ウォルバート家の麒麟児

佐々木悠

第1話

ウォルバート男爵家。ハルベルツ王国の辺境に位置し、代々田舎者として終わる零細貴族である。かの麒麟児が現れるまでは。麒麟児アーサー・フォン・ウォルバートは王立王都魔導学院を首席で入学卒業し王室魔導大学へと首席入学後3ヶ月で卒業資格を獲得し堂々と最速で卒業。新たな世代の綺羅星に期待されていた。隣国クライスター大公国の侵攻を受け辛うじて反撃、撃退したものの疲弊した王国は翌年のクライスター大公国、ゾンネンブルーメ帝国の連合軍に屈した。その決断を良しとしない貴族達が戦闘を継続。内乱が発生、激化し連合軍は統治を断念。撤退した。

王都アルスターが陥落。王家はその後流浪の道を辿ることとなる。


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「アーサー様!敵軍数は100。騎兵20、残りは徒です。」


「構いません。叩き潰しなさい!」


「1番隊!アーサー様の命令だ叩き潰せ!」


ウォルバート男爵領の原野。100程の傭兵崩れの部隊に相対するのは100程のミニエーライフル隊と50の軽騎兵。指揮を執る若い青年いや少年とも見える彼は黒馬に跨り長剣を振り下ろした。3列に並んだ歩兵が斉射を初め、吶喊してくる傭兵崩れを遮る。騎兵が左右に展開したのを見て軽騎兵は丘に陣取った利を生かし重力を糧に突撃する。

20騎の敵騎兵は10名の軽騎兵が持つ弓に射殺され、サーベルで斬り落とされる。戦意を喪失した傭兵崩れはそのまま蹂躙されるに任せる。数分後全滅した敵を残し男爵軍は去っていった。


ウォルバート男爵領は爵位の割に広い。それは領土の殆どを人類未踏破の大森林が存在するからである。上質な鉄鉱石やミスリル、オリハルコン等の鉱産資源によって裕福であった。慣れど海に面する国の端。辺境であり田舎のこの土地に引きこもったウォルバート家の彼らは金満商人と中央の貴族や有力な領地持ち貴族からは馬鹿にされていた。ウォルバート家当主は現在アーサーの父コルナーである。だが、実務を優秀な息子アーサーに任せ、己は愛人と悠々と暮らしているのである。内乱後、ウォルバート家は鎖国体制に移り王都へと拠出し続けた資産を溜め込んだお陰でミニエー銃を量産し質の高い軍を維持している。サーベル騎兵が100、弓騎兵が50。ミニエーライフル隊が200。そしてアーサー直下の近衛猟兵150である。近衛猟兵は魔術師であり、剣術も扱う魔導騎士である。平時ですら500の戦力を持ち有事にはミニエーライフル2000、軽騎兵800が緊急展開可能な様に維持されている。昨日も隣接するサルベートン辺境伯領が独立派のソナリエーテ伯爵軍の侵攻を受け併合された。反王室の独立派と王家を奉じる王権派との争いに終わりは見えない。今回も貢納金で済ませた。


「アーサー様。ロバート様のお越しです。」


僕の叔父上にあたる、ロバート・リッター・フォン・ニコライエン子爵。我が領地から多数の支援を受け僕達よりも多くの兵士を持っている。何より名馬の産地1000の騎兵は強い。


「お久しぶりです叔父上。」


「おう、アーサーも大きくなったな。義弟は?」


「父上はいつも通りです。」


「妹に会いたい。」


「勿論、ゼバス。案内するように。」


ちょうど部屋に入ってきた執事長のゼバスに命じる。すると黙って書状を差し出した。


「早馬?」


書状の内容は王家の紋章入の馬車が領内で野盗を装った騎士数十名に追われながら侵入してきたところだ。既に騎兵100が応対中との事だ。


「叔父上申し訳ありません。」


苦笑した筋骨隆々の叔父は直ぐに部下300を貸してくれた。近衛猟兵150を急き立て、膠着状態の地点に急行している。


「貴様等!ここがウォルバート家の領地と知っての狼藉か!」


家中1の大声の持ち主、ギルベルツが大音声をあげる

敵の数は報告と異なり150ほど。


「退くぞ。」


先頭の騎馬兵が引き返すと150騎は帰って行った。僕はある程度、誰か予想出来ていた。


「剣姫ローゼ様らしくありませんね。普段は派手にされるお人でしたでしょう。」


「貴様、誰だ!」


馬車に付き従う5名の騎士。そのうちの1番豪華な装いの騎士が叫ぶ。


「失礼します。アーサー・フォン・ウォルバート男爵公子に御座います。」


「アーサー?アーサーなの!」


おやめ下さいと侍女の声が聞こえる。面識のある幼馴染の侍女のフローラだったかな?


「ええ、お久しぶりです。」


彼女は馬車から飛び出すと馬を降り、立ち上がった僕に抱き着く。彼女は今16歳。未だ幼さの残る年齢だ。本来は大人達に守られ、王族として蝶よ花よと育てられる筈だった。

身体への衝撃は軽い、それも以前より。


「ウォルバートの家名にかけて殿下方をお守りしましょう。我が屋敷へ。」


騎士1人を走らせ使用人達に秘密裏に迎える準備をさせる。更にそろそろ面倒になってきた父親を飼っている暗殺者に命じる。あの男は殿下を売りかねない。そうなればその地域も危ない事を理解していない。凡愚だ。

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