第4話 私の婚約者
私の両親が馬車で事故に遭ったと学校にあってから、その後の記憶はあまり残ってない。
なんでも、郊外を通ってたときに山賊にあったとか、単に道を踏み外して馬車ごと崖から落ちたとか、いろんな事が聞こえてきて。
お葬式の時に、ベルトランおばさまが居なかったら、両親の遺産は私の手元に残らなかっただろう事は、おぼろげに覚えているのだけど。
気が付いたら、見知らぬ男の人と同居することになっていた。
婚約者…。
そういう人が居ることは、母が生前言ってたような気がする。
でも、正式なことは、私が大人になって双方の意思を確認して決まるはずだった。
そう、こんなことにならなければ…。
目の前にいる男の人も、呆然としているような気がする。
背が高くて、茶色の髪はちゃんと整えられている。
何より、ものすごくかっこいい。舞台の役者さんみたい。
……迷惑なんだろうなぁ~。
子どものお守りをいきなり押しつけられたみたいで…。
さっき、帰るお家の事とか、聞いてきたし。
そんなことを考えていると。
「俺は、マルセル・ベルトランというのだけど、君の名前を聞いてなかったね」
すぐ横に腰掛けられて、ふんわり肩の辺りが暖かくなった。
しばらくして、肩を抱かれたんだと気付いた。
顔は笑っているのに、目が笑って無くて…。なんか、怖い……。
「あ…アリスです。アリス・バシュレ」
「アリスちゃんか…これから、一緒に暮らすんだ。そんなに堅苦しくしてないで、仲良くやっていこうよ」
そういうと、どんどん顔が近づいてきて……。キスされるって思って、ぎゅって思わず目を閉じた。
やだやだやだっ。
チュッて音がして、おでこに生温かいものが触れた気がした。
半泣き状態で、多分、私ものすごく変な顔してると思う……。
ベルトランさんは、さっきまでの顔と違い、ちゃんと子どもを見る顔に戻ってた。
「部屋は、狭くなるけど奥のゲストルームに使っているところしか、鍵かからないから」
「あ…はい」
「一応、ロリコン趣味は無いけど。付き合いでお酒飲んで帰る事もあるから、鍵はかけて寝るようにね」
言いながら、ソファーから立ち上がった。
さっきまで、あんなに怖かったのに、離れていく体温が、恋しくなって、一緒に立った。
「あのっ」
「……ん?」
「よろしくお願いします」
思わず、ぺコンと頭を下げたら、
「こちらこそ、よろしくね」
って、今度はちゃんと優しい顔で笑ってくれた。
がんばろう。邪魔にならないように、迷惑だと思われないように…。
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