6話2Part 堺アオンモールの乱②
「帝亜羅ちゃんが!!ちょっとルシファー、あなたの感知能力で、どこに向かってるか調べられないの?」
「あの方向だと堺市市役所がいちばん有力だと思うけど......」
「分かったわ!ルイーズ!ルシファー!!追うわよ!!」
「早急に、だな」
詠唱要らずの飛行魔法を使用して、勇者達も少年悪魔に続いて飛び去った。
「瑠凪は行かないのか?帝亜羅ちゃんは太鳳と仲いいし、或斗と瑠凪とも普通に仲良いはずだよな?」
「......俺は、ちょっと昔のことがあって......翼の展開は出来ても飛べない。不便極まりない......オマケに飛行魔法も使えないし」
「昔のことって......何かあったのか」
「や、別に......」
そう言って決まりが悪そうにそっぽを向く瑠凪。やばい、なにか悪いことでも聞いちまったかな......
......と、またもや、下から誰かが上がってきたようだ。
「主様!!望桜さん!!」
「ごめんねるったん〜、遅くなって〜」
「......或斗!太鳳!」
「主様!遅くなってしまいすみません!!」
「......ほんと、遅いよ......」
瑠凪の部下であり先刻攫われていった帝亜羅ちゃんの友人だ。確か2人とも、勇者の扱う五唯聖武器に相反する武器、五唯邪武器のうちの2つ、邪剣と邪弓を扱っているはず。
「今までの成り行きは主様に一通り説明していただいたので把握しています、堺市市役所の屋上でいいんですよね?人質を取られているのなら、無駄に刺激してもかえって逆効果ですが、現場にいかないことにはなにも出来ないので、移動しますね」
そう言って手を広げ、瑠凪の方に向き直る或斗。太鳳もその後ろで精霊特有の半透明の羽を拡げ、スタンバイしている。
或斗の話に相槌をうちながら、時折向こうの戦況を気にするかのように目を凝らしていた瑠凪は、或斗の考えていることがわかったのか、とてとてと歩いていき、或斗の腕の中にすっぽりと収まった。......可愛い。
「では行きますよ。望桜さんは......沙流川、望桜さんを連れてきてくれ」
「りょ!」
太鳳同様、大きな漆黒の翼を展開させた或斗は、瑠凪を抱えたまま、アスモデウスや聖火崎達と同じ軌道をたどっていった。
「まおまお!動かないでね、防護結界術式 《グロース·シールドグレンツェ》!!」
望桜を素早く隔離結界で囲み、フライを使って飛行させた後、1人で或斗の後を追った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同時刻、堺市市役所、屋上にて......
「よっ、いしょっと......小規模防護結界術式...... 《クライン·シールド》......と」
バサッ......ストッ
帝亜羅を屋上に下ろすと、すぐさま防護結界で隔離するアスモデウス。紫色の瞳は、先の戦闘時よりも光を失って見えた。
「あ、ああ......」
脅えて、震えつつも尚アスモデウスを桜色の瞳に捉え続ける帝亜羅。
アオンモールの屋上よりもさらに強風吹き荒れる市役所の屋上。その屋上で、得体の知れない、そもそも現実なのかどうか怪しいこの光景に、帝亜羅は場に合わないが、思わず頬を抓った。
......痛い。
「え、と......あの......」
「ん?......ああ、君の今の立場は、囮だよ。お、と、り」
「えと、そうじゃなくて......」
「......僕らは一体なんなのか、とか?」
「......あ、えと......そうです......」
尻すぼみながらも、自信なさげに問う帝亜羅に、アスモデウスはその問いの答えを告げた。
「僕らは悪魔だよ。下界の、本来ならばこの世界と一切関わりもしなかったであろう世界のね」
そう言ってアスモデウスは、右手を胸の前で握りしめ、もう片方の手でヴァナルガンドを固く握り直した。
「げ、かい......?」
「そう、下界。僕達悪魔や魔獣、妖怪や魔人の住まう魔界と、聖火崎達勇者や聖職者、その他異世界人間が住んでるのが人間界。その2つの世界......大陸をまとめて下界って呼ぶんだ。それこそこの世界と関わりなんて微塵もない世界の」
