第5話
ワンダーエメラディア、改め、ワンエメちゃんの追撃から逃げつつ荒川の河川敷まで逃げて津崎一誠は夜の闇に閉ざされた・・・てない星明かりに照らされた河川敷のグラウンドで立ち止まる。
ワンダーエメラディア、改め、ワンエメちゃんは三十メートルほど距離を取って立ち止まると、弓を構えて狙いを付けてきた。
「ようやく観念したようですね、怪人さん。今こそ必殺の一撃をお見舞いして差し上げます」
「お断りだバカやろうなんで俺が狙われにゃあならんのだ」
「怪人だからに決まっているじゃあありませんかこのボンクラ百遍死んでください」
「お恥ずかしい格好の魔法少女(仮)なんかにやられてたまるかクソビッチ」
「ビッチって言った!! ビッチじゃないもん処女だもん!!」
激昂して地団駄踏むワンエメちゃん。
なんか可愛い。
だがここは、心を鬼にして罵声を浴びせて心の隙を突いて逃げることにいたしましょう。
「ふっはっはっはっは! ビッチをビッチと言って何が悪いのかこのクソビッチ!! 我の正体を見破ったのは褒めてやろうしかし!! 我は最強の装甲と最強の
ガクッとくずおれるワンエメちゃん。
怒り心頭といった様子で肩を怒らせて怒鳴って来ます。
「そんなの知るわけないじゃないですか! もう自由に名乗って下さい!!」
「じゃあ、まあ、ええと、適当でいいや。我が名はブラックナナシンガーZ! ゼットって付けるとなんだかカッコいいよね?」
「適当すぎてわからないしZって付ければいいってもんじゃありませんから!」
「じゃあZバンドゥム」
「カニーユのイメージ壊さないでください!!」
「Zバンドゥム知ってるって、ひょっとして見た目よりおばさー」
「私は花の十八歳だ死ねー!! ブラックナナシンガー!!」
キュンキュンと音を立ててワンエメちゃんの弓の弦が引かれて緑色の光が収束していく。
つがえられるは十本の光の矢。
ワンエメちゃんが叫んだ。
「くらえ怪人! 必殺のーーーーー、ワンダーストライカーシャワー!!」
だからその何の脈絡もない必殺技!!
カタカナで並べればいいってもんじゃないんだよこの厨二病魔法少女が!!
などとツッコむ余裕はない。
何故なら、放たれた矢はバルカン砲の如く速射連射超絶高速飛来して来たからだ!
「うおー! マジで死ぬマジで死ぬ!!」
「死ねーブラななしなんちゃら怪人!!」
怒りすぎててもうまともに名前も呼びたくないらしい。
というか、弓なのにバルカン砲みたいにバババババって音立てて光弾発射してくるのってどうなのよ!?
ひたすら躱す、逃げる、躱す、逃げる。
「おわー! このままじゃあ本当に殺されてしまう!?」
必死に躱して逃げて、ようやく光弾の雨が止むと、ワンエメちゃん相当悔しそうに(むしろ悪役が似合いそうなくらい)顔を歪めて睨みつけて来ました。
「チッ、プラスチックナマエンガーナイデスヨめ! 躱し切るとはなかなかやりますね!」
「適当に名乗ったけど適当に呼び間違えるのやめてね!?」
「怪人ブランケットナマエナンカイラネーヨ! 次の技でトドメです!?」
「もう名前と呼べるレベルじゃないし!?」
もうこうなったらあれだ。人間の姿のまま技食らったら本当に死んじゃいそうだからやむを得ん変身しよう。
ババっと両手を下腹部の前に拳を下に向けて交差させると、声高らかに唱えた。
「ガンガーイカ! セチャー、・・・ウゾナ!!」
てれれれれー、デデーンデデデデーン!
俺の身体が光に包まれ、瞬く間に姿が変貌していく。
そして現れるは、黒い光沢をたたえたまるで昆虫にも似た大男。
「な! そ、その姿は!?」
おおう。ワンエメちゃん驚いてる。
そうともそうとも、貴様らがアーマークラスゼロと言った超堅い装甲ですぜもう負けませんぜ。
「秘面レイダーブラック!?」
秘面レイダーって・・・しかもブラックって俺が学生時代のヒーローだぞ。本当にこの娘、歳いくつだ?
あ、なんだかワナワナしてすごく怒ってるっぽい。
「秘面レイダーブラックは・・・秘面レイダーブラックは・・・! 確かに悪者っぽい外見だけど超絶スーパーヒーローなんです・・・。お前なんかが・・・、お前なんかが・・・」
うん。
これちょっと洒落にならないくらい怒ってるね・・・。
だが、どうやら俺の背中には羽根のような物も完備されている(模様!)!
「お前なんかが、秘面レイダーブラックの姿を! 真似! するなーーーーー!!」
ワンエメちゃんが再び超絶速射連射爆裂波状攻撃を開始する。
津崎一誠は、背中の羽根に意識を集中するとフワリと浮かび上がり、高速で飛来する光の矢をかい潜りながら宙に飛び立ち、荒川の上を悠々と対岸目指して飛行した。
驚愕の表情でそれを見たワンエメちゃんは、地面をトンっと軽く蹴ると同じく飛行して連射を続けながら追いすがってくる。
「てか、デフォルトで空飛ぶってアリなんかーい!?」
「魔法少女はブルトラマンに勝るとも劣らないスーパーヒロインなんです! 空くらい飛べるんですザマーミロ!!」
「マジでクソかよクソビッチ! 落ちろよ!!」
「待てークソ怪人! 灰燼に帰せ!! というかビッチって言うなー!!」
最早弓をつがえる事もなく弓からビームマシンガンのように光弾を放ってくる魔法少女(?)。
攻撃を躱すのでやっとだ。マジで怖いよ魔法少女!?
