✨6話1Part 堺アオンモールの乱
「......やあ、意外と早かったね。客人も増えたようだし、無事僕達のターゲットも来てくれたみたいだし。......さて、君達の命運をかけて、いざ勝負といこうか」
そう言って振り返ったアスモデウス。望桜にとっては面識のない、これから対峙する初対面の悪魔。それでもこの状況下はかなりやばいことを、魔王城でちょっと齧った文書の記憶が、頭の中で警笛を鳴らす。何せその文書にはこう書いてあったのだから。
"人間界南方最高権力機関 聖ゾイレ復興支援社"
"南方は約8000年前に起きた、壱弦聖邪戦争で最も被害のあった地方。
1代目魔王軍の策略、というよりかは人間界南方に攻め込んできたアスモデウス軍の統率などまったくない攻撃魔法と爆炎術式による猛攻撃で、物的被害も人的被害も最悪。
170万人程の住民が一晩で10万人に減ったとされるが、遺体は誰1人として見つかっていない。まだ生きてる可能性にかけて、今は行方不明と記録しておこう。"
だから本能的に感じる......マジでやばい。
ジャンヌ......もと聖火崎とルイーズ、あと瑠凪達は知らないが、少なくとも生半可な量の魔力しか保有していない俺達(俺、鐘音、的李)はどうすることも出来ない。
そしてなにより今この場所には聖火崎とルイーズ、瑠凪、それに俺を足した計4人しかいない。......4対1だからって侮っていい敵ではないみたいだしな。
何せ相手の魔力保有量はここにいる俺達4人が今体内に残している魔力、神気の合計量より遥かに上だ。
「さてさて、それじゃあ決闘をはじめ「アスモデウス!この国に迷惑をかけるだけでなく、民草の平和を脅かすような真似をしでかすのなら、私達勇者が赦さないわ!!」
「そうだ!たとえ異界の者といえど、民間人は私達勇者が護るべき人達だ!それを傷つけるような真似は絶対にさせない!」
「さっきまで馬鹿力で俺の手を握ってたのはどこのどいつだか」
「「望桜は民間人じゃないでしょ(だろう)!!」」
かっこいい場面に水を差した望桜に、全力で否定する勇者達。
......そういえば聖弓勇者と聖槍勇者だけか?ライトノベル作品とかでメインに置かれることの多い、聖剣を扱う勇者は、聖剣勇者はどこだ?まあ今はそれどころではないが。
「っはははは!!いい威勢じゃないか、聖弓勇者、聖槍勇者!!だったら君達の技量から試させてもらうとするよ!!」
さっきまでの自嘲気味な笑いから一変して、高らかに嘲笑するアスモデウスを、物凄い形相で睨みつける勇者達。
「あ......スマホ画材屋に置いてきた......」
1人だけ全く空気を読んでいない発言をした瑠凪は置いといて。
場所こそ和気あいあいとした空気の漂う、ショッピングモールの屋上だが、今はそんなに和気あいあいな空気なんて微塵もない。
......立ち込める空気は、幼子がいたら泣いてしまうほどの重苦しい空気だ。
「それじゃあ、勝負といこう......! 攻撃魔法陣展開、 《インフェルノ・バレット》!!」
ヒュンッ、ヒュンヒュンッ、ドガガガガカカッ!!
「ルイーズ、ルシファー!!全部防ぐわよ! 《ウィンドアロー》!!」
めいいっぱい引いて、一気に打つ。
アスモデウスからの攻撃魔法を、聖弓から放たれる矢で防ぐジャンヌ。
幸いにも勇者達はまだ神気の蓄えがたんまりあるようだ。だがしかし、弾幕の雨は未だに止む気配がない。
「承知した、 《スピア・メテオストライク》!!」
ギュンッ、ドガッ、ドンドンドンッ!!ドッカーン!!!
「はあ!?なんで俺もやらなきゃいけないんだよ!?」
「緊急事態よ!!悪魔に手を借りるなんて死んでも嫌だけど、人を護るべき勇者として、今すぐ対処すべきはアスモデウスなんだから!!さっさと働きなさいルシファー!!」
「......もー!!後でリンゴカード奢ってよ!?防護魔法陣展開、 《クラッシュバリア》!!」
爆音が轟き、各々が魔法を展開しはじめる戦闘光景。先端が鋭く、三又の聖槍を構える青年勇者。
神気のめいいっぱい溜め込まれた矢を放ち続ける、臨戦態勢の少女勇者。
......そして多数の防護陣を展開させる、こちら側の守りの要、元熾天使の堕天使。皆が緊迫した状況だ。
......なんだろう、この場違い感は......
そう、俺こと緑丘望桜は、13代目魔王という肩書きあれど所詮人間(にちょっと悪魔の血が混ざった下級悪魔以下)だ。
だからあんな風にかっこいい魔法展開したりとかはできない!
使えても初級魔法のフレイム(超初級の炎魔法)とかキャンセラー(相手の詠唱をキャンセル(望桜は下級以下なので15%の確率でキャンセル成功))とかだ。
まあ、そーいった雑魚以下の魔法適正等を魔王級に補正するのが......
「ちょっと望桜、危ないから離れて「その必要はねえ」
「望桜......?」
「上級防護結界展開...... 《リフレクション・ウォール》!!」
......ただの人間でも立派な異世界魔王として宣戦布告できるようになる位の、魔王補正なんだけどなっ!!
