12話2Part 人外達の集う国②



「......で、帰るのね、明日」


「まおたちかえっちゃうの?」


「ああ、5日間世話になった。......フレアリカ、千代と伊吹の言うことしっかり聞くんだぞ?」


「うん!」


「......別にいいわよ、堺市の時は望桜に助けて貰ったしね」


「「......は?」」



 望桜が聖火崎に感謝の言葉を述べた後の、聖火崎の言葉に思いっきり不満を表したものが2人居た。



「いや、確かに結界は張ってたかもだけど思えば僕と的李が魔力を提供してやらなかったら、今頃望桜とあのときアオンにいた人達全員死んでたよ?感謝は僕達にも言って欲しいね」



 望桜の同居人(という名のお抱え部下)鐘音と、



「左に同じ、感謝の言葉は私達にも言って欲しいのだよ。しかも結界だって元はといえば太鳳が予め張って来ていた防護結界を保っただけのこと、精霊族の族長だからこそ張れる高位な結界が張られていなかったら、全員無事ではなかったのだよ」


「や、ボクそんな高位なやつ張ってないよ」



 側近大悪魔·的李だ。太鳳のツッコミも無視して、逆上している2人は勢いよく大声で続ける。



「そもそも望桜に大型結界が張れるわけないじゃん」


「その通りなのだよ」


「まおけっかいはれないの?」


「ひどいな!?リフレクションウォールが張れるのにか!?」


「肝心なときに作用しない職務怠慢結界は要らない」


「その通りなのだよ」


「お前らあぁ!!」


「望桜......」


「望桜さん......」


「おおい聖火崎と帝亜羅ちゃんは俺のことを憐れむような目で見るな!!」


「......」


「......」


「瑠凪と或斗はなんか言えよ!!黙られてると余計虚しくなる!!」



 的李と鐘音には毒舌家特有の鋭い物言いで斬りつけられ、聖火崎と帝亜羅には憐れな視線を向けられ、瑠凪と或斗には無言を貫き通されるという構図に思わず泣きたくなってくる望桜。



「とりあえず夕食にしませんか「てかそもそも(元)魔王に感謝されても嬉しくないわね......」


「ありがとうはたとえ相手が宿敵だろうとも伝えるもんだろ!!」



 或斗の"とりあえず夕食にしよう"という落ち着けの意図の提案も、聖火崎の言葉によって遮られ、そのままさらっと流れてしまった。



「本当に(元)魔王かしら、こいつ......」


「呆れんな!!」


「あの......皆さん、とりあえず夕食を......」


「もっと(元)魔王らしい貫禄を持ち給え緑丘望桜!!ついでに角も!!」


「元人間にんなもん求めんな!!」


「......はあ......」


「ん......、そんな大声だしてどした......の......」




 いつもの様に机に突っ伏してパソコンと一緒に眠っていた葵も目を覚まし、騒がしい周りの様子を見て現状を理解した、いつもの言い争いだと。そしてそうならまだ寝ておこうとまた目を瞑ろうとした時、視界の隅に入った或斗の表情に思わず一瞬硬直してしまった。



「......ある......と......?」


(やっば!!ちょ、離れとこ!!)


「或斗がなんか言ってるよ、聞いてあげて......」


「貫禄と角がない魔王とか......ww」


「笑うな!!!」


(ダメだこれ"聞く耳持たない"ってやつだ)



 ガタッ、スタスタスタ......



 葵が立ち上がって或斗の横から離れ、パソコンと共に廊下に避難しに行ったのも気にせず言い争いを続ける望桜と聖火崎、的李と鐘音は、もちろん或斗の表情がどんどん曇っていっていることにも気づかない。葵は一応警告だけはして、廊下に出て戸を閉めた。



(痛いのやだもん、巻き添えもやだもん......だから僕だけでも避難するよ〜......)


「あーもーお前ら俺のことなんだと思ってんだよ!!」


「小悪魔以下」「最弱(元)魔王」「弱い若造」


「うわああああ!!!」


(僕注意喚起したからね、大悪魔アスタロトの怖さがわかってない(元)魔王と勇者じゃないだろうに......てかやはり常に一緒にいるだけあって、瑠凪と太鳳は既に避難してる......流石直属の上司と部下)



 ......否、少しだけ戸を開けて中の様子を伺っている。だから未だに言い争いを続ける4人と、ただ横でいい争いの様子を見ている帝亜羅、梓とは別に、瑠凪と太鳳はフレアリカを連れて部屋の隅に移動している。



「俺もう泣くぞ!?」


「やったー(元)魔王の降魔に成功したわー」


「棒読みじゃねえか!!」


「あ、待って、魔王を言い負かした勇者ってなんかダサいのだよ......」


「お前らマジでいい加減にしろよ!!」



 ガンッ!!!