川の中程まで飛行した所で、川面が騒ついて水面を波立たせて十数本の触手が伸び上がり、ワンエメちゃんを拘束する。
ん? 何だあの触手。プレイ?
「なあ!?」
「ウギョギョギョギョー! つーっかまーえたー!」
「お、お前は、魚怪人ウオツリザネ!」
そいつも名前適当かーい。
ウオツリザネはフナの身体から人の手足が生えているような姿で背中から十数本の触手を伸ばしてワンエメちゃんを拘束して言った。
「今日の釣りは大漁だウオ! 魔法少女の汗、もとい魔力クンカペロペロ!」
「くっ、は、離しなさいこの三下怪人!」
「ウギョギョギョギョー、その三下怪人を捕まえられずに逆に捕まったノロマな魔法少女が何するものウオー!?」
抵抗虚しくワンエメちゃんが徐々に引きずり寄せられていく。
ウオツリザネがこっちを見てニヤリと嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「さあ、新参者怪人、今のうちに逃げるウオ。あ、協力とかはノーサンキュー。これから俺はこの、ワンダーエメラディアちゃんをクンカクンカペロペロ萌えするから邪魔したらダメウオ」
うん。
なんかよくわからんが、物凄く腹立たしい。
取り敢えず、ウオツリザネのおかげで怪人というものがどんな存在なのかは理解した。ので。
「とーう!!」
秘面レイダーの必殺技よろしく、俺は飛び蹴りを水平に放った!!
「うぎょおー!?」
激しく土手っ腹にキックを食らってウオツリザネが川の中から弾き出されて対岸まですっ飛ばされていく。
触手に絡め取られたワンエメちゃんことワンダーエメラディアは諸共に吹っ飛びながら力の緩んだ触手から抜け出すと、弱々しく飛行して河川敷のグラウンドに舞い降りた。
そのまま逃げても良かったのだが、なんだか触手魚野郎をそのままに逃げるわけにも行かず、津崎一誠もまた河川敷のグラウンドに舞い戻ると降り立つ。
触手魚野郎がフラフラと立ち上がりながら言った。
「お、お、おのれウオ。先輩怪人を足蹴にするとは! ワンダーエメラディアは俺の獲物ウオ! 新人になんてやらないウオ!」
うーん。何だろう。
「俺が魔法少女に追いかけられるのは別に良いが、俺以外の怪人が魔法少女を痛ぶるのを見るのはすごく腹立たしい」
と言う事で。
「死んで詫びてもらおうか」
触手魚怪人は、津崎一誠の言葉にニヤリと笑うと不敵に言った。
「やれやれ、何も知らない新人怪人はしょうもないウオね。水の中では絶対無敵のこのウオツリザネ様を前にして、随分と吠えてくれるじゃあないかウオ」
「ここは
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
状況に気付いたらしく、ウオツリザネがのたのたと荒川目指して歩いて(走ってるのか?)行く。
「き、今日の所は勘弁しておいてやるウオ! せいぜい大人しく魔法少女にやられているがいいウオ!!」
全速力(?)でもたもたと歩くウオツリザネに、ワンダーエメラディアが弓を構えた。
「食らえ!! 超必殺! ワンダーストライカーシャワー・・・ビーーーーーム!!」
ズババババーっと緑色に輝くゲロビームが伸びていく。
逃げるのもやっとなウオツリザネが驚愕の表情で迫りくるゲロビームを目を見開いて見た。
「うおおおおー!? 俺は、俺はこんな所でやられる怪人じゃないんだウオ!」
怪人ウオツリザネは、緑色の光線に包まれて、ジュワーっと蒸発して、そして消滅した。
ワンエメちゃんは、その場に膝からくずおれると両手をグラウンドに付いて言った。
「っき、今日の事は・・・貸しにしておいてあげます・・・ありがたく思いなさい!」
お前はツンデレか。
津崎一誠は、これ以上は関わるのは得策では無いと判断して背を向ける。
その後ろ姿に、ワンエメちゃんが叫んだ。
「ど、どこに行くんです! わ、私、魔力使いすぎて動けないんですけど!?」
「何が魔力の使い過ぎだ。仲間の一人でも呼べば済む事だろうが。それとも、貴様は卑しい怪人に助けを求めるほど弱い魔法少女なのか? そんな事では、いつまで経っても、俺を超える事など叶わんな」
うむ、なんだか格好いい事言った気がする!
何故か必死な顔をして立ち上がろうとしつつ右手を差し伸べてくるワンダーエメラディア。
「あなたは! 一体、あなたは何者なのですか!?」
「不幸にも怪人に堕ちた、哀れな人間だよ。さらばだワンダーエメラディア」
「名前を! せめて名前を教えてください!」
うーん?
何を言っているんだこのワンエメちゃんは。言っておくが二度と関わらないんだからな。
そうとも!
関わらないのが一番!
津崎一誠は、何も言わず、夜の空に飛び立っていった。
ちょっと外見が某特撮ヒーローに似た怪人に、恋をした魔法少女がいたというのは、また別の話である・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます