婚約破棄は嫉妬です

ニート

第1話

 わたしは生まれつきIQが人より高かったらしい。知能指数検査では低い数値しか出ないものでも動作性と言語性ともに190を超え、検査によっては両方とも200を大きく超えることもあった。学校の勉強は簡単すぎた。つねに五学年以上上の問題を解いていたがそれでも物足りなかった。だからゲームを始めることにした。頭の体操がてらに始めたチェッカーである。最初は遊びが少なく簡単でつまらないものと思っていたのだがやってみるとなかなか奥の深いものだと感じた。地元の連中にはルールを覚えて間もなく負けることがなくなったためその後はインターネットでやるいわゆるオンラインチェッカーというものに戦場を変えた。世界中のチェッカー愛好家たちがこぞってプレイしに来るもっとも大手のサイトで毎日数十局、いや百局を超えるほどプレイした日もあった。レーティングはうなぎのぼりに上昇し始めて三日で2400、一週間で2600、一月経ったことろには3000を突破した。そしてオンラインだけではなく国の大きな大会であるナショナルオープンやナショナルチャンピオンシップにも参加して対局日程の関係であらかじめ棄権したゲーム以外すべて無敗で優勝することができた。これで晴れてオンラインだけではなくライブでも国の代表としてチェスの国際大会代表としてやっていけることになった。チェッカーにプロというものは世界中探しても基本的にそういった制度がある国はわたしの知る限りほとんどないはずではあるが、運よくこの国にはチェッカーをたしなむ貴族が大勢いたためそういった貴族のインストラクター兼遊び相手としてそれなりの報酬を得られる仕事に就くことまでできた。その縁もあってか法王とも親しい仲になったことで王族との縁談の話まで決まった。平民出身のわたしが王族と結婚するなど本来ならありえないことであるはずなのだが、チェッカーの実績によって示したものがそれを覆したとでも言うのだろうか? そんな不可能が可能になったのである。まさにわたしのために至れり尽くせりの国であることに感謝していた。まさかあんなことになるまでは……


 今考えれば当然のことかもしれないのだが、そんな才能一つで上がってきたわたしを妬む上流貴族全員がそう言った下克上を気分よく思ってるわけがなかった。同性の貴族の妬み僻みについては言うまでもないだろう、だがとくにひどかったのは異性の嫉妬だったようだ。男は女より知性が上であって当たり前! そういった古い考え方が今も根強く残っているこの国の貴族社会では女の私が男女混合でこの国のチェッカー界のトップであるという事実を受け入れられるわけがなく、どうにかしてわたしが得た地位を奪いそれだけではなくわたしがもっとも苦しんで死ぬようにするにはどうすれば良いのかを毎日どんな時もずっと考えていたらしい。いくらわたしがチェッカーが強いと言っても人間の嫉妬心というものはことさら複雑だ、とくに私のような家柄こそ良くなかったものの小さなころから思ったことは何でもできて誰にも何でも負けることはなく、挫折や劣等感を感じたことなど一度もなかったのだから……


 国は同じ貴族たちが統治する国内チェッカー協会とグルになってわたしを潰す政略を水面下で着々と進めていたのである。しかし私がそれを知るはずもなかった。この国を代表してチェッカーを通じて他国と代理戦争し勝つことが私に課せられた唯一にして絶対である使命だと信じて疑わなかったのだから……

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