✨2話1Part (元)魔王とバイトと仲間達

「緑丘望桜!!いい加減旧魔王として魔界に帰ってきて!!」


 今現在......俺は自宅にて、ギリギリショタっ子に分類される見た目の子に、なぜか胸ぐら掴まれて大声を浴びせられながら、頭をぐわんぐわんと揺さぶられています......



(......ど、どうしてこうなったああああ!?)




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 緑丘望桜と、ベルフェゴールこと西原的李が兵庫県神戸市で暮らし始めてから、約半月が経った。今までこっちの世界で生きていくのに必要なものを揃えたり、職を探したりと忙しい日々を過ごしていた人間(悪魔)は─────



  ───────非常に安定した日々を過ごしていた。



 ......と、いうのも2人がこちらに事故で帰ってきて、戸籍を作って家を借りて、バイト先を探して......としている間に、換金用に持ってきておいた宝石が無くなったり、1度空き巣に入られかけたりとかなり危うい状況になりはした。が、それに並行してバイト先が決まり、安定した収入が入るようになりそれに伴う生活基盤の安定(ちょっとギリギリ生活だけど)。何1つ困ることが起きなくなった。いい状態が続く......いわゆるマンネリ化。



 望桜的にはまあ理想的な日々だった。別に悪いことも起きないし、毎日普通に楽しいし。



 それはある日、望桜がいつも通りバイトに行こうとした時だった。いつも通りの道を通るつもりで原付バイクに手をかけた時、ふと、微かながらも|魔力感知スキル(魔王補正その2)が作動した。方向はまっすぐ望桜の自宅の方で、来訪者だろうか?扉の前に人が立っていた。



 バイトか、来訪者かを天秤にかけた結果、とりあえず遅刻は厳禁なのでバイトに向かった。



 なにせ悪魔体になれば食事·睡眠いらずの的李と違い、悪魔体ver.がそもそも存在しない人間:悪魔=1:1である望桜にとっては、金欠になることはすなわち死活問題。家賃が払えなくなってマンションを追い出されても、食事が満足に手に入らなくなっても、なら仕方ないからホームレスだとか、すぐに妥協して生きていける訳ではない。だからバイトがだ。来訪者には悪いけど。



 それに何より、今現在バイト先にて、推しが尊い問題が起きているのだ。と、いうのも何せ望桜自身は、|中性的な子(中性男子)コンである。望桜曰く、"中性的な子は可愛い。性別がどっちか分かりにくい子は可愛い。尊い"らしい。



 ......と、あれやこれやと考えているうちに、相生町にあるバイト先の猫カフェ、Melty♕HoneyCatsに着いた。ふわふわのパウンドケーキと、猫と気軽に触れ合えることが自慢のカフェだ。



「あ、緑丘〜」


「おー!丞!」



 裏口から入ってすぐ声をかけられた。彼は雅 丞みやび たすく。大学に行きながら店員としてこのカフェで働いている、文武両道ならぬ文稼両道の人だ。スラリとしていて、顔立ちも整っているイケメンだ。そして......



「おっ、望桜君じゃないか!今日は遅刻しなかったんだねぇ!いい事だ!」


「あっ、オーナー......その節に関しては何も言えないです、すみません......」


「気にするこたぁないよ!あん時は丞と私で上手く回せたから!今後は気をつけてくれよ!」


「ハイ......スミマセン......今後はしっかり定時前には出てきます......」



 この元気で威勢のいい人が、このカフェ Melty♕HoneyCats のオーナー、兎崎 零央うざき れお、みんなの頼りになるリーダーだ。そしてここMelty♕HoneyCatsでは望桜を含めて5人の店員が働いている。公式Tnitter(つにったー)のフォロワーが約1万人いるなかなかに人気の店だ。



「さあてみんな!そろそろ開店だ、気合い入れていくよ!」


「「はい!!」」


「あ、ところで丞。今日は瑠凪来てないんだな」


「シフト入ってないから、休み」


「休みかぁ......会いたかった」


「週5くらいで会ってないっけ?ww」


「それでも会いたい......」


「あははwでも今日は来ないと思うよ?性格的に応援にはこなさそうだし、確か同居人となんかするって言ってたww」



 そう、俺のバイト先の推しが尊い問題の"推し"は、ここの店員の1人、桃塚瑠凪ももつか るなという子のことだ。このカフェで主に料理の仕上げ(飾り付け)とラテアート、接客をしていて、公式つにったーの写真のモデルとしても一役買っている。望桜曰く"見た目は夜空の1部をそのまま持ってきたような藍色の髪に、明るく光る一等星の瞳。長めの襟足と前髪が風に踊らされているのもいい景色だ"とのこと。



 そして何より......