「っ!!」


「......え、机......」



 部屋中......否、家中に響き渡るほどの音をたてたのは、或斗の手によって机に向かって思い切り突き立てられた包丁と机だ。よく机は天板に包丁が貫通してしまうほどの威力で包丁を突き立てられたのに無事だったな、と褒めてやりたいくらいの有様だ。


 そしてその有様を見てその場にいた全員がフリーズ&吃驚し、特に家主であり、もちろんその机の持ち主でもある聖火崎は、



「あ、或斗......机、机......」



 と、ひたすら机の心配をする他に何もできなかった。



「皆さん......とりあえず、夕食にしましょうか?俺何回も言ったはずなんですけど......?」


「「......はい、いただきます......」」



 先程の行動を知っているからこそ恐怖しか感じないくらいの満面の笑みで皆の方に向き直り、手に持った鎌形包丁を細い指で撫でつけながらそう言うのだから、皆は揃って大人しく、豪奢でいい匂いを漂わせ続けている夕食の用意されている席に着くしかなかった。



「......あ、葵」


「はぐ、んぐ......何?」


「お前の日本での名前、登録しといたから」


「......何にしたの?」


「御厨 葵雲あうんだ。せっかく帝亜羅ちゃんが"葵"って仮名つけてくれたんだし、"葵"使わねえと勿体ないしな」


「ちよ!これおいしいよ!」


「そりゃあ或斗が作ったんだもの、当然よね〜」


「やめろ貴様に褒められても虫唾が走るだけだ」


「何よ!人がせっかく褒めてあげてるのに!!」


「まーまーせいかたんおちつきな?」


「はあ......ねー或斗、明日帰るなら用意はしといた方がいい?」


「ですね......早朝にこちらを出発して、ゆっくり明石に戻れれば良いと考えています」


「そか......帰ったら晩御飯作りは俺に任せて。明日は休め」


「主様のご命令とあらば」


「執事と主人みたーい......!こんな感じの主従関係って......ぁあー萌えるなぁ!!」


「梓ちゃん落ち着いて!!」



 各々食事をしながら自由に会話をして......気づけば夜9時、他はまだ大丈夫だが幼子であるフレアリカはもう寝るべき時間帯だ。



「ねーねー!さいごのひぐらいるなとねたい!」


「なんか滑舌良くなってるっていうか、フレアリカがちゃんと話すようになってきてるの気のせいだよな」


「そうかしら?ちょっとよくわからないわ」


「あっそ。......さっさと部屋戻ろ」


「えー!!」



 この後、延々と駄々を捏ね続けたフレアリカは結局騒ぎ疲れて寝てしまった。そしてその翌日の早朝に兵庫住みの面子は横浜等に寄り道しながら、無事我が家に帰りついた。




 ───────────────Now Loading───────────────




 ......聖火崎達勇者組と別れてから2日、思えば東京滞在の件があって流れてしまった"2階フロアを任される"という話が常に頭の中にあるが、いつも通り通常勤務に戻った2人望桜と瑠凪は、Melty♕HoneyCatsにて各々の勤務にあたっていた。


 そして他の店員と入れ替わりで休憩室に望桜が入り、15分間の休憩をとる為に椅子に座った時だった。



 〜♪、♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜......



「......大変お待たせいたしました、Melty♕HoneyCats営業事務所でございます。本日はどういったご用件でしょうか?」



 Melty♕HoneyCatsの事務所......という名の休憩室に配置してある電話が店名に見合った可愛らしいメロディーが流れ始めた。コール代わりのメロディーを聞いて丁度休憩を取っていた望桜が電話にでた。



『......あ、繋がったのですぞ〜!!』


「......は?」


『って、やっぱり(元)魔王でしたか〜、あまり話したい相手ではないんですがなぁ〜......』


「てめえかけてきておいてそれは失礼だろ!!ってか店にかけてくんな!!」


『や〜、本当は瑠凪殿がでればいいな〜っと淡い期待を抱きながらかけたんですがな、まあ望桜殿なら話がわかるから大丈夫なのですぞ』



 ......電話の相手はウリエルだ。東京の時に1回顔を見たけれど望桜はよく顔を覚えていない、ただ長身と明るい桃色の髪、そして天使特有の黄色の瞳だけははっきり覚えている。


