」


「はっ、あれ!?」


「っ!!」



 ッガガガガガガガガガガガガガガァ!!!!



「っ、」


「流石は魔王軍最高火力とも謳われる攻撃力の持ち主、尋常じゃない規模の熱線と爆発だね」



 大気が濃い魔力で満たされている魔力形成の異空間の中で、高威力の魔力レーザーがカエレスイェス達を襲った。地面の土を一瞬で1000℃超に熱する超高温のレーザーは、もはや地面を焼くのではなく溶かしてしまう程だった。


 その直前に、フレアリカ達はその場から距離を取りなんとか避難したが、魔力のあまりの濃さに全員が一瞬意識を持っていかれかけたという。


 被弾しない程度に距離を取った所で、フレアリカは魔力と爆風から逃げるように大きな木の影に隠れ、我厘は少し引きつつも感心していた。


 確実に当たった、そう確信しても大袈裟ではないほどの広範囲にわたる熱射線攻撃。その攻撃は敵に命中すれば完璧、万が一避けられたとしても陽動として機能すれば万々歳。


 そう考えて葵雲を後方待機させていた宇左は、自身の神気を用いてゲートを開き全員を連れてゲートに飛び込み、最後に、



「......死んでないけど、今は出ること最優先だもん、楽しいことはまたまた今度に持ち越しだね〜?ばいばいっ!!」



 富士山を大きなクレーターに変貌させそこそこ満足そうにしている葵雲が、2カエレスイェスとロキの生存をなんとなく察知してそう吐き捨てながらゲートに吸い込まれていった。


 その後には、



「うーわぁ......東方のときもだいぶやられたけど、あれが本気じゃなかったんだねぇ......あんなのの相手してたら、僕ら近いうちに死んじゃうんじゃないかなぁ〜ww」



 冗談にしては縁起でもない事を口にしながら、見るも無惨な状態の富士山とその周辺を眺めるカエレスイェスと、



「......、......」



 その隣で焼け焦げた自身のまとう重苦しい法衣の端を光のない目で見つめながら、



「......ウリエル、様......」



 先程颯爽と現れて、自分達が戦っていた5人を連れ出してしまった大天使の名をうわ言のように繰り返すロキが、富士山の上空から偽の日本の夜景をぼーっと遠望していた。



「あー......僕これで失敗2回目だし、流石に降格かなぁ......あーあ、他のとこで頑張ってようやっと昇格したとこだったのに〜......」



 カエレスイェスの嘆きの呟きは、誰の耳にも拾われることはなかった。




 ─────────────To Be Continued─────────────



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