敵かもしれないけど敵じゃないから見逃して!

拉田九郎

第1話 オウイエ! 今日からアナタもモンスター!

 なんだろう?

 とりあえず、こう表現しよう。

 なんだろう??

 津崎一誠は、プロカメラマンとして日本に世界にと駆け回って動物の日常を写真に収める事を本職とする傍ら、それだけでは食っていけないので小学校の非常勤用務員としても働いていた。

 よわい二十七歳。未婚男性。趣味はカメラと散歩と川ウォッチ。

 どこにでもいそうな、ちょっと気弱に見える優男。

 チャームポイントはメガネだと思っている。ど近眼だ。

 そんな彼が、荒川沿いの河川敷で強風に戯れるカラス達の遊ぶ(んでいたのか?)姿をカメラで収めていると、何も無い空から奇妙な黒い猫のような猿のようなぬいぐるみのような妙竹林な生物が脳天に落ちて来て、半分死にそうになりながら言ったのだ。


「ネェ・・・ぼ・・・ボクと・・・けいや・・・契約し・・・契約して・・・怪人モンスターになろうよ・・・ごふぅ!!」


 いまにも死にそうだぞコイツ・・・。

 脳天から血ィだらだらたらしてるし。


「ち、ちな・・・ちなみ、に・・・き・・・ごふぅ! 君も・・・死にそ・・・うだから・・・ね?」


 そうなのだ。

 この、はた迷惑な生物が脳天に墜落して来たせいで、津崎一誠もまた仰向けにひっくり返ってパックリ割れた頭から現在進行形で血がダダ漏れ状態だったのだ。

 とりあえず、この妙な事を口走る妙竹林な生命体の息の根を止めてやりたい。が、身体が痺れて動けないのでどうしようもない。


「うう、うう、うぅう・・・」


 津崎一誠が返事をしようにも、瀕死の為に言葉にならない。

 妙竹林な生物が一誠同様地面に平伏したまま言った。


「契約し・・・けいや・・・契約して、くれたら・・・一つだけ、ね・・・願いが・・・叶う・・・よ?」


 叶うって、叶えてくれる、じゃ無い所が怪しすぎる。と言うか、なんのパクリだよテメー。


「ぅぁあ、ぅぅ・・・ぁぁぁ・・・」


 瀕死の津崎一誠は、瀕死の為、ゾンビ語しか喋れない。

 そんな津崎一誠に、妙竹林な生物が言った。


「あ、ありが、とう・・・。僕、・・・魔法・・・生物・・・スーパーグレムリン! その名も! あーちゃん!!」


 何故そこだけ元気だお前・・・。


「契約、・・・け・・・けい、や・・・くに・・・同意、してくれて・・・」


 してないしてない、死にそうなだけだ。


「僕の・・・最後の・・・力を・・・使って・・・キミ、を・・・スーパー改造・・・するね・・・」


 いや、迷惑! 止めてマジで!

 と言いたいが、呻き声しか上げられない。


「ふふ、ふ・・・そんなに・・・喜んで・・・もら、え、ゴフゥ! て嬉しいよ・・・」


 いや、会話成立してないから!


「じゃあ、いく、よ?」


 いかなくていい! いかなくていい!


「チョットマ、チョットマ、デキ、アガル! チョットマ、チョットマ、デキ、アガル! 今こそここに! 闇の力よ舞い降りたまえ!」


 いや、なんでそこで元気一杯!?


「覚醒せよ! 魔法怪人、ブラックオーガ!!」


 ビカビカビカー!! っと、津崎一誠の身体が光に包まれた。

 怪我は一瞬で治り、一誠の身体が歪な漆黒の甲冑を纏った大男に変身する。

 胸元に紫色に光る金属のコウモリバッジ。

 所でよく観察してみると、甲冑じゃなくて虫の外骨格っぽくないかコレ・・・。


「オイ、ちょっと、何勝手に人の体いじってくれてんだよ!」


「その、コウモリバッジが・・・変身・・・アイテム・・・だよ・・・ゴフゥ!」


「オイ待てコラ、勝手に死にそうになってるんじゃねーよ、元に戻せよ!」


「魔力が、きれ・・・たら・・・勝手にも・・・勝手にも・・・勝手に戻る・・・から・・・心配・・・しな・・・いで・・・」


「いやいやいやいや、自由に戻れないとかどんだけポンコツだよふざけんなよ!」


「変身・・・ワードは・・・ガンガーイカ! セチャー! ウゾナ!・・・だよ・・・忘れな・・・いで・・・」


「いや待てふざけんなよ! 何!? その適当かつハズカシイ変身ワード!?」


「これから・・・キミは・・・数多の魔法・・・数多のま・・・数多の魔法・・・少女達と・・・死闘を・・・繰り広げる・・・事に・・・なる・・・」


「はあーーー!?」


「頑張って・・・闇の・・・力を・・・広める・・・んだ・・・世界・・・混乱の為に!!」


「しねーよ! 死ねよ!」


「・・・ゴフゥ!!」


 ・・・・・・死んでしまった・・・。


「おい、待てオイ! 俺をこんな姿にしたまま死んでるんじゃねーよ!? 元に戻せよ! ふざけんなよ珍妙生物!!」


「見つけたわ! 悪の怪人!!」


 堤防の上から少女の声が響き渡る。

 すでに日は落ち、暗闇に支配される河川敷で、堤防の上にポーズを取ってビシッと一誠の方を指差してくる赤、青、緑のレオタードにパレオをつけたような、水着にパレオをつけたような、怪しげな少女達は手に手に剣、槍、弓で武装しており、額にはコスチュームと同色の宝石が嵌め込まれたサークレットをつけている。

 側から見たらかなりハズカシイ集団だ。

 赤い娘が剣を閃かせて言った。


「ここでどんな悪事を働こうとしてるか知らないけれど、アナタはここで終わりよ。さあ、食らいなさい! 必殺剣、バーニングブローニングエッジ!!」


「何、その適当な必殺名!?」


 少女が剣を振るうと、炎のカッターが空中に出現して一誠目掛けて飛来して来た。

 時速何キロか! 物凄く早い! かわせない!

 炎のカッターが一誠の胸部に直撃する。が、


「あ、あれ? 痛くない・・・?」


 緑の娘が弓にくっついたスコープでじっと見つめて呟く。


「まずいわフランちゃん! アイツのアーマークラスはゼロよ!?」


「は!? アーマークラス・ゼロって、戦車並みって事!?」


 青い娘が槍を踊るように振り回して切先を向けてくる。


「戦車だろうと何だろうと。私達三人の魔力を合わせれば戦艦だって真っ二つよ」


 どこのマーベルさんですかアナタ達!?


「そうね。今までだって、アーマークラス・ゼロが居なかったわけじゃない。力を合わせてぶち転がしましょう!!」


 何!? この物騒な娘達は!?


 一誠は何はともあれ逃げ出した。


「あ!? 逃げんなコラー!!」


 逃げるわアホウ!! 誰が好き好んで殺されるか!!


 夜の闇の中、漆黒の虫みたいな怪人は疾走する。

 それを追いすがる三人の魔法少女達。

 取り敢えず瀕死の重傷を負って、取り敢えず変な怪人にされて、取り敢えず魔法少女から逃げる生活が、どうやら始まったようだった・・・。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る