✨9話1Part 堕天使とユグドラシルの"果実"
─────────────下界西暦9573年、天界
「っくそ、見つからない!!」
「筆頭様!!筆頭様!!一体どこに行かれたのですか!?」
1面白世界の中で、たくさんの天使達が、ただ1人の天使を探して天界中を回っていた。彼らの主は、いま非常に機嫌が悪い。自身の"お気に入り"が、愛玩動物が、檻から逃げてしまったから。だから天使達は血眼になって探しているのだ。
彼らの主への"生贄"でもあったその天使は、彼らを纏める筆頭であり、摩天楼の最上階にある、天空牢獄の中にここ6000年は入っていた。彼らは自由に生きてこられたのはその筆頭のおかげであった。
その天使達の捜索の網をかいくぐり、ただ宇宙樹を目指して宙を飛び続ける、藍色の髪をした天使が居た。筆頭熾天使だ。
......早く、宇宙樹の元へ行かなければ。
「早く探せ!!っは、ユグドラシルだ!ユグドラシルの所も捜索しろ!!急げ!!」
銀髪の、他の天使とは違い、煌びやかで綺麗な軍服を模した服に、真っ白なポンチョを羽織り、指示を出す天使が居た。周りの天使達同様、血眼だ。その天使が探せと指示した場所は......
......宇宙樹ユグドラシル。世界の中心である樹で、雲の上のさらに上にある天界の端に存在し、1部の枝と根が地上まで続いている。真下は魔界だ。天使の天敵である、悪魔の住まう世界。
そんな宇宙樹の元に辿り着いた藍色の天使は、天界中心の、神殿の方からやってくる天使達の様子を見ながら、低い位置にある宇宙樹の"枝"を、両手で持って全体重をかけ、必死で折ろうとしている。
......が、他の天使よりもひと回り小柄で軽く、非力な藍色の天使には、枝を折ることができなかった。でも、藍色の天使の中には、枝を折らなければ、という思いばかりが渦巻いて、その思いを無視して逃げることなどできなかった。
「......はあっ、折れ、ろ......!!頼む......からぁ......!!」
ぐ、ぐぐ......
折れる雰囲気は微塵もない。折れ曲がり、軋む音1つならないのだ。
「は、やく......!!」
バサバサッ......
「......ちっ......」
枝を折ろうと頑張る藍色の天使の元に、薄紫色の髪の、別の天使がやって来た。その少年の姿を見て、バツが悪そうな顔をすると共に、藍色の天使は逃げようとした。頭の中で先程から渦巻く思いもあって枝からは手は離さないが、体はもう既に逃げようとしている。
「......っ!!」
ザッ、
「待ってください!!俺は、貴方を捕まえに来たのではありません!!」
「......っは、やっぱり、ね......」
藍色の天使は、やはりそうだったか、という顔をしつつも、内心は安堵、と同時に体は逃げようとしていたことに若干、申し訳なさを感じた。
薄紫色の天使は、藍色の天使にとって、弟子であり、部下であり、天界に2人といない、心を許せる相手であった。それなのに、少しだが逃げようとしてしまったことに、申し訳なさを感じずにはいられなかったのだ。
そして薄紫色の天使は、藍色の天使の先程までの様子を見て、全てを悟ったのかは分からないが、藍色の天使が先程まで折ろうとしていた枝に手をかけ、一気に体重をかけた。刹那、枝は切り口から黄色で半透明の、光り輝く神気でできた樹液を垂らしながら、バキッと音を立てて折れた。
その様子を見て藍色の天使は、薄紫色の天使に短いながら感謝を述べ、その枝を受け取った。
......まだ、まだ数は足りない。
頭でそう考える藍色の天使の考えを汲み取ったのか、さらに先ほど折った枝とは別の枝に手をかけ、また折る。折れたら、別の枝に手をかけ、さらにまた折る。それを4回、繰り返した。その結果、現在藍色の天使の腕の中には、現在宇宙樹の枝が5本抱えられている。
神殿の方からやってくる天使達は、もう寸刻経つ頃にユグドラシルの元に到着し、捜索を始めるだろう。その様子を伺って、藍色の天使は薄紫色の天使に向かって、なにかを言うべく口を開いた。
「......無様だよね、前まで、お前に偉そうに指示してたのに......」
そう言って自身の手と、服装と体を見つめる。藍色の天使は熾天使であり筆頭だったので、よく天界や人間界での公務に参加させられていた。藍色の天使は、その公務の際に着る重たい正装が嫌いだった。そのため、現在も軽装をしている。
体表には、浅い切り傷が大量に存在している。痛くはないし、浅いから跡は残らないだろうけど。
「いいえ、俺はそんな風には思いません。あの状況なら、仕方ないですから......枝が5本、それから果実がこれだけあれば、暫くは"大丈夫"だと思いますよ。それに、もう時間がありません」
「......そうだね。ありがとう」
自身の腕の中で、未だ樹液を垂らし続ける枝と、天界の地面の上に置かれた宇宙樹の"果実"とを交互に見つめ、安堵の表情を浮かべた後、その枝を天界の下の世界へと目掛けて、思い切り投げ落とした。枝の中に溜まった樹液が枯れることはなく、落ちていく中でも延々と樹液を流し続けていた。
