第41話 貴族の少女。下民のアサシン。

「ぐぁぁっ!?」


「どうしたっ、騎士団っ! その程度かっ」


叫んで5人目の死体を作り上げた、アサシンっ!


戦いは確実に、騎士団達の劣勢の色味が強い。


敵はアサシン一人と、ゴーレムだけだというのに、全く相手になっていないとさえ言えたっ!


「くっ、くそぉ……」


「全員引くなっ。攻撃こそ最大の防御よっ!」


ヴィエッタが、弱気な仲間に怒号するっ!


「しっ、しかしジーガにはっ、ジーガには何もっ! 全く攻撃が効きませっ……がはっ!?」


ガスっとジーガに体当たりをかまされ、剣を落とす騎士団員。


それをなんとか拾い直そうと、必死に走る……がっ!


「動線が見え見えだっ!」


落ちた剣を狙って、ナイフを投げたアサシンっ!


ドスッ!


「ぐぇ……」


見事命中っ!


彼ら騎士団の動きは、戦場を知っている者には簡単に、予想されてしかるべき動きだった。



「15。いえ、私含めて16居て、1人と残骸一匹片付けられないとはっ!」


ブラウンの髪を振って敵を睨み、ヴィエッタが唇を噛むっ!


「ふふっ。役に立てジーガっ! 騎士団の包囲を崩し続けろっ!」


「ギュガガっ!」


騎士団の苦戦の理由。


それは、完成されたジーガとアサシンの動き。


ジーガは防御とかく乱に徹して、騎士団のスキを作り出す。


そしてアサシンは、崩された陣形を上から、遠巻きに攻撃を続ける。


アサシンはほとんど地面に降り立たず、蜘蛛のように壁をつたって、敵に近づけかれないようにしていた。


「くくっ。良いぞ良いぞっ。この為にジーガを温存したのだ。間違ってなかったな」


青い壁の上、彼女は十分な働きをするジーガにご満悦だ。


いくら破損したとはいえ、1機で60人の騎士団を殺す。


そう想定されるジーガは、十分に強かった。



「くそっ、ちょこまかと。だったら爆炎でアサシンを巻いてやれっ! 一点集中するんだよっ!」


「おっ、おうっ!」


バンっ! バンバンっ!


誰かの号令に従い、騎士団による爆裂掃射が始まるっ!


「くっ……」


確かにそれは、効果が高かった。


炎の魔法の爆発力は十分。


逃げ回る事に徹するアサシンを、苦しめるに足る威力っ!


しかし……。


「ふふっ……」


傷ついたアサシンは、笑う。


そしてあの、〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″を体に振りかけ、耐え切って見せたっ!


「なっ、なぜアイツがあれをっ!?」


騎士団のみならず、執事や給仕からも驚愕の声が上がったっ!


「レナめぇ……っ」


ヴィエッタの声が響き、騎士団が更に動揺してしまう。


「くくっ。確かに無敵だよ。これがあればなっ!」


薄ら笑って、騎士団への攻撃を続けるアサシンっ!


「こうなれば、一気にシトメねばならないわねっ。あなた達はそのジーガを追いなさいっ。私が奴をっ!」


叫ぶと、一目散に走るヴィエッタっ!


飛び回るアサシンを追いかけ……一閃っ!


レイピアでアサシンをとらえるっ!



「くっ、なかなか良い突きをするじゃないか……っ!?」


「甘く見ないで欲しいわね。わたくしは騎士団をまとめる地位ですわよっ! 武術は得意なのっ。覚悟なさいっ!」


そのレイピア――。


刃渡り1メートルを超える刃物。


それを華麗に突き込み、剣捌きを見せつけるヴィエッタっ!


1対1になれば、彼女は十分に戦えた。


それどころか……っ!


「ほらほらっ! どうしたのっ」


ガキンっ! ガキンっ!


真紅が舞い、優雅に放たれる銀閃。


レイピアの基本移動。


真っ直ぐ敵を前にし、相手をリーチを生かして制御、そして突き込み殺すっ!


それを美しく連続させるヴィエッタ。


「クソっ!?」


次々と、乱れ打たれる鋭い切っ先っ!


それをなんとか避ける事に必死のアサシンっ!


完全に、リーチ差に制圧されているっ!


「懐に……、入り込めないっ! クソがっ」


せいぜい20センチか30センチのナイフと、1メートルを超えるレイピア。


2つはあまりにも、射程が違い過ぎた。


アサシンが防戦一方となるっ!


するとヴィエッタの体が光輝き……。



「ふふっ、さかめくは風の契り。腕よ放たれよ、風になれーっ! 〝ウィンディショット(風舞牙)″」


バシュッ!


「くぅっ……!?」


ヴィエッタの突きが鋭さを増し、風圧が直線的に伸びるっ!


