✨13話1Part 寿司とハロウィン
──────────下界西暦19429年、パラノイアブルク
「...... Disfitrente,13402-й, Citri ......Ах,Я не хочу ......Ох ...... Я хочу спать в постели, прямо сейчас ...... (......ディスフィトレンテ、13402人目、シトリー............と、あーめんどくさい......あ"あ"ー......ベッドで寝たい、今すぐに......)」
窓から覗く深紅の空、八咫烏のなく声と自身の走らせる羽根ペンの音だけに耳を傾けながら、13代目魔王の側近に大抜擢された大悪魔ベルフェゴールは自身の執務室の中で頭を抱えていた。
目の前にある自身の作業机には魔界大陸の地図と各地方の悪魔全員の名前を記録した名簿らしき紙が溢れんばかりに広がっている。そして自身は今、その名簿のおおよそ3470枚目(もはや正確な数がどこか分からない)であろう名簿の、誤字脱字なく記録してあるかの確認をしている。これも全ては13代目魔王である異世界人·緑丘望桜の命によって行われている行為だ。
......そう、13代目魔王として約100年前に召喚された
しかし先程も言った通り、望桜は魔界語が読めないのだ。だから望桜の命令で各地の代表の悪魔がその地域の住人をまとめた書類を望桜が確認しても、そもそも内容がわからないのだから軍勢の把握ができない、できるわけがない。だからこうして軍の中で次に偉い側近という位に就いているベルフェゴールに回ってきたのだ。
(はあ......100年で魔界統一をするなんて軍師の才能はあるのだろうが、悪魔としては下の下の下だし、そもそもただの人間が魔力を少し吸って小悪魔程度の魔力と寿命を持つようになっただけの奴に、どうして魔王なんか任せたんだろう......全く理解ができないのだよ)
と頭の中で何回審議したことだろう、最初見た時は魔力こそゴミだが元気が良く、悪魔を従えることができるの貫禄も一応持ち合わせていて側近としてこの魔王の元で側近という位に就くことができて良かった、そう思っていた。ベルフェゴールは元々幹部だったから軍の中でも結構融通をきかせることができるため、側近というよりかは"魔王代役"に近い職務をこなすことも難しくはなかった。
そしてなにより望桜には魔王としての魔力の器と言語知識が無いが、軍師的才能だけはずば抜けており、リーダーシップ等に問題は無い、むしろ歴代魔王の中では最速で魔界統一を達成し、人間界侵略も目前だ。
(幹部も規定数は全員集めたし、人数的なやつも軽く纏まっているのだからもう書類の確認はしなくていいよね......)
そう考えて、窓から目視できる魔界大陸最西端の街·イーズオルドベルより遥か西にある、人間界大陸を近くにあった双眼鏡を使って見た。霞がかってはいるが、戦火があがっている様子はない。あたりまえだ、まだ魔王軍は進行を開始していないのだから。
「...... О, застой магической силы ранит мою голову. Я хочу, чтобы вы начали быстро прогрессировать ...... (......はあ、魔力の停滞で頭も痛い。はやく進行を開始してほしいのだよ......)」
机の上の書類を綺麗にまとめ、椅子に座り目を瞑ってから5分も経たずにベルフェゴールは睡魔に敗れた。......第13代目魔王軍がラグナロクから撤退する2年前、この頃勇者選抜が行われていたのである。そして2年後に......