「は......?」
「上級防護結界の......リフレクションウォールを......人間魔王ごときが......?」
「ふっ、これが13代目魔王の力だ!!」
ふんぞり返る勢いでドヤる望桜。まあ、ただの人間が魔王として選抜されただけの悪魔だと、ある意味馬鹿にしていた勇者達は、その詠唱を聞いて驚き慌てふためいた。
「......補正でしょ」
「おい瑠凪!!ちったあ夢見させてくれよ!!」
「はいはいそうですねー、そんなことよりまずはアスモデウスを倒すよ」
その勇者達の、望桜にとっては嬉しい勘違いを空気も読まず、ことごとく破壊していく瑠凪。そのせいで20過ぎの青年の顔が、なんとも情けない顔になっている。
「......13代目魔王がこんな力を有していたとは......失礼、僕は君の事も侮ってたよ。......じゃあ防護陣と防護結界もろともアオンモールを瓦礫の山にしてあげる!!」
「......やれるもんならやってみろよ」
アスモデウスの方を向き直った望桜。先程までの表情とはうってかわって、現魔王の大悪魔といわれても、納得のいくほどの鋭い眼光で少年悪魔を睨みつけている。
「......じゃあ、瑠凪、聖火崎、ルイーズ!あとは頼んだ!」
「「「望桜!?」」」
......もう限界だ......
......いくらリフレクションウォールが使えるとしても、元々の魔力の受け皿が小さい望桜では、結界を貼ったまんま意識を保っているのが精一杯、集中力が切れた瞬間に、リフレクションウォールは見るも無残に散るだろう。
「......ちょっと拍子抜けした」
「私もよ」
「私もだ」
「......まあ、厄介な結界は残ったまんまだけど、そちら戦力が減ったという事実に変わりはないもんね......まだまだいくよ!! 《インフェルノバレット》、 《フレイムストライク》、 《ファイヤーキラー》!!」
「打ち返す!!」
ガッ、キイィィイン!!ドガッ
未だに攻撃魔法の詠唱を高速出続けるアスモデウス。それを弾いたり打ち返したりする、弾幕と聖矢、斬撃がぶつかり合う音が空高く響く。
「......ははっ、僕はまだ魔法しか使ってないけど、近距離攻撃もできるんだよっ!」
ガッ、
「ぐっ、」
高速飛行からの魔斧(ヴァナルガンド)による攻撃。
それをルイーズは間一髪、聖槍で防ぐ。
「足の切断でもしてやろうかっ!?ルイーズ!!」
キィンッ、カキィン!!
「そんなこと、させるはずがないだろうっ!!」
ビュンッ、カキィン!!ブォンッ
「できるよ、ただの一般人共をかばいながら戦う、今の君たち相手ならね!」
「っ、調子に、乗るなあああ!!!」
ガキイィィインッ!!!キィンっ!!
「ちっ」
「神聖な決闘に横槍とは......勇者もだいぶ薄汚い戦いをするんだね」
「悪魔が相手な時点で神聖な決闘ではないわよっ!!」
アスモデウスVSルイーズの近距離による決闘。
ヴァナルガンドと聖槍ゲイボルグが火花を散らしながら互いを凌ぎを削りあっている。
その最中で刃先や槍先が掠め、細かな傷が増えていく。武器と武器がぶつかり合う音が、屋上から空までこだましている。
1対1の、気を抜けば命を落とすであろう戦いにジャンヌが横槍を入れたが、傷を与えるには至らなかったようだ。
「ってか、そろそろ引き上げたいところだなあ......」
「何よ?もしかして魔力切れ?あれだけ威勢のいいことを言っていただけあって、だっさいわね!!」
アスモデウスが、少しだけ苦悩したような表情を浮かべた。
そしてそれをジャンヌは見逃さず、相手の急所を聖弓で正確に狙撃するという、精神をかなり消耗するような事をしているにも関わらず、気丈なことを口にする。
その激しい戦闘の影に隠れてはいるが、瑠凪はずっと多数の防護陣を展開したまま、目を瞑り、未だにその場から動かないでいる。こちらもなかなかに精神を消耗する事をしているのに、その様子は微塵も感じられない。
......ふと、屋上に誰かが上がってきたようだ。
「......聖火崎さん!聖火崎さん!!これ落としていき......ま......」
日本の女子高生·奈津生帝亜羅だ。聖火崎が落とした懐中時計を持ってきてくれたようだが、
「し......た......」
アスモデウスとルイーズの1対1の戦闘、それにジャンヌの構える聖弓に、何よりルシファーの多数の防護陣とアスモデウスから生える角や機械翼、尻尾に、驚きのあまりフリーズしていく帝亜羅。
「え......え......?」
「てぃ、帝亜羅ちゃん!?ちょっと、結界貼ったんじゃなかったの!?」
「ちゃんと張ったっ!!」
日本の女子高生......帝亜羅は、普通の人間が意識を保っていられない、望桜の張った結界(リフレクションウォール)内で、何故か意識を保ってられてる。
それでもまだ朦朧としているなら分かるが、意識もしっかり覚醒している......帝亜羅ちゃん何者だ??
魔力も神気も存在しないとされている日本に、なぜか魔力耐性(?)のある人間が居る。おかしな話だ。まあ、俺が召喚された時点で、色々と世界の歯車的なやつが狂い始めちまってたのかもだけどな。
「っはは、丁度いいっ!!聖火崎......だったかな?この子を借りるよ......!」
「え?あ、きゃああああああ!!!」
「「帝亜羅ちゃん!!」」
「帝亜羅!?」
「......ちっ」
これは見事な好機と、帝亜羅を初級浮遊魔法で浮かばせ、そのまま空の彼方へと飛び去った少年悪魔。......さすが魔王軍一の機動力、10数秒で姿が完全に見えなくなってしまった。
望桜と聖火崎は声を荒らげながらそれを目で追った。ルイーズも同じく声を荒らげながら目で追い、数秒黙ってから唯一なにかを悟った瑠凪は、1人小さく舌打ちした。
───────────────To Be Continued──────────────
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