18話7Part ヴァルハラ滞在1日目のみんな⑦
「門の中に入っててちょうだい。私は多分、今回はあなた達2人を庇いながらは戦えない」
「分かりました」
そう言って帝亜羅はフレアリカを抱えて近衛兵が開いた門の隙間から急いで中に駆け込んだ。館の方からは空を飛んで移動してくる皆が見えた。それから車両に乗って移動してくる者も。
「東方市街が......」
「
「全くですよ......人も大勢亡くなられたはず、この事実はたとえ天使がやった事だとしても重罪ですね」
或斗はあ東方市街の酷い有様を見て呆れたように呟き、瑠凪は興味が無いのかスマホを弄りながら適当に返事を返している。
「そうだね......或斗、防衛はするから前線は任せてもいい?聖火崎1人じゃ不安だしね」
「承知しました」
「うわ、さっさと食って屋敷に戻っといて本当に良かったぜ」
「そだね......」
「わーっ!!ぼっこぼこ、あれ誰がやったのー?」
そしてその2人の後にやってきた望桜と葵雲もまた、望桜は早く戻っておいて良かったという安堵を、葵雲はあれ程の火力を出せるほどの攻撃力を持つ者に興味を示しながら声を上げた。
「葵雲だ......ガブリエル達なんじゃない?」
「あ、街を壊したのはカマエルさんです、多分......」
「あっそ......でもま、たまにはガブの顔拝むのもいいかもね」
「戦ってるなら僕も行く!!」
「待て葵雲」
瑠凪はガブリエルが居るということを神気で感じとって、ようやくスマホを仕舞った。その横で、目の前でぶつかり合う強大な神気と金属の衝突音に期待を膨らませ、大きな機械翼を展開させ今にも飛んでいこうとする葵雲の足を望桜が咄嗟に掴んで止めた。
「ちょっとなに!?僕も戦いたいの!!魔力でドカーンってやりたい!!」
「ダメに決まってんだろ!!お前が本気出したらもっとぼこぼこになっちまう!!」
「でも......多分聖火崎
「っ、でもな......」
葵雲の言葉と現に目の前で3つの神気反応のうちの1つが既に、気圧されて逃げ回るように動いている現状に望桜は葛藤する。......相手はそれ程までに強大なのか、人類最強と言っても過言ではない勇者のうちの1人がここまで圧されている状況が一同の不安を加速させた。
しかし葵雲をここで解き放てば、普段の様子から分かるように色々と加減を知らないコイツが勢いと火力余って、街まで崩すのではないかという心配もよぎる。それを察した瑠凪が自身の手で最高位の防御陣を描きながらこう告げた。
「望桜、僕が街は守っとくから」
「本当か?」
「当たり前だろ。街は多分避難しきれてない人が沢山いるから破壊しちゃまずい、けど聖火崎には......まあ、その......」
「......?」
「死なれたら、困るしね......?」
普段聖火崎や翠川など、瑠凪の事を魔王軍の一行のように贔屓目(望桜の場合は尊い存在、或斗の場合は上司という存在、的李や鐘音にとっては格上の存在)で見ずに結構ストレートに無下に扱う勇者軍の面子の1人である聖火崎。
しかし瑠凪の意思はたとえ宿敵であろうとも、日本ではまあ仲良くしているメンバーには死んでほしくないようでたじろぎながらもそう言った。
「......わかった。葵雲!!聖火崎の加勢、頼めるか?」
「やった!!いってくる!!」
「或斗」
「では......葵雲!!俺も行く!!」
「......ねえ、なんか今凄いありえない動きしながら遠ざかってってない?」
そう言って瑠凪は気を集中させる。......さっきまでものすぐ前で戦っていたはずの聖火崎達が、気づけばかなり遠くで戦っている。これは一体......
