13話4Part 寿司とハロウィン④

 


「はっぴーはろういーん!!」



 ......現在、桃塚宅の2LDKで75平米という3人暮らしの誘導居住面積水準ぴっっったりの広さの家の、15平米のリビングに(元)魔王と勇者、それに悪魔が6人と謎の幼女と女子高生が2人、どんちゃん騒ぎを繰り返していた。



「梓ちゃん魔女の仮装してきたんだ!可愛い......!」


「帝亜羅ありがと!そーゆー帝亜羅こそ聖女様の仮装、似合ってるじゃん!」


「そうかな......?ありがとう!」


「ふたりともかわいいー!!」


「フレアリカちゃんも可愛いよ?特にこの大きなリボンが......」


「えへへー!」


「......あ、鐘音くん!これ、どうかな......?」


「あ、似合ってる、可愛い......と思うよ?」


「え、あ、ありがと......えへへ......」


「ひゅーひゅー!!」


「ちょっと梓ちゃんやめてよ......うう、えへへ......」


「梓やめて、それ......」


「わーい!!」


「......フレアリカ、テンション高いわね......ってか、感動の別れ?をした3日後に再開って......勇者ってこんなに忙しかったかしら?」



 その中で聖火崎は自身が連れてきた、というより本人が行きたいと言って聞かなかったため渋々こちらに連れて来た幼女·フレアリカの異様に高いテンションに、連れてきてよかったと思う反面、見たくもない悪魔共と再三にわたり顔を合わせざるを得ないこの状況に嫌気がさしてきている。



「聖火崎、これを基準に測ったらダメ」


「分かってるわよ......」



 ハロウィン、という祭りをとてつもなくエンジョイする面子を机に腰かけて眺めながら、思ったことを小さく呟いた。その横で相変わらずPUBGをしている瑠凪はそれを耳で拾いあげ、軽く突っ込みを入れた。しかし聖火崎にはその突っ込みを耳で拾いはしなかった。


 ふと自身の人間界大陸でやっていた"勇者"としての仕事と日本での"会社の警備員"という仕事のスケジュールを管理した帳面を見比べた。


 ......"望桜達が帰宅した、心底嬉しい"と聖火崎自身の文字でコメントの書かれた10月28日、そこから29、30、31と続けざまに記載された"仕事"という書き込み、そして11月1日の"ハロウィンパーティー"。


 フレアリカが嬉しいのなら来てよかった、と素直に喜ぶべきなんだろうが......



「......ほれ、フレアリカ。ここをこうして......」



 カタ......



「こう?」


「そう......にしても上手いな」


「ほんと?わーい!!」



 ......フレアリカは堕天使組(瑠凪、或斗)に懐いている。その事実が聖火崎は気に食わないのだ。同じ"天界出身"だからこそ2人に懐いているのなら、天使にも同じように笑顔を向けるはずだ。


 それなのにフレアリカは同じ"天界出身"の天使達のことは好きでも嫌いでもないらしい。......なら魔力媒体である悪魔に懐いているのかというとそうでもない。葵雲には一緒にアニメを見たりするから懐いているが、他の望桜や鐘音といった面子に別段懐いている様子はない。


 そして神気媒体である聖火崎や翠川にも特別懐いているわけではない。だったら聖火崎ではなく瑠凪達が預かれば良いのだが、如何せんやっぱり同じ神気を扱う聖火崎が預かった方がいいと全会一致で決まったのだ、それ故に今更変えることも出来ないし。


 そう考えて聖火崎が大きくため息をついたのとほぼ同時に、フレアリカが聖火崎に向けて若干形の歪なクッキーを差し出し満面の笑みを浮かべている。



「はあ......」


「......ちよ!ちよ!これみて、あるとにほめられた!!」


「本当に上手よ、フレアリカ。今度はお家で私と一緒に作りましょうね」


「うん!!あ、あうん〜!!」



 聖火崎に自身が型抜きしたクッキーを1枚手渡し、その直後に踵を返して聖火崎のところに向かってきたのと同様にひょこひょこと葵雲のいるソファの方へ走っていってしまった。仮にも自身が育てている子勇者の義理の子が悪魔と仲睦まじくしているその光景に、聖火崎はやっぱりため息を飲み込むことができなかった。



