第17話

 夜食室から、アリスが連れ出されるのを確認した。連れ出したのは、予定の人物だ。

 私は、ルフォールと警察が待つ普段使って無い部屋いく。

 受信機は順調に、アリス達の行き先をトレースしているようで、郊外の我々が事前にチェックしていた屋敷の1つに、入って行った。

 もう、この時点で誘拐だと思うのだが、夜食室から付いて出たのは彼女の意志だし、自分で付いていっている。

 薬品を嗅がされて馬車に連れ込まれたと言っても、いくらでも言い逃れが出来るだろう。


 そのうち、盗聴受信機にもハッキリ聴きとれる声が聞こえてきた。録音するように、指示が送られる。

『………ねをしてすまなかったね。……』

 色々恨み言を言っているようだ。

『まぁ、ゆっくり考えなさい。どうせ、ここは見つからないし……。朝までは、たっぷり時間があるし。自力で逃げるなんて君には、不可能だろうからね』

 警察が動くには、これで充分だ。ザッっと音がしそうな勢いで立って、みんな一斉に、目的の屋敷に向かう。

 盗聴受信の魔道具(録音中)だけは、しっかり持って出た。

 なんか、うんうん言ってるようだけど、大丈夫だろうか?


 しばらくして、小さい声で

『マルセルさん。私、お母さんのお兄さんのお屋敷の3階にいます。』

 って、聞こえてきた。

 こちらから、発信できないのが、もどかしかった……。


 やっと、エルヴェシウス子爵家が持っている別邸にたどり着いた。

 警察も皆、馬を降り、所定の位置に付く。

 アリスが、邸内にいて、犯人をヘタに刺激すると人質にされて逃げられる可能性が、あるからまだ動けずにいる。俺と、ルフォールは屋敷の門を押してみた。………意外と、スッと開いて、驚く。

 慣れない事をして閉め忘れたのか、余程、内部のセキュリティーに自信があるのか……。

 どちらでも良いが、少し助かった。3階という事は、分かっていても、そこそこ大きな屋敷だ。どこにいるのか、分からないうちは、相手との接触を避けたい。

 さて…3階のどこら辺だろう……と、窓を見上げて、また、驚いた。

 って言うか、腰を抜かしそうになるほど驚いたのは、これが初めてといっても良い。

 見上げた先にいたのは、アリス。それも、尋常じゃ無い姿で……。

 だって、3階から、カーテンやシーツを繋ぎ合わせて垂らした物に、夜会用のドレスを着たお嬢さんが、しがみついて動けなくなっている姿なんて、普通、物語の世界にもあり得ないだろう?


 それでも、2階の下くらいまでは降りてきているのが、けなげというかなんというか……。

「アリス」

 俺は、ルフォールと一緒に、アリスが、降りてきてるすぐ真下まで来た。

 アリスは、俺らの顔を見てホッとしたような、嬉しそうな顔をした。

「マルセルさ……きゃっ!!」

 ドサッ!!

 アリスは、俺のお腹の上の乗ってる。落ちて来るのを受け止めて、そのまま支えきれず転がってしまったからだ。

「ごめんなさい」

 焦って、俺の上からどこうとしている。

「大丈夫だから。

 それより、悪かったね。こんな事させて、怖かっただろう?でも、もう大丈夫!!警察も突入を始めたし……」

 横目で見てた警察の動きを、アリスにも伝えた。

「さ…。お急ぎください。今でしたら、まだパーティーに充分戻れます」

「ルフォール…」

 無粋だぞって言いたかったんだか、

「婚約パーティーの主役お二人が、最後にいなかったらおかしいと思われますよ。

 今でしたら、アリス様のドレスを着替える時間もありますから…」

「そうですね。そうさせてもらいます」

 アリスの方が、立ち直ってさっさと、行動に移す。

「マルセルさん?」

 なかなか、動かない俺を心配そうに見つめるアリスに、笑って見せて

「それじゃ、最後の御役目を果たしに行きますか……」

 と言って、立ちあがった。

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