「来たれ炎の灰よ。我は爆ぜ、狂い、そして浄化する。〝ファイアスタンプ(炎刻牙)″」


シュボォっ!


「ぐぬっ!?」


その炎は浄化。


焼き払う力は右左にと、広範囲にまき散らされるっ!


次々と、まるで七色に変化する魔法。


どの威力も一級品だっ!


アサシンはドンドンと後ろに、気圧され続けていくっ!



「すっ、すげぇ……」


騎士団員が思わず声を上げたっ!


ヴィエッタは攻撃を繰り出す間ずっと、本当にずっと、呪文の詠唱を続けているのだ。


詠唱が終わればまた、詠唱。


ゆえにどの属性がくるのか、非常に読みづらい。


突きの途中で、そのレイピアに宿る属性が変わる事さえある。


「我らは貴族っ! あなた達庶民と違って、洗練さが違いましてよっ! 幼いころから神の寵愛である魔法、その教育を最重要とされますので」


ひらり……っと舞う、真紅のドレスっ!


貴族。


神のいる地においての、人間の支配者層。


彼らは常に、神に怯えて神経をとがらせる。



その昔――。


民に愛され、民を愛し。


共に栄えた国があった。


国は名をとどろかせ、王は才王と名をはせる。


……が、一人しか子を持てなかったという。


方や一方、民から重税を取り、ゴールデンアス・ホール(金色のケツ穴野郎)と呼ばれた領主がいた。


その者は圧政と戦争を繰り返し、ついに、老いた才王の領地へとたどり着いた。


そしてこう叫んだという。


「その領主の子は、神のマナ子にあらずっ! 神に愛されぬものに、人の統治は無用」と。


そしてその城は一夜にして〝自国の民″に滅ぼされた。


たとえ領主が、民を幸せにする才人であろうと、なかろうと、関係ない。


神の寵愛無き、善良な領主より、民を酷使する、神の寵愛深き圧政者のほうが良いのだ。


そう、まことしやかに謳う――。


そんな神の地の逸話。



「これがっ、領主となる女の……。神への信心よっ!」


「ぐぅっ!?」


魔法戦でも地上戦でも圧勝だっ!


平民出のアサシンを、全くと言って良いほど寄せ付けない、貴族ヴィエッタっ!


「おお、勝てる……。勝てるぞっ!」


「くっ。小娘がっ!」


領主は強い。


下民とは段違いに。


これはもう、間違いない事実である。


「だがそれはあくまで、魔法に限ってだけさっ!」


大きく跳び下がったアサシンは、手元の死体をヴィエッタに投げつけるっ!


「ふんっ!」


あっという間に剣の風圧だけで、それを弾き飛ばすヴィエッタっ!


ピシャっ、と跳ねた血が、白く美しいヴィエッタの顔を汚してしまう。


だが気にも止めず、彼女は勝利を目指し、前に進むっ!


「そらそらっ!」


次々と投げ込まれる、仲間の死体。


それを、魔法の剣圧だけで弾き飛ばし……っ!


「遊びは終わりよっ! はぁああっ!」


「そうだなっ!」


笑ったアサシンはなんと……。


ヴィエッタの懐に堂々と、真ん前から飛び込んだっ!


その行動に、ヴィエッタの踏ん張る足に力が入り――っ!


「ふっ、勝……っ。えっっ!」



ドタンっ!



倒れたヴィエッタっ!


顔を上げたがもう遅いっ!


彼女の肢体に馬乗りになったアサシンに……っ。


ガスっガスっ! ガっ!


パンチの乱打を浴びたっ!


「ぐふっ!?」


ヴィエッタは鼻血を垂らし、髪を掴まれ、吊るされてしまうっ!


「ヴィエッタ様っ!?」


「足元の血に気づかなかったか? お嬢様」


乱暴に掴んだ貴族の娘に、笑いかけるアサシン。


ヴィエッタの靴と足元には、血がべったりと張り付いていた。


「腹を裂いた死体だ……。た~んと出たんだぞ? 汚い液体が」


笑いながら血の付いた指を、綺麗なヴィエッタの白い肌に這わせるアサシン。


血は非常に滑りやすい。


足元がふらつけば、闘いなどできる訳もなかった。


当然、アサシンの足元は、そういう物に対応する工夫がなされている。



「くぅ……」


唇をかみしめるヴィエッタ。


すると笑いながらアサシンは、ヴィエッタのドレスの胸元を切り裂いたっ!


ビリィィイッ!


「きゃぁ!?」


「良い肌だ。確かに領主の娘は違うな……。くくくっ」


アサシンは、ヴィエッタの柔らかい胸をもみしだく。


「やめ……なさいっ!」


控え目の胸だ……。


下着の上から揉むとすぐに、ピンクがのぞく。


だがヴィエッタのピンチに、騎士団は動けない。


当主の娘が人質である限りは。


「それで? 領主はどこに? どうやって消えた」


「……」


ヴィエッタは目を背ける。


「早く言えっ! さもなくば……っ」


ビィっ!