「......はあ......」


「......どうした?ため息なんてついたら幸せが逃げていくぞ?」


「或斗......そんなの信じてるわけ?そんなわけないじゃない」



 そしてフレアリカと入れ替わりで聖火崎の所にやってきた或斗は、大袈裟ともいえる大きさのため息をついて項垂れる聖火崎の様子を見て、にやにやしながら聖火崎に話しかけてきた。そしてそれに聖火崎はしっかり返答した、或斗のことを小馬鹿にするのも忘れずに。



「や、でももし本当にため息で人間の幸せが逃げていく場合......貴様は今、魔王軍に加担しているな?」


「はあ!?どうしてそうなるのよ!勇者が悪魔に手なんて貸すわけないでしょ」



 部屋の装飾品がきらきらと輝いて、


 或斗の頓珍漢な考えに先程までの調子を狂わされた聖火崎は、思わず苛立っているかのような声をだして或斗に疑惑の視線を向けた。......こいつだけは、ほかの連中よりはまともだと思っていたのに、なに頓珍漢なこと言ってんのよ......



「だって、俺達悪魔の力の源は人間の負の感情......つまり悲しみや恐怖、怒り、不純な欲等だ。そして聖火崎は今ため息という行為で自身の体から幸せを取り除き、より純度の高い負の感情を錬成してくれているのだろう?魔王軍の良い養分だ、ありがとな」


「別にあなたたち悪魔のためにやってるわけじゃないわよ!!」


「ふん......まあ、別にどうでもいいがな」


「どうでもいいとは何よ!!もう......フレアリカがどうしてもって言うから連れてきたけど、やっぱり来なければ良かった......」



 朝5時に眠いと駄々をこねるフレアリカをなんとか起こして新幹線に乗せ、3時間かけてはるばる神戸まで来て、ホテルに荷物を置いてフレアリカが少し仮眠をっている間に見回りと仮装の用意を済ませた。


 そして不慣れな手つきでお菓子を作って、フレアリカと共に桃塚宅へ。なんとか全ての工程をこなして作ったちょっと歪んだチョコレートケーキを桃塚宅の3人組に見せたら、瑠凪にめちゃくちゃ笑われた。......ほんと見た目と性能だけはいいのよね......



「......ところで聖火崎、フレアリカが前よりはきはきと喋るようになってないか?一語文が減った気もするし......」



 聖火崎の横でフレアリカを眺めていた或斗が、ふと小さく呟いた。その内容に聖火崎は或斗の方をぱっと見て、すぐにフレアリカの方に視線を向けた。......まだ約1週間だがずっと一緒にいるからか、自分ではよくわからない。



「そう?でも3日しか経ってないのよ?そんな短期間で変わるかしら」


「分からないぞ?あれでも一応人外だ、普通の人間と成長過程が同じとも限らないだろう」


「あ、確かにそうよね......でも、やっぱり分からないわ」


「貴様......私が預かる、と啖呵を切って堂々宣言し母親ヅラしていた割には娘の急激な変化には気づかないのだな」


「貴方ね......さっきから喧嘩売ってるでしょ......?」


「さあ、どっちだと思う?」


「ウザ......」



 或斗の嘲笑を含んだ微笑みに思ったことをぽつりと口に出す聖火崎。くつくつと笑いながら馬鹿にするような言い方が表情と相まって、聖火崎の禁忌を触れるどころかうざったらしく逆撫でしてくる。



「まあ、俺が貴様に言いたいことはそれぐらいだ。......いつかフレアリカが聖銃を顕現させて自分のみで戦えるようになった時、貴様がどう判断するのかが俺は気になるがな」


