第128話 乱れた夜。
彼女達は今裸……。
素っ裸で地面に寝ころび、遠い目をしていた。
眼鏡は外され、体には複数のキスマークがある。
「コレで……良かったのかい?」
「あぁ。残り一回の呪いだ。こうするしか……道はなかった」
その隣には同じように素顔のローラがいる。
そしてたくさんの女達と……男。
「しかし、生臭いね」
「我慢しろレキ」
「それに君の顔……近くで見たのは初めてだが、結構イケるじゃないか。なかなかエロイ顔もイケてた。今度飲みに行こうか、2人で」
無表情ながら、グイグイと親父センスで迫るレキ。
「アホか」
彼女たちは微動だにせず、その場に寝ころぶ。すると……。
「おいっ! この部屋がまだだぞっ。早く掃除しろよっ、たくよぉっ。しっかり……うぇ、ひでぇ。よくもここまでヤレるよなー、全く。次も使うんだぞ、コレっ。〝インフェリオ(幼生天使)″共さっさと……」
男の声が響く。
それに付随するように、何かを引きずる音が近づいてきた。
その音がする方に向かって、言葉を続ける男。
「いや、そうだそうだお前たちっ! この女どもならヤリたきゃヤッても構わんぞ。これならヤリ放題だ。ほれ喜べ、くくくっ。欠陥品のお前らにはお似合いだぜ」
「……」
「……」
キィ……。
男の言葉が終わり、そこに入ってきたのは……男の子だ。
まだ年端の行かない男の子一人。
目の端でしっかりと人数と体格を確認したローラ。
「……ふっ!」
ヒュンッ!
「待てっ!」
「……何故止めるっ」
ナイフをもって、その子供の首をしとめようとしたローラにレキが待ったをかけたっ!
ナイフの目の前にレキの手のひらがある。
「まだ子供だっ。それに……彼には見どころがある。待ってくれ、話を聞かせよう」
そう言ってしっかりと……少年の口を完全にふさぎながら、レキが言う。
「もしダメそうならその時は」
「私が殺す。それが責任だ。少しでも可能性があるならそれに賭けよう。僕も少しでも早くココから……。このひどいありさまから出たいんだっ」
「……」
するとその言葉にローラがナイフを引いた。
「じゃあ……君の名前は? 名前を聞かせてくれないか?」
スッと子供を、自分の膝の上に座らせるレキ。
首のあたりに手をやりながら女傭兵が、その少年に優しく聞く。
「ぅわ……っ」
少年が小さく驚いたっ!
だがそれもそのはず。
そのレキの素肌の感覚は恐らくは、一生忘れられないだろう。
なんとも太ももが気持ちよくそして、尋常じゃない程褐色でエロい。
例え自分を殺すと断言していても、だ。
「名前は?」
「ぼ……僕は、ネィンです」
全裸の女2人に近寄られ、顔を赤くしながら下を見、答えるネィン。
「ネィン……か、良い名前をしている。それに、君の目はまだ死んでいない。だから頼みがある。ココから出してほしい。僕たちはもう手負いだしそれに、入る時より出る時の方が侵入者には難度が高いんだよ。困った困った」
侵入者が逃げようとする出口=入口。
誰かと鉢合わせする可能性が非常に高い。
うかつに走ればあっという間に挟み撃ちになる危険があった。
「エッ……その、無理ですよっ!?」
依頼をするレキを下から……比較的小さめの胸越しに答えるネィン。
薄いピンク色の突起が嫌でも目に入り、非常に気まずい。
「だが、やらねばならない。アイツを……マッデンを倒すためには、な」
「そんな、マッデン様を倒すだなんて……無理ですよっ。逃げたほうが良い、絶対に!」
ヒソヒソと声を潜めながら、3人が話す。
「やってみなければ分からないだろう?」
「分かりますよっ! 普通に考えて無理ですっ。どんなに頑張っても……無理なんですっ!」
そう、無理だ。
絶対に。
普通の人間には無理だと断言して言えた。
「そうか? それなら僕は普通じゃない異常を目指すよ。異常者だなっ、アッハッハッ! やはり勇者は異常者でなくっちゃぁ……ね。ふふっ」
「異常者……そんな、それで良いのですか? 異常者を目指すなんてその……。ちょっと……」
