13話5Part 寿司とハロウィン⑤

 ......そして皆で騒ぎ立ててすっかり疲れきった様子の面子が桃塚宅から退散し、同様に望桜達も自宅へと戻った。1LDKの中の1つの部屋を望桜の貸切(一応4人の中で一番位が高いから)にしてある部屋。照明の落とされた仄暗い寝室の寝台の上で、望桜とその推しである瑠凪は並んで横になっていた。......え、まって何この状況...... ?



「あのー......瑠凪さん?これは一体......」


「なんで敬語?てか俺、前に泊まるって言ったし」


「いや、そーだけどよ......」



 望桜も瑠凪も布団をお腹の辺りまでかぶり、望桜は壁に背をつけて座りながら横でスマホを弄っている瑠凪を眺める。


 望桜が魔王軍で見た事のある他の悪魔とは比べ物にならないほど綺麗な色白の肌、一般的な悪魔よりも小柄ながら存在感はしっかりあって、藍色の端麗な髪を今はそのまま流していて時折ちらちらと覗く項が微かに暖色の豆電球の明かりでますます妖美で。


 確かに望桜の"お花畑フィルタ"を通しているため多少なり大袈裟な部分もあるが、それがなくとも勇者である聖火崎に"見た目と性能だけはいい"と言わせるほどの美人ではある瑠凪だ。......流石は神が"美の極み"の存在として作っただけはある。


 ......ああ、抱きたいです、俺......でも手は出すな、幻滅されるから、許可ありになるまでは絶対に手は出すなよ......!



「あのさ、俺、結構やばいんだけど」


「え、何が......?」


「今めっちゃ瑠凪のこともふもふってしたい」


「は......?」



 スマホから視線を望桜の方に移し、不思議そうな表情を浮かべる瑠凪。その仕草すらも望桜には尊みなものに思えてならない。



「俺、猫じゃないよ......?」


「分かってるぞ?」


「え、なら......」


「や、でももふもふしたい」



 そう言って期待の目を向ける望桜に、瑠凪はスマホを放り投げて渋々体を起こし望桜の膝の上に移動した。そして......



「はい、どうぞ」


「へ......?」


「......撫でていいよ?」


「え、良いのか?」


「ダメって言ったらやらないの?」


「や、多分やめないけど......」



 ......膝の上でくるりと反転し、望桜の足の上で向き合う形になった。瑠凪の意地の悪い質問返しにも応えて、望桜は手を目の前で構える。



「はあ......なら聞くな」


「分かったよ......では、いきます!」


「いちいち宣言するなよ......」



 ため息をひとつついて瑠凪は目を瞑った。そして望桜は目の前にある瑠凪の頭を愛おしげに軽く撫でた。ふわふわ、というよりさらさらに近い感覚が指先から伝わってきて、望桜は思わず静かに愉悦に浸った。これは............最高だ!



「っ......」


「どした......?」



 ......ふと、瑠凪が身体を震わせた。一瞬の事だが、その感覚も指先からダイレクトに伝わってきた望桜は瑠凪におずおずと問いかけた。......胸騒ぎ、というより何か聞いてはいけない、聞きにくいことを自分は聞こうとしているような気がしたから、おずおずと。



「......いや、なんでも、ない......」


「......?」


「......はぁ............昔のことを思い出したんだよ」


「昔......?」



 そう言って瑠凪は膝をゆっくりと抱えた。望桜が深い影が差すその表情を盗み見たら、それに気づいているのか居ないのか瑠凪はそのまま顔を填めてしまった。



「......俺は堕天した時、上空で追手の天使に翼をやられた。それで魔界大陸に墜落した時に足も怪我して、その時に1代目と出会ったんだ」


「ほえ......」


「......そこで或斗に出会うまで軍にいようと思ったんだけど、結局ずっと居てさ......」


「へええ......」


「......再開したばっかりの時の或斗とあいつ、会う度凄い剣幕でめちゃくちゃ怖くてさ、でも頼りになるし軍のみんなも悪い奴らじゃない。或斗は軍から離れるつもりなかったらしいし、俺もやっぱり離れるのは惜しいってなってそこからだらだらと7000年も......」


「......いつか、また再会できるんじゃないかって思ったのか?1代目に......」


「っ......!......まあ、ね......会えると思ってたんじゃないかな......あの時の俺は」



 声がいつしかしゃくりあげるようなものに変わり、顔を膝に填める力も自然と強くなる。望桜はそれを今までのように愛おしげに撫でるのではなく、慰めるふうにそっとゆっくり撫でつけた。



