星の船が往く

しえず

星の霧

 ちりちり、ちりちり。

 遠くから澄んだ音が聞こえる。はっと息を呑んで私は窓の外を見た。糸で作られた細やかな模様の向こう側、一枚の硝子を隔ててそこにある。

 街灯の消えた宵闇の中、内側から輝く光が集まって鈴のような音を立てながら流れていく。

「星の霧…」

 先生がそう呼んでいた。水が流れて砂に洗われて霧となって昇る星のカケラたち。水の尽きた川底から出てきた小さな結晶が重なり合い押し合い潰れて飛び散っていく。星のように内側から光って、お互いぶつかるたびに小さな金属音を鳴らす。だから、星の霧と呼ばれている。そう聞いた。

 音をたてないように充分に注意しながら硝子戸を開ける。ちりちり。先ほどよりも大きく耳を掠めた音。目の前を大きな白い絨毯のような霧が横切った。内側から輝くのかお互いの煌めきを反射しているのか、光と音をふりまいて上へのぼっていく。

 綺麗だ。ほう、と溜息を吐いて、霧を目で追う。

 ふと、星の霧が一定の方向へ動いていることに気付いた。宙に浮いたそれらはゆらりゆらりと漂いながらも、意志を持っているようにある一点へと伸びていく。

 その先にいた、白い人。互いをぶつけ合っては瞬き、美しい音を奏でる星たちを、無造作に引き寄せると、星の霧は白い手に一度降りてまた昇っていく。恐ろしいほどに色がない冷たいその人は、ただ還っていく星を見ている。彼が機械的に手を動かすと、星の霧は手の内へ吸い込まれるようだ。

「…先生」

 つい唇があの人の名前を紡いだ。

 ちりり

 耳元で甲高い音が響く。瞬きをした瞬間、私はそこに立っていた。星たちの光を受けて煌びやかなサファイアの壁、その間を漂う星の霧。ちかちかちりちり。いくつもの音が集まってさざめく。

 窓の外、白い人が立っていたその場所だった。白い霧の中に煌めく両腕がある。下を見れば足もまた白く輝いて、きっと顔も髪の毛も全部同じようになっているのだろう。まるで夢のような光景。普段見慣れているはずの町並みさえも色を変えている。

 両掌の上で、星の霧が渦を巻いてから昇っていった。掌へ一度降りてくるたびに、きん、きん、と水琴窟の音を思い出させて目を閉じる。洞窟の中、水が膝まで満ちている。ひんやりと冷たくて濡れた壁が光を滑らせていく。上から零れてくる水滴が少しずつ少しずつ溜まって、美しい音が響いた。

 水琴窟か、確かに星の霧にぴったりだね。隣に探していた先生がいるような気がして、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。星の霧の中に立つ私に笑いかけてくる細い目が見えそうだった。

 星が落ちて跳ねて奏でる、柔らかくて硬質な音。先生が綺麗だと笑ったそれを今度はずっと聞いていたくて、私は耳をそばだてた。

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