「どういうこと......?」


「少しでも成長するという兆しが見えた今、いつか聖火崎くらいの見た目と戦闘能力を得た時に、聖火崎はフレアリカをどう扱うのか......もっとわかりやすく言えば、聖火崎はフレアリカを新たな聖銃勇者悪魔を討つ者として使うのか、と言っているのだ」


「......そりゃ、貴方たちを討つ役目を負っている私としては聖銃を軍の新たな勇者の武器として借入れたいわよ......でも......」


「人が持っている5唯聖武器を他の者が行使することは血縁者以外できないのだろう?だからといってフレアリカを殺すこともできまい」


「っ......」



 聖火崎の頭の中で、場のハロウィンパーティーの空気に不似合いな暗い考えが過ぎる。......本来なら、フレアリカのような5唯聖武器のひとつを扱える資格を持った人間は喜んで勇者軍の一員として迎え入れたい。でも......


 ......聖銃を構えた大きくなったフレアリカが、瑠凪や或斗、葵雲を聖銃に込めた神気で撃ち抜き、魔王軍5天皇と側近を打ち取ることが出来たぞと喜び泣く勇者軍の兵士の影で、これまでの日々を思い出しては"悪魔を討ち取った英雄"らしからぬ哀しみの涙を流す。


 ......それは紛れもなく"好きな人達"、"友達"を失った者の表情で......



(そんなこと、させたくない、させるわけないじゃない......!でも......もし本当にそうなったら?私は......フレアリカに"私がしたこと"と同じことをさせてしまったら......)


「......わっ!!」


「っ!!、ちょっと、驚かさないでよ!!」


「望桜、こいつだいぶ考え込んでたね〜」


「本当だなぁ〜......あ、瑠凪、マッチング始まったっぽいぞ?」


「ほんとだ、早く行かないと!......あと2勝でランク上がるんだよね〜」



 ドタドタドタ......



「......で、何よ。貴方まで私を馬鹿にしに来た訳じゃないわよね?」


「なわけあるか。......お前、或斗に何言われたんだよ」



 聖火崎が考え込んでいる間に或斗と入れ替わりで来た望桜に、先程まで騒ぎ立てていたメンバーと一員だとは思えないほど真剣な眼差しで問われ、聖火崎は思わず顔を背けてしまう。



「......もしフレアリカが私ぐらいに成長して自分で戦えるようになったら、勇者軍の新たな聖銃勇者として迎え入れるのかって......」


「......俺としては"もし"起こったら......っていう事例にそこまで悩むことねえと思うけどな」


「......どういうこと......?」


「"もし"起こったらってことのために用意しておいたら、いざそうなった時に楽かもしれねえ。が、起こらなかったら起こらなかったで準備し損だと思わねえか?」


「でも、やっぱり......」


「それに、お前が思ってることとは他の選択肢もあるからな」


「例えば......?」


「フレアリカがそもそも戦争自体に参加しないとかな?」


「......!」


「てかそもそもお前ら勇者軍は今の段階でも十分俺らと戦えてるんだから、増兵とかやめてくれよ?ww」



 聖火崎の表情の曇を吹き飛ばすように望桜はにこっと笑いかけてみせた。その瞬間、聖火崎はさっきまで深刻に考え悩んでいたことが、今では意味を持たないただの"机上の空論"だったように思えてならない。



「まあとりあえず、今を精一杯楽しもうぜ!!もしもや将来のために備えてたって、結局死んじまったら意味ねえしな!!」


「......ええ、そうよね。やっぱり今を全力で楽しまないとだわ!!」


「望桜さん、聖火崎さん!良かったら一緒に人狼ゲームやりませんか?」


「おっ!ナイス帝亜羅ちゃん!!聖火崎、今度こそ負けねえよ!!」


「望むところよ、今度こそあなたの首を完全に討ち取るわ!!」



 そう言って2人顔を見合せた(元)魔王と勇者は女子高生の方に向き直り、



「「さあ、決着をつけようか!」」



 と声を上げて人狼ゲームで散々遊び、結局決着はつかないままパーティーも終了したのであった。




 ───────────────To Be Continued──────────────




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