「確かに......ってか、皇都突っ切ってねえか!?」
聖火崎達は日本の常識では、というよりウィズオート皇国や魔界の常識でもまず有り得ない動き方で西へ西へと移動していた。カクン、カクンと節々で鈍角に曲がりながらラグナロクの東側を飛行していたのだが、遂にはそのまま皇都も突っ切って西方に流れる大きな川であるアフィスロードに激しく墜落した。
「っ!!ゆ、揺れた」
「マジかよ......ここから300km近く離れてんのにこんなに揺れるとなると、でっけえクレーターが出来てそうだな。それで潰されて向こう側......アフィスロードの向こう側って確か西方の協会とオセロ目みたいに広がってる聖盤通りがあったよな!?」
「......あ、あそこ、人が沢山住んでる!!急がないと!!」
......それと同時にドーン......と遠くで銅鑼を叩くような音がして、地面がぐらりと揺れた。......かなり激しく落ちた、とそれから推測でき、西の方を見ると煙がわざと狼煙を上げているのかと思うほど綺麗に連なって天高くまで昇っている。
「......僕達も行こう」
「そうだな......
「あっ、ちょ......僕どうやって行けばいいんだこれ!?」
「......ルシファー」
「あ......」
そして飛行魔法を使い望桜が西方に向けて飛び立ち、後に残された瑠凪は自分に《・》
「あ、マモン......」
「全く......汝にしては珍しいのう。ここまで大きな誤算を......」
「うっさいなぁ......!」
ヴァルハラ独立国家の主であり7罪の一角·大悪魔マモンがやって来て、遠回しに瑠凪の事を馬鹿にしている。なお毅然な態度はそのままで、すぐ横で近衛兵と話す帝亜羅と力なく横たわるフレアリカを見やった。その間にも瑠凪はマモンに続いてやって来た晴瑠陽、雨弥、ダンタリオンを瞳で捉えた。
「......瑠凪......神気、使う......」
「あるの?」
「当たり前じゃろ、うちの倉庫には濃縮された神気と魔力が山ほどある。ほれ」
「わっ......と、いきなり投げるな!」
マモンは視線で倉庫を示すと、ダンタリオンに持ってこさせていたワイン瓶をいきなり放った。それを間一髪、地面に落とす直前になんとか拾った。その大きな瓶の中には液体状の神気が入っており、揺らす度ちゃぷちゃぷ音がなり中で液体が暴れている。
小洒落た仕様のそれを抱きかかえたまま見つめた瑠凪は、少し冷や汗を垂らしながらも小さな声で先程の皮肉のし返しをしてやる。
「......ふっ、ワインかよ」
「仕方あるまい、あの倉庫はもともとワイン藏だったのを改造したものじゃからな。違和感のないようワイン瓶に入れておるんじゃ」
「へー......ところでさ、ひとつ聞きたいんだけど......」
「何じゃ?」
「コップとか持ってきてないとこで思ったんだけど、これ1本飲むの......?」
ワイン瓶なみなみ1本入っているそれと、嫌味ったらしい満面の笑みを浮かべて佇むマモンの間で視線を行ったり来たりさせながらおそるおそる瑠凪は訊ねた。
「もちろんじゃ。汝は元じゃが大天使筆頭熾天使、それなりに神気の受容量も大きい、即ちそれを満たすほどの神気を汝が持っていけばほぼ敵無しじゃ......という訳で、」
「え、ちょ、まっ......う、げほっ、げほっ」
「これ1本......いや、受容量満タンになるまで飲んでもらう」
「っ!、ぅ、......ぷはっ!み、水責めかよ!」
「いや、単純な気遣......くくくっww」
「遊んでるだろ!!っていうか、僕の受容量満杯まで貯める必要ないだろ!!」
「くくくく......もう1度筆頭様を人間共に拝ませてやったらどうじゃ?ww」
「はあ!?マモンってば馬鹿なの!?そんな事させるわけないだろ!!がぼっ......ってかこれやめろ!!」
「嫌じゃww」
「も゙ー!!」
不機嫌そうな声を上げたが、渋々といったふうに神気を口にする瑠凪を見て満足そうな表情を浮かべるマモン。その顔に悪魔だ......こいつ生粋の悪魔だ!と内心文句を羅列しながら最後の1口を一気に呷った。
「......と、これで満杯だよ。もー......これが不純物混じりの神気だったら飲み干せなかっただろうけど......綺麗に精錬されてて助かったよ、ありがとね!」
「捻くれも程々にしておけよww」
「少なくともお前よりは素直に生きてるよ!!」
「どうだかww」
怒りに任せて若干激しめに3本目の瓶を投げ返す瑠凪に怪しげながら心底楽しそうに笑うマモンの事を頭の隅に何とか押し込んで、瑠凪は全集中で神気を集中させる。
バサッ......
