ポーション成り上がり。~楽に簡単に稼げるスキル下さい~
夜桜 蒼
第1話 当たる時は当たる。
「あっつぅ、この異常気象は死ぬぞ。むしろ働かせる会社は社畜を殺すつもりか?」
八月も中旬。夏の真っ只中である今日この頃、炎天下に照り付けられながら書類の入ったカバンを片手に暑苦しいスーツを着込んで取引先の会社を目指して歩く俺。
車や電車、バスは経費の削減の為に使用を禁止され、このクソ熱い中、駅三つ分の道のりを徒歩で向かわされていた。
時間は余裕を持って貰っているので約束の時間に間に合わないからと走る必要はないけど、これは歩いているだけで汗だくになってしまう。
しかもこの移動の時間は仕事とは関係がないとのことで残業と相殺すると言われている。ただでさえ安月給の上、残業があるのにその残業代まで削られてやってられない。
「はぁ、働きたくねぇ」
高校を卒業してすぐに入社出来たのはいいけど、まさかこんなブラックな会社だとは思わなかった。一日の拘束時間は14時間を越えて移動などに使う時間は残業と相殺。会社曰く、移動時間は好きに使って構わない、ただし約束の時間に遅れない様に、とのこと。
この会社は日中の業務より夕方から夜に掛けての業務の方が忙しいので日中の外回りなどの時間を残業代に回す心づもりのようだ。だから移動の時間はかなり多めに取ってあるし、徒歩でも十分間に合う。
先輩からはバスや電車で早めに現地に行って近くで休憩するように言われたが、交通費は自腹だし勿論休憩中のジュース代も出ない。喫茶店に何も頼まず入るのは無理だし、それなら徒歩で向かってやろうと思ったのだが、この時期にやることではなかったようだ。
「……あ、宝くじ売り場」
目的地まで半分ほど着た所で宝くじ売り場を発見してしまった。
安月給で金はないが、もしも当たれば一発逆転だと思い少し前から買っていた。「買わないと当たらない」良い謳い文句だ。「買っても当たらない」が真実だと思ってもついつい買ってしまう。
もしかしたら、ここまで買い続けたから、今回こそは、今日は運がいいから、宝くじを買う理由付けばかり浮かんでなけなしの金が更に減ってしまう。
俺はこんなに苦労しているし、そんな俺を見ている神様が当たりくじに巡り合わせてくれるかも知れない。余裕が無くなって来ると現実逃避にいないものにまで縋ってそれを理由に夢を見てしまう。
頭では分かっているけど、それでも、もしかしたら、万が一が、そんな事が浮かんでは消えて、結果宝くじを購入しているのだ。
「…………当たったら仕事を辞められる。……ここは勝負に出るか」
もはやダメ人間の考えだとは分かっているのだが暑さにやられた頭は普段以上に正常な考えをしてくれない様だ。
五分後、財布にあった虎の子の諭吉さんが消え、数十枚の宝くじが手元に。
いつもは数枚しか買わないし、これだけあればどれか当たるはず。プラス思考が頭を埋めてくれるのが先日見たユーチューバーが百万円分のロトくじを買って全て外れている光景がフラッシュバックしてくる。
途端に不安が湧き上がるが、俺は大丈夫、大丈夫だ。と根拠も何もない考えと共に当たったら何を買おうかと素敵な夢を思い描きながら歩き出す。
そうだな、異世界へのチケットを買って、異世界で別荘を買って、異世界でハーレムを…………。
キーーーン
夢は無限大。当たったら、そう、当たったら。
ド、――そして俺の意識は暗闇に飲まれた。
◇
気付くと暗闇にいた。何も見えない、触れない。自分の手足もなにも見えない完全な暗闇。
街中を歩いていたはずなのにいつの間にこんな場所に来たのか見当もつかない。いや、それどころか記憶があやふやだ。宝くじを買った所までは覚えているがその先が定かじゃない。こんなことは初めての経験で恐怖が体を巡るようだ。
「意識が定まったようじゃのう」
(ッ!! だ、だれか、いるんですか?)
いきなり暗闇から老人の声が聞こえてきた。ただ声の出所が全然分からなかった。正面から聞こえたのかそれとも背後から聞こえたのか。周りを見渡そうにも全てが暗闇で視線が動いているのかさえ分からない。
「あー、探しても無駄じゃよ。お主には見る事は出来んし、声を出すことも出来んからな」
(は? 何を言って…………声が出ていない? え? 俺の身体はどうなって――)
「落ち着け、精神が乱れるとまた意識が遠のくぞ。儂には聞こえておるから心配するな」
(…………俺は死んだんですか?)
「うむ、残念ながら即死じゃな。痛みどころか死んだ事すら察せれんかったじゃろうな」
やっぱりか。身体の感覚がないし、もしかしてこれって魂だけってことか? 目も口もないから見たり喋ったり出来ないのか。あれ? でも聞こえているし話せてる?
「儂には主の声が聞こえておるし、儂の声は万物全てに届く。魂だろうと例外はない」
(神様ですか?)
「お主の知識に有り、分かり易く伝える為の人物像としてはそうなるじゃろうな。じゃがお主が考えるソレとはまた違った存在でもある」
(なぞかけは苦手でして、分かり易く――あぁ、だから神様ですか。そう思っておけという事ですね?)