「おかしいかい? やっぱり」
「あの……はい。生きづらくは……ないのですか?」
異常者。ネィンはその言葉と同じ事を良く聞かされた。
欠陥品……そう、水の民の欠陥品だ、彼は。
『普通』であれば彼ら〝インフェリオ(幼生天使)〟も、水の民の力を持ってしかるべき存在。
だが、それを持てないのはただ単純に異常だから。
欠陥があるに違いないのだ。
だから今も彼らはアゴで使われ、2等市民に甘んじている。
「傭兵は生きにくいよ。全然余裕で差別され続けるさ。でも僕は僕の魂に決して、何も恥じる事はしてないと思っているからね。神のもとに行くにはまだ早いが、だが、神が僕に審判を下す日が来たならきっと、神が僕を受け入れるとそう信じている。もし仮に僕が恥じるのなら……神が神託を下した時だけだ。そうじゃない限りは僕は僕の魂を信じ続けるよ」
レキが薄くて程よく透ける、赤の髪をかき上げながら言う。
その目にはなんら一点の曇りもなくそして……酒やクスリの臭いもしない。
そんな大人はこの時代、少ないと言えた。
「……異常者、それでもこんなにカッコよく笑えるのか」
ネィンはレキの顔を見る。
その顔はとても気さくでそして……引き込まれる美しさだ。
齢10とちょっと位の少年でも十分に、強引にでも唇を奪いたくなる引力に引かれそうになってしまう。
「逃げる為の報酬はそう……だな。前金だろう、この状況なら。しかしそれになるものが何もない。そうか……ならば僕が君の童貞を奪ってやろうかっ」
「ぅえっ!?」
そう突飛な事を申し出られネィンが声を上げそうになるっ!
「ナニ、さっきの男も言っていただろう。少々発情しても問題ないさ。そうさな……しかし、私が声をあげるかどうかは、君のテクとイチモツしだいだっっ! いひひっ」
ゲヒヒっと笑うレキ。
男らしく笑うその顔はまだ幼く、それほどネィンとは離れていないようにさえも見えた褐色の女傭兵。
「ふむ、それなら良いぞ」
以外にもこの状況でローラも賛同し始める。
「何……気にする事はないぞガキ。娼婦が初めての相手だと言うのは非常に多いんだ。普通の町でも少なくとも半分以上、傭兵だとほぼ全部がそうだろうよ。ココの住民なら確実に10割だろうさ、ふふっ」
そう笑って、髪の毛を縛る紐を解くローラ。
パラリ……と黒の髪が落ちて、その大きめの胸にかかった。
ノーティスに大きさでは及ばないだろう。
だが、十分大きいと断言でき、濃い目のピンクが大人の色気を醸し出す。
「そっ、それは……えと。ほんとですか!?」
「あぁ。なんならチンカスそうな奴に聞いてみろ。もれなくそうなんだよ……」
なまめかしいローラの口元に舌が滑る。
少し年が上なせいか、泣きボクロと少しとっつきにくそうな、少女ではない女らしい顔にインパクトがある。
その口元が濡れぼそり……ネィンを一飲みにしそうだっ!
「へぇ……君、詳しいね。どこ情報か是非知りたい」
眼鏡が……ない。
癖で眼鏡を上げようとするレキが、キリリっと紳士の顔で聞く。
「何……私も娼婦をしていたんだ。隠してもしょうがない」
「私娼かい? それとも公娼?」
「私娼さ……」
ちなみに私娼=もぐり。の認識で良い。
この世界、娼婦かどうかを見分ける事が難しい程に、町には娼婦で溢れていたと言う事実がある。
ナンパして成功。
最後、〝コト″に及びそうになって初めて金銭を要求されれば、少額なら余裕で払うだろう。
大体感覚5000円くらい。
ヨーロッパ人が女にいくらだ、と問うのはコレの名残かもしれない。
「死にたくはなかったからな。まだお前たちと出会うどころか、お嬢様にもあってない時期さ。駆け出しの傭兵の時からもそうだが、お前みたいに実力が無いんでね。そうぜざるを得なかった。まぁ幸い……私には希望だけはあったが、な」
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