 その相手は電話の応対係として望桜か瑠凪を希望していた、話がわかるからと。Melty♕HoneyCatsの店員は望桜、瑠凪、零央、丞、冬萌、八とバイトが数名だ。でもその中で望桜、瑠凪......そしてウリエルの3人のみがわかる話といえば......恐らく下界関連のことが聞きたくて電話をかけてきたのだろう。......望桜は心底携帯か家の固定電話にかけろと思ったのだが。


 ......とりあえずさっさと電話切りやがれ喧し天使が。



「......言っておくが俺らはもうこっちに永住するつもりなんだから、今更ラグナロクや魔界の事情のこと話されても困るんだが」


『そうですかな?なら瑠凪への伝言を預かって欲しいのですぞ。......"枝は6本ある"と"君の従者に物を預けておいた"とだけ。それと......』


「早くしろ!!そろそろ休憩終わっちまうんだぞ......休憩らしい休憩はまだしてないのに」



 ......本当は一刻も早く電話を切りたいだけなのだが。別に電話対応は休憩中の店員の仕事だから、そのせいで遅くなっても怒られはしないのだが。



『......緑丘望桜殿、貴方はどうして聖弓勇者であるはずの聖火崎......もといジャンヌが聖剣を持っているのか、考えたことはないですかな?』


「ああ?んなもん知らねえよ......でも、確かに帝亜羅ちゃんがそんなこと言ってたんだよな......それがどうしたんだ?」



 望桜は帝亜羅に、聖火崎と帝亜羅とフレアリカにガブリエルが襲いかかってきた夜のことを、瑠凪、或斗、太鳳、翠川と共に聞いていたのだ。......よく考えてみればおかしいな、聖弓勇者なのに聖剣を所持......でも俺らと戦った聖剣勇者は北方、東方、群島と立て続けで前線で戦い、名誉ある死を遂げた。


 ......仇ってことで持ってるとか?でも普通聖邪戦争はもう終わってるんだから、普通勇者軍内のどっかの機関に返すだろ。だって次の聖剣勇者選抜が行われるんだから(もしかしたらもう終わってるかもだが)。



『や〜、なんでかは僕も知らないですぞ?でも何かがあって所持してるのは確かなのですぞ。もしかしたら、聖火崎達がわざわざ通常タイプのゲートより何っっっ10倍も複雑で面倒な術式のゲートを開いてまで日本に来て、一時的な家まで借りてることと関係があるかもしれないですな』


「へえ〜、俺もなんでアイツら日本に住んでんのかな〜って思ったことあるんだよな。ひょっとして、いや、ほんとにひょっとしたら次の聖剣勇者に選ばれたやつが、どういうわけかこっちに来て聖剣を落としてったとかな」


『何それ、間抜けすぎますぞwwそんなやつは多分、騎士団や他の元帥や勇者が試験の時点で落とすと思いますぞ?wwなによりジャンヌとルイーズがそんなやつ合格にするはずないですしな!ww』


「まああくまで俺の空想だけどな。......てか伝言伝え終わったならもう切れ!!」


『そうですな、ではまた!!』


「......なんだあいつ......ってか、"枝は6本ある"?何言ってんだアイツ、地上に落ちた枝は全部5唯聖武器に加工されたんだし、"5"唯聖武器なんだから5に決まってんだろふつー......ああ、休も......よっと」



 そして望桜が再び腰を下ろして今度こそ......と休憩しようとした時に、



「望桜〜、望桜〜......って、なんで疲れてんの?」



 ひょこひょこ瑠凪が休憩室に入ってきた。......あ、まずい、休憩できてない!!



「おお、瑠凪か......なんか話し疲れた」


「電話?ってか休憩交代だよ?」


「......あ"ー!!休めなかったじゃねえかあいつ!!」


「......どしたの?疲れてんなら俺の休憩時間も望桜が休む?」


「っまじで!?いいの!?」


「別に俺は構わないけど、後でおか......あ、家行ってもいい?」


「ああ、いいぞ......って、え?」



 ......瑠凪の言葉に望桜は一瞬フリーズした。......今、なんて......?



「ああ、いや別に?お前に用があるわけじゃないけどさ、どっちかといったら葵雲にね......」


「ああ、だよな......でも、葵雲に何か用が?」


「......仮にもあいつと俺は1代目の時からの仲だろ?だからちょっと確認したいことがあってね」


「ほえー......」


「だから〜......家、泊めて?」


「......は?」



 ......望桜の頭の中は現在お花畑だ、それも満開の。ああしようこうしよう、あ、あれ作ってやろうかetc........おかげで休憩時間10分間であと3日と4時間半くらいは休憩無しで働けますよってくらい望桜は元気になった。




 ───────────────To Be Continued──────────────




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る