「そう言う事じゃ。そしてお主が期待している通り、儂はお主を転生させる為にここにおる」
(……流石は神様。矮小な人の考えなどお見通しでしたか)
「…………先程まで不安と怯えで魂がくすんでおったのに今は期待と喜びに魂が輝いておるじゃろうが。儂でなくとも誰でも分かるわい」
確かに死んだことに不安や怯えはあったし、こうして神様と対面? 出来たことでラノベの異世界転生を期待出来る喜びに打ち震えているけど魂が輝き出しているのか。死んで喜んでいるって我ながらかなり末期だな。
「その通りじゃ。儂が作った世界で死んだというのに別の世界に行けると喜ぶなど不届きにもほどがある。転生を喜ぶ輩は辛い人生が待つ転生先を与えたい所じゃ」
(大変申し訳ございませんでした! せっかく神様のおかげで平和な世界で安寧と生きて来たのに、別世界に夢を見てしまって申し訳ありませんでした!)
「…………そうじゃ、儂の作った世界は人間には生き易い世界なのだ。他種族や魔物など人間の脅威が
(えっと、そんな謝られるような出来事があったんですか? 無残? 全然覚えていないですし実感がないんですけど?)
「それはそうじゃろう。お主は認識出来ておらんからな。死んだこと、これまでの生活、家族や友人などを明白に覚えていると精神に支障を来すことがあるからな、そこら辺は思い出せんように記憶を弄っておる。それに即死じゃからそもそも死因はお主は知らぬからな。お主が死んだのはハズレくじを買った後、道を歩いておると野球ボールほどの隕石がお主に激突したからじゃ。衝撃波で肉体は飛散し即死じゃ、体は19862個の肉片になりほぼ蒸発した。道には小さなクレーターが出来たがお主以外被害は皆無。目撃者も居らんかったからお主の死に気付いた者はおらん。お主は失踪者扱いじゃな。本来なら儂が人の居らんところに誘導するのじゃが、ハズレくじ片手に儂の世界ではなく異世界での買い物やらハーレムなどを夢見ている愚か者がおって思わず手が滑ってしもうたからの。ハズレくじが当たったとしてどうやって異世界に行くつもりなのかは知らん、金で行けると思っておるのかのう? いや、儂の手元を狂わせる秘策だったのなら思惑通りではあるじゃろうが…………」
(…………俺が悪かったのでそろそろ許してくれませんか? あと俺は宝くじを買ったのであってハズレくじは買ってませんからね?)
「なんじゃ、愚痴を言う機会は余りないのだから多少付き合ってくれても罰は当たらんぞ? 」
(居た堪れなくなるので勘弁してください。あと宝くじはスルーですか? もう消し炭になっているし今さらどっちでもいいですけど。……それで、俺は話の流れから察するに獣人や魔族など他種族が多数いる魔法有り、魔物有り、冒険有りの異世界ファンタジーに行くってことで良いんですか?)
「うむ。お主が思っている異世界とは少し違うだろうが、概ねその通りじゃ。そしてお主の期待通り、お主に一つスキルを授けてやろう。発端はさておき、儂のミスでお主を死なせてしまったのじゃからな」
(おお、チートスキルですか。定番と言えば定番ですが、これが無いと異世界には行けないと言っても過言じゃないからな)
「はぁ、最近はそればかりじゃ。昔は檜の棒で十分じゃったのに、今では勇者の条件は他を圧倒する無敵スキルじゃからな。…………これもあやつ等がふざけた干渉をするからじゃ。まぁよい、何か要望があるならあやつ等に伝えるぞ?」
(そうですね…………本当は俺TUEEE無双したいですけど、俺って戦いには不向きだと思うんですよね。それに折角異世界に転生するなら汗水垂らして働きたくないので、楽に生活できるように戦い系のスキルじゃなくて生産系のスキルが良いです。あぁ、余りチート過ぎる能力は現地の人達の反感を買いそうだから普通の人でも努力すれば可能なレベルの技術を簡単に扱えるスキルでお願いします)
金属を錬成スキルを使って簡単に武器を作るとか、薬草を調合スキルで苦労も無く薬を生み出すとか、料理を調理スキルで古今東西の全ての料理が意識せずとも作れるようになるとか。普通の人でも可能なことがスキルで簡単に苦労せずあっという間に出来るようになりたい。そこそこに働いて成果は達人級になるようなそんなスキルが欲しいのだ。
楽して働き大金を稼ぐが他所から見たら凄い技術を持っているからこそ大金を稼ぐことができるんだと尊敬されるような存在が理想だ。
「…………これが儂の世界で育った若者の考えか。…………そろそろリセットするかの?」
なにやら不穏な言葉が聞こえてきたが聞こえなかったことにしよう。どうせ家族や友達の記憶が無くなっているから天涯孤独な人生だった感じしかしないからな。生活の知識や仕事をしていて辛かったことは覚えているのに同僚や家族のことは意識から除外されるみたいに思い出せなくなっているな。それに疑問も思わないし、流石は神の御業だな。
「はぁ、まぁ良い。どうせあやつ等の世界じゃ、精々引っ掻き回すといい。……どうせあやつ等もそれを望んでおるだろう。お主の要望は伝える。悪い様にはならんだろう。詳しい話は向こうで聞け。では、さらばじゃ、お主の新たな生に祝福を」
(え? あれ? なんか急に雑に?)
「気のせいじゃな。それではお主の息災を祈っておる」
神様の声が遠くなる。視界は相変わらず真っ暗だから感覚が分からないけど急速に離れている? あ、意識が飛びそう、これって大丈夫なのか――?
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