「魔界統一しちまったから......よし、それじゃあテンプレ通りに聖邪戦争を始めるとしようか」
......望桜のこんな一言から第拾参弦聖邪戦争が開戦したのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「......結局倒される所までテンプレ通りかよ俺......」
「ま、まあ仕方ないのだよ」
望桜が口にした言葉に、的李は決まりが悪そうに小さく頷きながら答えた。
......第拾参弦聖邪戦争が開戦した日から3年と15日ほど経った頃のこと、結局侵攻し仮占拠してから1年経たずに奪還され、現在1LDKマンションの一室を借りてリビングでガラステーブルを囲み望桜と的李はテーブル上1面に広がった紙を見ていた。
履歴書用紙数枚を筆頭に、その下に大量のレシート、明細書、そしてその中に預金通帳が息を潜めて埋まっていた。
「......ていうか、16日前のことをうだうだ言い続ける暇があったら、」
そう言って的李はスカスカの本棚の下の方を軽く漁って、1冊の本をもってきた。
「これでも見て次のバイトを探し給え」
......ハローワーク求人情報の載った本だ。ハローワークとでかでかと書いてある下に"行こう、まだ間に合う。"というキャッチコピーが中見出しとして記載してある。
「はあ......お前は結局俺が奨めた古本屋にずっとバイト行ってるもんなあ......」
「まあ、深刻な働き手不足の所だったからそう簡単にはクビにならないのだよ」
「お前が羨ましいよ......俺の方は1度雇ってから"もう数は足りてるから"ってクビになったり、即潰れちまったり......」
「ど、ドントマインドとしか言えないのだよ......」
「かといって的李だけバイトしてもらっても、的李んとこは時給が低いから2人で生活してく分には少ねえしな」
「全くなのだよ......」
望桜のバイト先が見つからず、かといって的李の給料だけでは2人で生活していく上で必要な額の最低ラインまではかなり足りない。......さて、どうしたものか......そう2人が途方に暮れていた時期......秋の台風シーズンもこれからで雨が連日降り続いていた時期のことだ。
望桜がまたバイトをクビになってとぼとぼと歩いて帰宅していた途中、ふと立ち止まって空を見上げた。1面を灰色の雲が覆っていて、時折ぽつぽつと小雨が降る。
「はあ......」
自身の心の中だけでなく空まで曇っている、心も表情も澱んでいる様に望桜は大きくため息をついた。それだけでも少し軽くなったような心地がする。切り替えの速さも望桜の長所のひとつだ。また次を探せばいい、とゆっくり歩み始めた時だった。
「......ぁ、にゃ〜ぁ、んにゃ〜ぁ......」
「......ん?」
チリン、チリンという可愛らしい鈴の音と、それに続いて人の声が聞こえてきた。
望桜はその場所にそーっと近づいて、その声の主を見た。......その瞬間、心の中でキタキタキタキターッ!!!と叫び、それがそのまま口からとび出そうになって慌てて手で押えた。
「にゃ〜、あはは......ん、誰?」
「え?あ、......」
そして声の主は望桜の気配に気づき、後ろをゆっくり振り返り始めた。その子の目の前にあるダンボールには痩せ細った子犬が、元気そうに尻尾をふってはっはっと荒い息を繰り返している。両方可愛い!......ってか、なんで犬ににゃー?
そして......
「............わお」
......望桜を声の主の濃い黄色の瞳が捉えた。それと同時に望桜も声の主の顔をはっきりと視認した。藍色の髪にパーツが黄金比の顔、だけど一概に"美人"として括るのは少し違うような雰囲気を纏っていて、それがむしろ望桜の好みドストライクだ。
「......あのー......」
「え?ああ、いやー......ちょっとバイトクビになったばっかで途方に暮れてて......?」
「そこは俺聞いてないんだけど......あ、バイト先探してます......?」
誰?と聞かれて咄嗟に今の状況を答えてしまった望桜の頭の中は、その時は物事を正常に判断できないくらいにはとち狂っていた。そしてそれを聞いた目の前の少年......ともいえるしどちらかと言えば小柄な大人、という感じの子は、少し困惑しながら望桜に1枚の紙を手渡した。......Melty♕HoneyCats?駅近で見た事あるような無いような......
「......俺のバイト先なんだけど、人員足りてなくて......あ、やるつもり無かったら返してくれていいよ「有難い......」
「......?」
「......ひとつ聞いてもいいか?」
「別に構わないけど?」
「ここ、バイトをすぐにクビにしたり、店潰れたりしない?」
先程までの頭のおかしいハイテンションから一変して、不安げな様子の望桜の問いに、目の前の子は少しだけ声を上げて笑ったあと、
「人員不足だからそう簡単にはクビにしないんじゃないの?ww......よろしければ、ぜひ一緒に働きましょう!お兄さんっ!」
そう言って軽く小首を傾げて見せた。
「ぐふっ!!」
「ちょ、大丈夫!?」
「可愛い......!」
「はあ!?初っ端から酷い!!俺男!!」
「わかってる!!そこが可愛い!!」
「ド変態じゃんか!!」
こうして曇天の下、2人歩道で出会ったのが望桜の"可愛い中性男子に囲まれて一生平和に暮らしたい"という願いの、半分叶って半分駄目になるきっかけであった。
───────────────To Be Continued──────────────
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