第2章 私はモブだったはずなのに

Ep.0 新婚夫の溺愛は、モブには少々甘すぎる

(王都は星が少し少ないけど、代わりに夜景が綺麗ね……)


 夜が大分冷え込み始めた秋の始まり、結婚式も終え生活の基盤も安定してきた私とガイアは、正式に王都に構えたエトワール公爵邸で暮らし始めた。

 前世で言う電気の代わりに“魔光石”と言う特殊な光る石を使ったこの世界の明かりはひとつひとつ色が異なるので、テラスから見下ろす街は淡い色とりどりの星が瞬いているようで本当に綺麗。


「こんな夜更けに夫を放ってひとりで夜景鑑賞とは、つれない奥様だな」


「きゃっ!ガイアったら、どうしたの?」


 と、不意に背中からブランケットをかけられ、そのままガイアの腕に包み込まれるように抱き締められた。突然のことに真っ赤になる私に対し、ガイアは余裕のある表情で甘く微笑む。


「どうしたじゃないだろう。ふと起きて妻が隣に見当たらなかったら普通心配すると思うが?こんなに身体を冷やして……一体何時からテラスに居たんだ」


「えっ?えぇと……いつからでしょう?」


 今が何時かはさだかじゃないけど、月の高さから私がテラスに出た時から大分過ぎていることはわかる。誤魔化すように曖昧に笑えば、ガイアはジト目でしばらく私を見た後、ブランケットごと私を軽々と抱え上げた。


「きゃっ!な、なに!?」


「このまま外に居たら夜風が身体に当たるだろ?寝室に戻ろう」


「なら家の中なんだし、私自分で歩……「却下」何故!?」


  お姫様抱っこのままゆっくりガイアが歩くから、柔らかな揺れがまるで揺りかごのようだ。ガイアの腕の中の暖かさも相まって気が緩みそうになるのを耐え、どうにか下ろして貰おうと交渉を試みる。


「ち、ちょっと寝付けなくて夜風に当たってただけで、別にガイアから逃げた訳じゃないのよ?それにほら、スチュアート伯爵家実家や寮と違って家に自分達以外の気配が全然ないお屋敷だからまだなんか慣れないと言うか……ーっ!んっ……!」


「……っ、たく、照れ隠しは結構だが、夜中なんだから静かにな。あんまり元気が過ぎると、次はもっと長く口を塞がないといけなくなるが?」


「~~~っ!!」


 私の言い訳を書き消すように口づけをして、ガイアが悪い笑みで更にとんでもない宣言をする。頭がショートして声が出なくなっているうちに、気づいたら寝室まで連行されていた。


 そのまま優しくベッドに下ろされ、腰から離れたガイアの手が今度は私の指先を絡めとる。慈しむような優しい感触がこそばゆくて小さく声を溢すと、不意にガイアの手が強ばった。

 妙な間を置いた後、突然先ほどより荒々しく唇を奪われる。


 呼吸も上手く出来ないほど、長く。慣れないけど甘美に脳を麻痺させるその感覚に追い付けず、ようやく解放された時には身体に力が入らない。ぐったりして彼の腕にもたれたまま上を見上げると、ガイアの眼差しに一瞬強い色が滲んで消えた。


「……全く、まだまだ初だな。セレスティア?」


「ーっ!だっ、だって!嫌じゃないけど恥ずかしくて……っ!」


「はは、わかってる。無理をさせて悪かった。さぁ、もう寝ないとな。冷えたまま寝て風邪を引くと困る、温かい飲み物だけ淹れようか」


「あっ……!」


 口づけの間に少し乱れた私の服を軽く直して毛布を被せた旦那様は、女の筈の私顔負けの色っぽい笑みで『楽しみは後に取っておくさ』と言い残してキッチンに去っていく。

 追いかけようとしたが上手く起き上がれずベッドにへにゃんと崩れ落ちた私は、枕を抱き締めひとり悶える。


(ううぅぅぅ、結婚式からずっと毎日毎日こんな感じ……!ガイアの声とか、指先とか表情とか、こんな甘かったっけ!?ゲームのスチルなんか目じゃないくらいこう、なんかこう……!!!)


 そのうち全身が砂糖になってしまうんじゃないかと言う勢いの甘さに浸されている私の身体は、飲み物なんか必要ないくらい既に温まってしまっているのだった。



   ~Ep.0 新婚夫の溺愛は、モブには少々甘すぎる~






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