Ep.28.5 悪の令嬢は優雅に笑う
「どうしてセレスティア様は私を避けてあんな忌み子を側に置くのですか!!意味がわかりません!!!」
スチュアート伯爵領から少し離れた浜辺に建つ豪奢な別荘の一室で、マークスは先程から一時間近くもそう騒いでいた。居なくなったセレスティアを探しに行く際に『邪魔しかしないから』とガイアスに拳一発で気絶させられて除け者にされたことが余程気に入らなかったらしい。
「あの騎士は危険です!今は従順であっても強大な魔力でいつ反旗を翻すかわかったものじゃない。そんな危険人物より私の方がずっと彼女を幸せに出来る筈です!貴方もそうお思いでしょう!?」
ギリッとハンカチを噛みながらまだ癇癪を続けている26にもなる大の男に呆れた素振りすら見せず、同意を求められた金髪の少女は優雅に頷いた。
「そうですわね。セレスティア様の為にもガイアスの為にも、彼らは一緒に居るべきではないと私も思います。ガイアスのあの強さは彼女には必要ありませんもの。彼の力は常に危険にさらされる高貴な者の為に使われてこそ役立つ。そうすることこそ彼の幸せですわ」
いかにも貴族然とした態度で同意を示したのは、ガイアスの本来の主であるナターリエだ。そして彼女は同時に、マークスが率いている研究室に資金を出しているオーナーのような立場にある。そして彼女こそ、マークスがセレスティアに惚れた事を好機として彼に『貴方達の出逢いは運命ね』と吹き込み焚き付けた張本人でもあった。
「そうでしょう!?あの男にセレスティア様の隣に立たせるべきでは無いのです!しかしセレスティア様はお優しいので、きっとあの忌み子はそこにつけ込んで彼女を懐柔しているに違いない!」
「まぁ、それは恐ろしいですわね。セレスティア様を魔の手から是非助けて差し上げなければ」
「私もそう思っておりますが、どうにも良い手だてが浮かばないのです。なにかよい案を頂けませんか!?」
マークスのその問いにナターリエの唇の端がニイッと上がった。待ってましたと、そう言わんばかりに。
「ようは、セレスティア様に彼女の運命の男性は貴方だとわかって頂ければよいのでしょう?だったらこう言うのは如何かしら?」
あくどい笑顔を消し、ポンと手を合わせたあざといナターリエがマークスになにかを耳打ちする。それを頷きながら熱心に聞いていたマークスは、『それは素晴らしい!すぐに実行せねば!』と元気に立ち上がり屋敷を飛び出して行った。
「……ふふ、本当に扱いやすい男」
「全くですね~、踊らされてるとも知らないで」
扇子で口元を隠しつつ忍び笑いを漏らしたナターリエの背後にあるクローゼットからことの成り行きを見守って……基、監視していたルドルフがニヤニヤと張り付けたような笑みでナターリエを見た。
「でも良いんです?お姫さん。あんな危険な提案しちゃって。足が着いたら困るよ?」
「あら、良いのよ。だって私はただキラービーの討伐場所を所長に教えただけですもの。そこで“何かがあって”同伴していた領地のご令嬢が亡くなられても、それはただの事故に過ぎないわ」
物騒な台詞に反してふふっと可憐に笑うナターリエのその姿に、全く恐ろしい方だとルドルフは一人肩を竦めた。
~Ep.28.5 悪の令嬢は優雅に笑う~
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