「......死んだか死んでないか、今でも分かんないんだよな、確か」


「そ......でも俺は、さ......この目でしっかり見たから......」


「......っ、」


「......それでもやっぱり、記録書を何度見返しても"行方不明"としか書かれてないし、あれ、俺が見たことはやっぱり嘘だったんじゃないかなって......まだ、帰ってくるんじゃないかって......帰ってきて、皆の前では軍の皆を鼓舞しなきゃいけない"王"だからって明るく気丈に振舞って......それでもやっぱり俺の前では暗く神妙になって、それでもまた大袈裟に明るく笑いながら軍に戻っていくんだよ......」


「......」


「もうちょっと素直でいい、自分らしく振る舞えばいい、どんなお前でも軍のみんなはついて行くだろって一言言ってやれば良かったのに......だから不安なら1回戻ればいいって言えてればっ......」


「......お疲れ様」


「......ほんと弄れてるよね、俺......」


「......俺から言えることはないわなあ、その事情には......」


「......」


「 ......まあ、とりあえず寝ろ」


「......うん......」



 気丈な彼にしては珍しくしおらしい瑠凪に、望桜はとりあえずそう声をかけた。今は撫でていたいとか言っている場合じゃない、寝れば一旦は"今考えなくていい"ってなるから。望桜も昔気持ちを切り替えるのには一旦寝たものだ。


 そしてベッドサイドのランプの灯りを消して、2人で布団に潜り込んだ。望桜はその後も妙に落ち着かず数10分おきに起きたのだが、瑠凪は朝まで目を覚まさなかった。




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 早朝6時半、リビングの机に突っ伏して寝るスタイルを未だに貫き通し続けている葵雲は目を覚まし、早くもパソコンを起動させ怠惰な1日の幕を開けていた。


 パソコンの画面にはいつもの動画サイトではなく、ネットショッピングサイト·安天市場の画面が表示されている。そして葵雲は検索フォームで、ある単語で商品を探し出した。



「んっふっふ〜......」



 そしてその商品の購入画面に飛び、カーソルを"注文を確定する"の位置に合わせて......



「あと5日で晴瑠陽と交代だもんね〜......よし、今のうちにパソコンで買い物しちゃえ、えいっ!」



 カチッ、



 ......クリックした。お急ぎ便だから発送は遅くても3日後......交代までには届く!そう考えて葵雲は近所迷惑になるほど大きく高笑いした。



「にゃっはっは〜!これでこいつは僕のものだ!!」


「葵雲、私や望桜の許可も取らずになに買ったんだい?」


「わあっ!ちょっと的李、驚かせないで!」



 そしてその高笑いを聞き付けてか葵雲の背後に着いていた的李が声をかけ、葵雲は机に膝を打ち付けるのも構わず大きく左に後ずさった。......流石は下界1の体術使い、気配を消すのは魔王軍だけでなく、きっと勇者軍の誰よりも上手いだろう。



「いや、私たちに許可を取らずに買い物しているから、てっきりやましい物を買おうとしているのかと思って......」


「そんな怪しいもの買わないよ!!や、"やましい"ってよく意味わかんないけど......これ、これ買ったの!」


「......ピアス?なんでなんだい?......はっ!!ついにお洒落に目覚めた......?」


「いや、違うけど......1番これがいいかなって、これ可愛いでしょ?」


「まあ、ダサくはないのだよ」


「でしょ!」



 ディスプレイに表示された画像のピアスは、綺麗な深紅の宝石の周りに6色の宝石......紺青色、紫色、翠色、鴇色、紅色、鉛丹色の色鮮やかな宝石。ディスプレイ越しでも各々が綺麗に光り輝いているのが分かるほど鮮明な画像、よほどサイトの管理をしっかりしているところのものなのだろう。


 しかし値段はそれなりで、高すぎず、安すぎずという適価格だ。とお金に余裕がでてきたことに緩みきっている的李はそれの購入についてあまり言及することはせず、すぐにまたベッド型ソファの毛布の中に潜って数分後に規則正しい寝息を立て始めた。



「んふふ〜......」


「あれ、葵雲今日ご機嫌だね〜」


「あ、瑠凪!おはよ!」


「うん、おはよう。ところで葵雲、唐突で悪いんだけど......」


「うん、なに?」



 ゆっくりと起きてきた瑠凪は葵雲の方に駆け寄っていって、葵雲の耳元に口をよせてあることを呟いた。葵雲はそれを聞いている間擽ったそうに身をよじり、最終的に不機嫌そうな表情を浮かべた。



「......で、それについて、今更何を聞きたいの?」


「聞きたいと言うより具体的にはね......」



 そう言って数秒溜めたあと、



「葵雲......いや、アスモデウス......きっちり話、突き詰めようか」



 と言い放った。その瞳には光など一切無く、それはかつて葵雲が少しだけ見た事のある"大天使筆頭熾天使·ルシフェル"その者の瞳であった。




 ───────────────To Be Continued─────────────



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