アサシンが次は、ヴィエッタのスカートを切り裂くっ!


「くぅう」


多数の騎士団員がいる前でヴィエッタは、どんどんと剥き剥がされていくっ!



「どうだ? ん~? 言わねばこの程度では、済まないぞ。このまま売られたいのか? 私の知り合いに。いひひっ」


ヴィエッタの下着の中に、強引に指を突っ込んだアサシンっ!


そして、下半身の奥をおもちゃにするっ!


「くぅ……」


顔を赤らめ、ヴィエッタがうめくっ!


十数人の男の前。


卑猥な音を立て、秘部をもてあそばれる。


そうやって羞恥心を与えながらアサシンは、ヴィエッタを更に攻め続けたっ!


「その男は毎夜毎夜。実験を行うのだそうな。女は薬を飲まされ、その記憶がない。そして朝になって泣き叫ぶ。なぜだと思う~? 貴族様。記憶が無いんだ。なんで泣き叫ぶんだと思うよ? ほらぁ。考えてみろよ」


ぺちっ。ぺちっ。


ナイフでヴィエッタの頬を叩いて、顔を近づけたアサシン。


「くぅっ」


眼を背けるヴィエッタ。


「ふふっ。答えはな。そこに、昨日楽しんだ〝獣″が食事となって、お目見えされるんだよっ。昨日受け入れ楽しんだ、人じゃない物の姿がっ。そこにメシになって、置いてある。食わなきゃな~。飢えて死んじまうぅ。良い匂いなんだぜ~、それ。ふふっ」


「下賤めっ」


ヴィエッタが怒りの眼で、言葉を吐き捨てるっ!


おぞましい感覚が彼女を襲った、


「あんたも毎日毎日、自分を汚した獣を食べて、暮らしてみるか? 貴族様よ~っ? ときおり人間も混じるらしいぞ~。いひひひっ。その男はいつも、泣き叫ぶ女の顔で一発、楽しむのが目的だとさっ! くくくっ。」


「……」


気が狂うまで、そこからは逃れられないのだろうか?



アサシンの笑いが響く中、そのおぞましさに、身震いするヴィエッタ。


が、しかし……っ!


「はぁはぁ……っ。ふふっ。楽しいわね、確かに。それは、あなたの飼い主は、あなたと楽しんだ実験の後、食べてしまうという意味なのかしら……ね? 犬のアサシンさん」


笑いをアサシンに、のしをつけて返してやる娘。


するとあからさまに、アサシンの顔がゆがむっ!


「このアマぁっ!」


怒りにかられアサシンは、ヴィエッタの腹部を刺したっ!


ドスッ。


「ぐぅ……」


「貴様っ! 本当に売り払うぞ。それか……。そうさな、ここにいる騎士団どもに輪姦させるのも良いか。」


アサシンは笑いながら、後ろで見守るしかない騎士団達の顔を見やる。


「なぁお前たち? どうせ無能の騎士団だ、自分が助かるためにはなんだってするよな~? さっきの戦いでも、命を惜しまず、傭兵に加勢さえしていれば勝てただろうに、このザマ。勇気が出なかったので、お嬢様と一発ヤりました~。それもなかなか笑えるだろう? んっ?」


見下した目で、騎士団に笑いかけるアサシン。


ヴィエッタを人質に取られ、動けない騎士団は耐えるしかない。


彼らは唇をかむ。


その悔しさと、怒りの入り混じった顔が、アサシンの心に満足感を与えていた。


だが――。



「ふふっ……。でも……うぅ。遊んでいる余裕ありまして? あなたはどうやらオスに、相当興味があるのね。レナの言いつけを守らず、交尾相手探しに夢中かしら?」


痛みを耐え、笑いを返してやるヴィエッタっ!


「……」


「教えてあげますわ、忠犬さん。戦えない犬に、価値は無くてよ」


――。


静寂が訪れた。


「……なかなかどうして。それが貴族の教養って奴かい? 気に食わないね……」


アサシンの眼が、今まで以上に本気だ。


ヴィエッタはただ、喧嘩を売ったのではない。


恐怖の中彼女は、殺される事が分かっている人間には、殺し文句は意味がない、と暗示し。


そして、戦士としての矜持すらも、問い返したのだ。



「ふふっ……」


ヴィエッタのほくそ笑む顔に、アサシンが苦々しく唇を噛み……。


「だったら騎士団どもに聞こうか……。お前たちの領主、シャルドネは今どこにいる?」


「……」


強情なお嬢様に嫌気がさし、次の目標。


戦場を知らない騎士団に、ターゲットを移したアサシン。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る