女騎士とダークエルフのライフ生活

霧矢風月

第1話 プロローグ

 ハルセンティス大陸の北方に位置する魔法国家ハシェル王国。そこの下級貴族出身でシェーナ・ウラバルトと言う女性は他の人間とは違う経緯いきさつ

を隠し持っている。

 前世の記憶を維持して異世界に転生した元男子高校生だ。

ウラバルト家の三女として生を受けて、十八歳になる現在では女騎士として隊長を務めているが、それはシェーナの本意ではなかった。貴族出身と言っても下級の立場から、特別に権力を握っているわけでもなく社交界からも相手にされなかったが、二人の姉はすでに地方領主の元に嫁いで幸せに暮らしている。

ハシェル国の南方に位置する中立国家プライデンを目指して、隊商キャラバン

の馬車に身を寄せるとあっさりプライデンの城塞都市シャルティユに辿り着いた。


「転生するのはいいが、よりによって女性なのは参ったなぁ」


 男子高校生だった頃は、私立高校に通って部活動に励む健全な高校生活を充実させていた。

 しかし、修学旅行中に飛行機が墜落して意識が目覚めると異世界に飛ばされた挙句に女児の赤ん坊だったのは衝撃を隠せなかった。

 幼少期は然程違和感もなく暮らしていくことに問題はなかった。年齢を重ねる毎に、女性らしい容姿と肉体に成長して、周囲の男性から告白されることに何度も悩まされた。前世の記憶がなければ普通に受け入れられることなのだろうが、シェーナにとって憂鬱だった。

 男らしい生活を送るために、シェーナはハシェル国の騎士団に入団すると、元々の潜在能力ポテンシャルが良かったおかげで騎士として活躍する場は増えていった。

 しかし、ここでも騎士団長から結婚を前提に告白されて戸惑いを隠せなかった。

 騎士団長は権力を笠に振り回すタイプの男で、断ったところで自分の地位がどうなろうとかまわなかったが、育て親のウラバルト家に迷惑がかかるのは忍びない。シェーナは地位や名誉を捨てて中立国家プライデンに身を寄せて自立する生活を選んだ。

 シャルティユの城内には中立を掲げているだけあって、人間以外の種族も生活を営んで暮らしている。

 路地の隅へ移動するとエルフの娘が風呂敷を広げてアクセサリーやブレスレットのような装飾品を取り扱って露店を開いている、その隣には易者のような格好をしたエルフが妖艶な笑みを浮かべてシェーナを呼び止める。


「お嬢さん。あなたの恋を占ってあげるよ」


 一瞬、お嬢さんと言われて自分の事だと気付くのに遅れた。

 持ち金は少ないし、それに恋愛で行き詰ってこのシャルティユに流れ着いたことを考えると丁重に断る。


「恋に興味はないので、占いは結構です」

「そう仰らずに! あなたのような美しい方は、お安く占って……」


 エルフの占い師はシェーナの腕を掴むと、二人は奇妙な感覚に陥る。

 すると、エルフの占い師はシェーナに馴れ馴れしい言葉遣いで喋り始める。


「お前……浩太こうたか? いや、絶対にそうだろ!」

「……康弘やすひろなのか?」


 浩太とは前世で名乗っていた名前だ。

 康弘は浩太の親友で、修学旅行の飛行機事故で隣に座っていた男子高校生だ。

 よく見ると、康弘は褐色の良い肌の女ダークエルフだ。


「その格好、北方の騎士鎧だろ? そこの女騎士が活躍している噂は聞いたことあるが、浩太のことだったのかよ!」

「俺もびっくりだよ。まさか俺以外にも前世の記憶がある人間……いや、ダークエルフの康弘に会えるなんて夢にも思わなかった」

「何だか懐かしいようで嬉しいよ。そうと決まれば、今日は店じまいだ。積る話も色々あるだろうから、俺の部屋に案内してやるよ」


 女ダークエルフは占い道具を片付けると、自分の住居にシェーナを案内する。

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