「こんにちは〜」


「あら?今日は瑠凪君は休みじゃなかったかい?」


「客としてきました〜」


「おおっ!まあたまにはそっち側も体験するのはいい事だね!決まったら呼んどくれよ〜」


「は〜い!って、望桜いるじゃん......」


「瑠凪ぁ〜......その反応は悲しいんだが......」


「え〜、だって会いたくないし」


「酷いな!?さすがの俺でもグサッとくるぞ!?」



 ......望桜に対してはこのツンツン具合。何だ、可愛い。けどきらわれてるのかと思うとちょっと悲しい。



「いや、PCのスピーカー新調しに行って、そういえば職場ここら辺だったな〜と思って、昼飯食いに来ただけなんだけど。望桜居るなら帰ろうかな......」



「おおいそれは酷すぎる!!」


「冗談だよ。なに本気にしてんの、馬鹿なの?」


「うっわぁ......」



 スマホに目を向けながら、まるでこちらを見ることすら嫌というふうに、憎まれ口をつく。初会時になにかやらかしたりした訳でもないのに、顔を合わせれば微妙な空気が流れるのも事実。こちらとしてはツンツンされるのも、憎まれ口たたかれるのも、可愛いのだが、こちらとしては如何せん仲良くなりたいので残念だ。



(ここ20日、会話は仕事中の会話含めても数えられるほどしかしてない..何とかして関わりたい、好かれたいんだけどな〜)



「......ウィンナーコーヒー」


「......えと」


「注文」


「う......ウィンナーコーヒー1つ入りました〜」



 この態度はさすがに可愛くない。嫌われてる訳でもないのに、好かれてる訳でもない。ただ、普通の領域の中で限りなく嫌いに近いのかもしれない。こちらとしてはほんとに仲良くなりたい。けど、今は仲良くなれるビジョンがほとんど見えない。



「ところでさ」


「どした?」


「じゅうs......やっぱいいや」


「ちょ、めっっちゃ気になるんですけど!教えろよ〜」


「はあ!?やだよ」


「教えろって〜」


「わ、ちょ、しつこいっ!!」



 なにかを言いかけて止めた瑠凪に問いただすも、疎まれながら怒られる。手も出しそうな勢いだったし、こんな調子で大丈夫かな......



「ってか、お前ん家確か本町のマンションだったよね?」


「ああ、うん......」


「向こうにも用事があって行ったんだけど、黒髪の子に、緑丘望桜と西原的李って人知りませんかって聞かれたんだけど」


「俺と的李?なんでだ?」


  ..

 俺達を訪ねる人物には心当たりがない。それぞれ仕事等で会う人は違うし......もしかしたら魔王時の関係者だったりして。まあ冗談だけど。



「さあ、知らないけど」


「だよな」


「まあ......その......気をつけてね」


「え......」


(今......ちょっとデレたよな?デレたよな!?)



 さっきまでの態度と打って変わってこちらを横目で見やった瑠凪。途端、右下がりだった望桜のテンションは急上昇しはじめた。その瞬間に仲良くなるビジョンが頭の中でぽんぽんと浮かび始める。



「いや、だってほらお前、もう勤務時間終わるだろ!多分聞いてきた子はまだ本町にいるから!あの調子だと見つかるまで探してそうだし!」


「え、なんでお前が俺のシフト時間知って「いいから行けよ!」


「あ、オーナー俺今日帰りますね〜!!」


「あいよー!お疲れさんっ!!」


「お疲れ様でしたー!!」



 これからどうなんのかな、もっと話せるかなと考えている頭の隅で、家に帰ることが先決だと心に決め、カフェの裏口から飛び出した。




 ───────────────To Be Continued──────────────




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