「ったく......マモンには200インチのでっかいテレビ請求してやるからな!!」
「そのくらい......別に構わんぞ」
「うざ......まさに憎まれっ子世に
「まあ頑張るのじゃぞ。吾輩は館で料理を作らせて待っておるからの」
「ふぅん......
「お主、死ぬぞ?」
「馬鹿にしないでくれる?唐辛子如きじゃ死なないに決まってるだろ......それじゃ行ってくる」
「防御陣は吾輩が」
......そして背中から3対6枚の翼を展開させる。綺麗な真っ白の翼と頭上に浮かぶ白い光の輪......1部は崩れているけれども、それでもその姿は周りで"天使"の顕現を見守っている一同の想像通りでありながらそれを遥かに飛び越えたものだった。
それの直後に不満そうな顔のまま一同の方に向き直った瑠凪は、ぶちぶちと文句を言い続けながら大空へと繰り出して行った。
「......綺麗、あれが......」
「っけほ、か、天界の神である唯一神に1番近いとされる存在......熾天使ルシフェル
、明けの明星」
「っ!!フレアリカちゃんっ!!!良かった!!!」
「わっ!!てぃ、帝亜羅......」
それを眺める帝亜羅の横で、苦しげに血を吐いて起き上がるフレアリカを見るなり抱きつく帝亜羅。"わんわん声を上げて"という表現がしっくりくる様子、泣き声を響かせながらフレアリカの事を撫でる帝亜羅に、少女は色の薄くなってしまった黄色の瞳を細めてふにゃっと笑ってみせた。
「帝亜羅ごめんね、ふぅ途中でへばっちゃって......ガブの刀、痛かった......でももう大丈夫」
「ううん、フレアリカちゃんが無事ならいいの」
「ふぅね、みんなの事大好きだから、みんなを悲しませる事にならなくって嬉しい!......的李、ありがと......!」
「え、ま、的李さん!?的李さんが何かしたの......?」
そしてフレアリカの口から出てきた意外な人物の名に潤んだ瞳をそのままにきょとんとする帝亜羅。その様子を見てフレアリカはぽつりと呟いた。
「うん。的李、帰ってきてないって言ってたでしょ?まおまおの家にも居なかったし」
「まおま......うん、確かにいなかった」
「......的李がね、ふぅにスマホを買ってくれたの」
「え、そうなんだ......それが......どしたの?」
「それでね、助けを呼べたんだ。だから千代が来てくれたの」
「......?」
帝亜羅がフレアリカの言葉を受けて今さっきの事を思い返してみると、確かに聖火崎はまるであの襲撃の時、帝亜羅達が居る場所を予め把握していたかのように颯爽と現れた。迷わずこちらに向かってきて2人を庇った、フレアリカが場所を聖火崎に伝えられたからこそできた事だったのだろう。
......しかし帝亜羅はそこで1つ疑問に思った。晴瑠陽が前に使った魔法、直接脳内で
異世界で電話をかけるはずはないし、何よりあの時フレアリカは手に何も持っていなかった。なので単純にスマホで電話をかけて聖火崎にSOSを送った可能性を切り捨て"テレパシー"を使ったと仮定する。しかし魔法を使ったなら"スマホ"という日本の携帯機器を介してSOSを送る必要は無かったのでは?そう思ったのだ。......的李が赤の他人にスマホを買い与えた事実にも驚いたが今は無視だ。
「......ふぅは聖火崎の本名を知らないんだ。どうしても教えてくれないし......あ、テレパシーを使うには条件があって、」
「......」