そして果実も同じように落とし、果実の輝く黄色が見えなくなるまで、落ちていく様子を見届けた。その間にも、段々と天使達は近づいてくる。
「......いつになるかは分かりませんが、後を必ず追いかけます」
「......うん」
本当はこのまま2人だけで過ごしていたい......お互いが心から信頼出来る相手と、2人きりで。でも、主の定めた運命は変えられない。所詮、2人だけでは抗うことはできないのだ。そこはもう2人とも諦めているし、覚悟も決めている。
この一瞬を噛み締めるようにぽつり、ぽつりと言葉を交わしていく。2人とも刻々と過ぎていく時間の流れを恨み、かといって表には出さず、お互いのこれからの幸福を望むとだけ伝え、別れを告げる。
「2人とも、魔界に運良く降り立った暁には、余生を共に過ごしましょう」
「......そうだね、僕もそれを望んでる」
「......"約束"、忘れないでくださいね」
「忘れないよ、あんな大事なこと......」
「それでは、もう時間が無いようですので......お気をつけて」
「お前も、気をつけて。逃亡幇助の疑いとかかけられないように、しっかり取り繕うんだよ」
そう言って3対の白翼を広げ、枝や果実の後を追うように藍色の天使もまた、下へと落ちていった。......堕天である。
「......はい。分かってますよ、ルシフェル様」
ただ1人、宇宙樹の下に残された薄紫色の天使は、最後の言葉の返事を呟き、そのまま目を閉じ、数分後に自身も白翼を広げ神殿の方へと戻っていった。
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「ったん!るったん!!」
「う......夢、か......そーだよね...遠の昔のことだもん、
「おはよう!!もう朝ごはんできたって!早く準備して、今日は渋谷行こうよ!!」
「うん、そうだね...あー...昨日変なのが来たから夢も変なの見たよまったく......」
朝、目は覚めていたがまだ未覚醒の脳にJKの大声がけたたましく響いた。瑠凪は被っていた布団から覚悟を決めて脱出し、ひんやりとした外気に晒されすぐに暖房のスイッチを入れた。
まだ季節は白露だが、段々と秋仕様になっていく気温の変化は侮れない。ついこの間、深夜まで暑い、暑いと唸り、或斗に頼んで渋々エアコンを夜通しでつけてもらう毎日だったはずなのに、近頃は何だ、朝晩冷え込みすぎて冬用寝間着が大活躍し始めているではないか。
......それなのに昼間は暑い、いじめか?ついに日本、いや地球の気候ですら僕達悪魔を嫌い始めたのか?だからこんなに僕達に優しくない気候なの?と未だ半分寝ぼけた瑠凪の頭は、ふざけた理論を展開し続けている。
その間にも本格稼働し始めた暖房は、暖かい空気を部屋に循環する作業を開始したようだ。暖風にあたり、眠気がぶり返してきた瑠凪はその場で寝ようとした。
「さっむい......あー、あったかい......ねむ......」
ピー......
......刹那、誰かが暖房のスイッチを切った。
「主様、今日は朝食後すぐに外出するので、暖房を付けるのではなく、防寒着を着用してください」
「うー......?」
「早く起きてください......」
「ん......う?あれ......おはよお、今何時......?」
「8時です、9時には家を出ますので、早めに準備と朝食を済ませてください」
「はーい......よっと」
やっとこさ立ち上がった瑠凪に、まず太鳳がセレクトした服を渡し、髪を結んで、朝食を摂るための食卓までのエスコートをして、と使用人並の所業をこなす或斗。瑠凪もゆっくりながら自身の服を着用して、大人しく或斗に着いていく。
「......おー!瑠凪!おはよう!!」
「おそようの間違いじゃないかしら......」
「んー、おはよう、望桜、聖火崎」
「るったん!おはよー!!」
「瑠凪さん、おはようございます」
「おはよ!!」
「太鳳......帝亜羅ちゃんたちも、おはよう」
「ほら、早く席に着いて下さい」
まだ眠そうに目を擦りながら席に着く。あと4つ、空いてる席があるが。恐らくまだ起きていない、的李、鐘音、葵、翠川の4人の席だろう。
机の上にはいつも通りのご飯、おかず、汁物とバランスのいい朝食が並んで、やはりいい匂いを発している。......お腹空いた。
「あとの4人は良いとして......全員席に着いたわね、それじゃあ、」
「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」
東京滞在2日目、今日もまた賑やかな1日が始まった。
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