第3話

 1週間もすると、必要なものがそろってくる。

 無機質だったゲストルームも、彼女の手によってそれなりに可愛く女の子らしい部屋になってた。


 学校の方は、下位貴族と平民が普通に通う…でも、いわゆるお嬢様学校と言われるところに通っていた。

 オフィス街に近く、元の自宅よりこちらの方が近いくらいらしい。


 アリスは、結局家事全般やってくれている。

 しなくていいと言ったのだけど、やらないと気持ち悪いらしい。

 こちらに気を遣っているのだろうか。

 自室は、各自やるように約束をして、無理をしないように約束させた。


 今まで、付き合った女性ですら、家に呼んでない。もちろん、家事もさせた事なんて無い。

 俺は、自分のことは自分で出来るし。プライベートな空間まで、他人に踏み込まれたくないんだ。

 ……プライベートな空間は、アリスの出現によって、アパートメントの一室まで減ってしまったけど。




「マルセル?どうなさったの?」

「あ…ああ、いや…失礼」

 つい、家でのことを思い出して、苦笑いしてしまっていた。


 ここは、ホテルの一室。


 さっきまで、ホテルのレストランで食事をして、部屋を取ってあるからと、連れてきたんだっけ。

 彼女は、うちの会社の従業員で…まぁ、今まで大人の関係を続けてきたわけだが…。

 相手が子どもで。お互いそういう気持ちが無くても、一応婚約者が出来た訳なので。

 そんな関係でも、今まで二股だけはかけていない俺としては、この関係もきちんと精算しようと思っていた。

 邪魔が入らないように、ホテルの一室をとったに過ぎないんだが。

「セシル…いえ、ナヴァールさん。

 もしかしたら、社内でも噂になっているから、知ってるかも知れませんが…。

 私は今、婚約者と暮らしてます」

「知ってますわ。ずいぶん可愛らしいお嬢さんのようね」

「ええ。

 ですから、申し訳ないのですが、あなたとの関係は、これっきりにして頂きたいのですが」

「嫌だと、言ったら?

 だって、嫌よ。愛しているのよ」

 少し動いただけで、キスでも出来そうに顔を近づけて、しなやかな腕をまわしてくる。

「……でも、あなたにも、本命の彼がいるじゃないですか」

 終わらせるのは、勿体ないけどね。仕方ない。

 色っぽく迫ってきてたのに、彼氏の話を出すと、案の定、ぱっと身を離す。

「知ってたの?」

「当たり前じゃないですか……彼は、事業の大切なパートナーですよ」

 仕事用の顔で、にっこり笑う。

「今、出向している彼を、本社に呼び戻すって云う事で、手を打って頂けませんか?

 もちろん、新しい企画のリーダーとして」

 悪い条件じゃないでしょう?

「……いいわ」

「では、私はこれで失礼。

 ここの支払いは、済ませてるので、朝までどうぞご自由に…」

 そう言って、部屋を出た。

 時計を見ると、夜の9時……

 早く帰らないと、アリスは、寝ないで待ってるんだ。

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