「"最初にテレパシーを送る人が送り先の人の本名を知っている事"。でもふぅは聖火崎の本名を知らなかった、だからテレパシーは使えないの。でも......"聖火崎の電話番号"を相手にしておけば、電話番号の本名......そう言ったら変だけど、それは単純に数字の列の事だからそれで聖火崎のスマホにテレパシーを送ることが出来たんだ」
「へえぇ......よく分からないけど、なんとなくは理解した!でも......」
フレアリカの説明を聞いて"聖火崎を呼べた仕組み"を何となくで理解し、それと同時に"的李の未来予知能力の凄さ"をありありと実感した。その後に帝亜羅はしかし......と先程自分が無視した出来事を意識の壇上に再び引っ張り出す。
「でも?」
「......どうして的李さんは、"聖火崎さんの電話番号を教える"んじゃなくて"スマホを買い与えた"んだろう?」
「あー、それは......あのね、今日日本からマモンの館に来てる面子の中で、千代ともう1人、ふぅがテレパシーを送れなかった人があと1人いるの」
「......え?」
その言葉を聞いて、再びきょとんとする帝亜羅。帝亜羅もフレアリカも、全員の正体......本名を知っている
緑丘望桜は緑丘望桜。早乙女鐘音はベルゼブブ。桃塚瑠凪はルシファー、ルシフェル。望月或斗はアスタロト。御厨晴瑠陽はアスモデウス。奈津生帝亜羅は奈津生帝亜羅。......そしてフレアリカはフレアリカ·M·レヴグリア。聖火崎千代はジャンヌ·S·セインハルト。......いや、フレアリカもこの名前を知っているがテレパシーを送れなかったことから、聖火崎の本名は少なくとも
「......瑠凪、瑠凪も送れなかった」
「......え?」
これは一体......そう思ったが、ここで考えても埒が明かない。そう考えた帝亜羅は後で瑠凪に聞いてみようと思ってそっとスマホのメモアプリに入力した。この世界にとって何となく大事な事の気がしたから。
「でも瑠凪はテレパシーを送れて損はしない、むしろいつかそれができることでいつかふぅ達の助けになるって的李が考えたのかも。瑠凪の電話番号も登録してるから今は送れるし」
「そっか......」
......グラ......グラグラ......
「ぅわ、ゆ、揺れた......それに......神気の波、西方だって言ってたから東方のここにこんな強さで届くなんて......相当激しく戦ってるのかな............あっ!」
「帝亜羅?......わ、何これ......」
......そしてまだ門の横で座り込んでいる2人の少女が見たのは、西の方から赤かった空が紫色......青みがかったそれに一気に染められていく光景だった。......なに、これ......
「っう!!」
「フレアリカちゃん!!......ぅわ、これ、もしかして......」
そしてその直後に体全体をなにやら重苦しい風が通り抜けていくような感覚だった。帝亜羅はその感覚に、というよりその力に覚えがあった。
「......魔力......?」
300km近く離れた西の
「......ぅ、く......」
「ふ、フレアリカちゃん......とりあえず、おく、ないに......」
安全な所へ......と空が染められていく光景を見ていた時に思ってフレアリカの手を引いて近くの小屋の方へと向かおうとしていた帝亜羅だったが、
......ああ、生き残ろうとか無事に家に帰ろうとか、もうどうでもいいや......
胸の内に降って湧いたその感情のせいでその場に倒れ、そのまま眠るように意識を失った。
──────────────To Be Continued───────────────
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