「......は、はあ......」
「っふ、あっははは!!」
「!?」
「君、見たところ普通の日本の女子高生みたいだけど、僕達のこと怖くないの?」
「......こ、こわいです......」
悪魔にとって、人間の負の感情は元気の源であり、魔力を貯めるのに必要な要素の一つでもある。......恐怖も例外なくだ。
帝亜羅を攫ってきた理由は、あの場の中で唯一の無力で、戦闘能力を持っていなく、そしてなにより異世界人間ではないから悪魔のことをより一層怖がる為、魔力を集められる、という利点があるからだ。
......それでも、アスモデウスの想像以上に、帝亜羅の恐怖の感情は少なかった。その事実に若干の苛立ちを覚えつつ帝亜羅の方を向き続ける。
そしてまだ質問をしてきそうな帝亜羅の様子を伺っていた。
「そりゃそうだろうね......とと、もうすぐ聖火崎達が来るみたい。でもまあ、強力な結界を貼ってあるから、入ってくるには20分くらいかかりそうだけど。その間に"計画"の準備も整いそうだ」
「......聖火崎、さん......は、勇者......?なんです......か?」
「うん、そうだよ」
「瑠凪さん......は......悪魔......ですか?」
「ルシファーか......まあ、正確に言えば堕天使だけど、悪魔かな」
「......じゃ、じゃあ......鐘音、くん......は、悪魔......ですか?」
「......鐘音?ごめん、こっちでの戸籍上の名前を全部把握してるわけじゃないから、わかんないな」
そう言ってわからない、というジェスチャーをしてみせたアスモデウス。そしてなにかを騙り始めた。
「どうせ30分あるんだ。その間ずっと黙っとくのも何だし、少し僕の身の上話をさせてもらおうかな。......と、その前に少し魔力の補充を......」
「え、やぁ......」
......否、その前に魔力の補充をするようだ。帝亜羅の方に歩いて近づいていく。その動作に帝亜羅は、結界内にいるので逃げられないことも承知の上で、後退りした。
「ごめん、ちょっと痛いかも」
スパンッ......ボトッ
「え、いやああああああああ!!!あああああああああああぁぁぁ!!!」
「腕1本ぐらいに留めておかないと、人質の意味無くなっちゃうからね!」
「痛いっ、腕が、うっぐうううあああ!!!」
......帝亜羅の左腕1本が、身体とさよならした。アスモデウスが高速で振り下ろしたヴァナルガンドの刃先が、二の腕の中央から下を見事に一刀両断した。左腕は血を撒き散らしながら空中に舞い、そのまま着地した。
そしてまたヴァナルガンドを構え帝亜羅の左足の付け根に振り下ろそうとして、その動きをピタリととめた。しかしそれは一瞬のことで、ヴァナルガンドの顕現を解除した。その瞬間にヴァナルガンドは紫色の光となって霧散し、身軽になった少年悪魔は帝亜羅の元に歩みよった。
左腕を紛失した帝亜羅は、ただ痛みにのたうち回り、その度に周りに血の海が形成されていく。
その様子の帝亜羅の目線に合わせるかのように、少年悪魔はしゃがみ込んだ。
「いっ、ぎあっ......あ、ああ......ぐうっ......」
「恐怖とちがって"苦痛"もまた魔力の源になるんだよね〜......ってことで」
「ひっ......うぃぎ!?」
「ふんふんふ〜ん♪」
少年悪魔は鼻歌を歌いながら、帝亜羅の腕の傷口を、自身の細い指で抉り始めた。血と肉が皮の中で、他人の指によって掻き回される、不快な音が鳴り響く。
激痛と共に、指が入ってくる異物感と不快感で、帝亜羅は気を失いそうだった。
「ふんふんふ〜んっ♪らったらったら〜♪」
「いっ、いぎあっ!?ぐうっ!い、ああ......」
「ふんふんふ〜ん♪っと、このくらいでいいかな?結構魔力貯まったし。」
ようやっと掻き回される際に感じる激痛から解放されて、未だ痛むが先程の拷問に似た行為のおかげで、少しはマシな気がした。
───────────────To Be Continued──────────────
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