根暗で眼鏡な女子の先輩がラノベの話を延々としてくるんですよ

かぎろ

虚無文庫『大人の俺がHな生意気女子小学生になんて負けるわけないだろ』

「…………ふふっ……」


「…………」


「……むふっ……ふくくくっ……」


「…………」


「………………ぶっふっふっへっへっへ……くふぉふぉ……」


「先輩」


「……ん。何だね後輩君」


「笑い声がうるさいので静かにしてもらえますか」


「んお……。お、おまえ。後輩の癖に生意気だぞ」


「先輩こそ女子の癖に豚みたいな笑い声出して恥ずかしくないんですか」


「クソッ、毒舌系後輩としてのキャラクター像を確立しやがって」


「とにかく静かにしてください。僕は今FGOで忙しいんです」


「ここは文芸部なんだから本読めよ。今の私のようにさ」


「いえ、僕小説とか嫌いなんで」


「何で入部してきたんだよ……」


「今日は何を読んで豚になっていたんですか?」


「ふふん。よくぞ訊いてくれた。今日私が読んでいるのは……虚無文庫『大人の俺がHな生意気女子小学生になんて負けるわけないだろ』だ」




 虚無文庫『大人の俺がHな生意気女子小学生になんて負けるわけないだろ』


 ~あらすじ~

 俺は黒崎星馬。最近、姪の女子小学生・絵梨花ちゃんがうちに遊びに来るので、テレビゲームで相手をしてやっている。だがひとつ問題があった。絵梨花ちゃんはゲームに勝った後、耳元で、こう囁いてくるのだ……

「あっは♪ こんなちっちゃな女の子に負けるだなんて、なっさけな~い♪」

 ……このガキ! めっちゃストリートファイターうめえじゃねえかッ!

 格ゲーの巧すぎる絵梨花ちゃんに対する威厳を取り戻すため、俺は様々な勝負を持ちかける。マリオカート、オセロ、将棋、短距離走、空手、フェンシング、ロッククライミング……しかしその全てで彼女は俺を上回り続ける。攻略難易度Hell(地獄級)の絵梨花ちゃんに俺は勝てるのか!? いや……勝つ! 大人の俺が、Hな生意気女子小学生になんて負けるわけないだろッ!!




「という感じのラノベだ。これが死ぬほど面白いんだよ」


「はあ。ロリコンを釣る気満々のタイトルと表紙なのにそのあらすじはちょっと僕好みですね」


「後輩君も捻くれてるかんな~、こういう騙す系の好きだろうと思ってたよ。でも確かにロリコン向けでもあるんすわ。絵梨花ちゃんがシンプルに可愛いの」


「先輩は豚である上にロリコンでもあるんですか。救いようがないですね」


「ほざくよなあこいつ。でも私はロリコンであることに誇りを持ってるからノーダメなのであった。てか、後輩君もこれ読めばロリコンにならざるを得ないと思うよ」


「奇書かよ」


「ほんと面白いんだってば。主人公の黒崎が朴念仁なんだけど、とにかく絵梨花と子供みたいに張り合うんだよね。泥臭いっていうかさ。で、絵梨花は天才で超人なので今までも他に相手になる奴がいなかった。だから何度も諦めず立ち向かってくる存在ってのは黒崎が初めてだったんだよ。そうなると、どうなると思う? 三文字以内で答えよ」


「惚れる」


「ザッツライト」


「いま指パッチンしようとして失敗しました?」


「ある時、絵梨花ちゃんは危ないところを黒崎に助けられるのね。既に絵梨花にとって黒崎は特別だったけど、その一件で完全に惚れるわけ。でも絵梨花ちゃんはその気持ちをどう表現したらいいかわからんのよ。天才なのに! 天才なのに恋愛の仕方だけはわからないの、萌えだよな……。死語」


「一発ネタっぽいですけど、割としっかりラブコメラノベしてるみたいですね」


「そーうなんだよ。で、惚れた後の中盤からの展開はもうホントすごいんすわ。絵梨花ちゃんの不器用な誘惑がすごいの。ラブホに誘ったり、布団に潜り込んだり、裸エプロンしたり……そのたびに黒崎は真意に気づかず『新手の勝負か! 受けて立つ!』とか言って自分も裸エプロンになったりするんだけどね」


「鈍感主人公はギャグでこそ輝くというあれですか」


「左様。で、絵梨花ちゃんは涙目で『もう知らない!』とか言っちゃうんだけど、やっぱりそれでも黒崎が好きで……っていう……。HなJS最高……。なんとゆうか、私にもちんちんが生えてればな~って気持ちになりました。なんで私は女なんだろうっていう。染色体を恨んだよ」


「先輩、ちょっといいですか? キモいです」


「まあまあまあまあ、後輩君も読んでみなって。そして自分にちんこついてることに感謝しなって。で、私に毒舌を振るったことを後悔しなって。全裸土下座で許すからさ」


「死ね」


「身も蓋もない毒舌やめろや!」


「大丈夫ですよ。僕が毒舌なのは先輩の前でだけですから」


「なんだよそれ。……んっ? えっ?」


「じゃあ後で読んでみますね。貸してください」


「えっ、あの、今一瞬デレたの? 気のせい? 後輩君?」


「やっぱいいや。先輩の手垢まみれのラノベに触りたくないんで」


「もっかいデレてみない? 後輩君? 後輩く~ん?」

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