第24話 転学試験

しばらくすると初老の男性職員が、にこやかに扉を開けて入室した。

「お待たせしました。それでは筆記試験を始めますので、机上にはペンと消しゴムだけを出してくださいね。」

少年は指示に従い筆箱から筆記具だけを出す。

「これは採否に繋がる試験ではありませんから、肩の力を抜いてくださいね。」


「お気遣いありがとうございます。」

少年は男性職員から試験用紙を受け取る。


「試験は国数英の三科目、制限時間は90分。その間、途中退室は認めません。それではお始め下さい。」

先程とはうってかわって、事務的な口調で男性職員が試験開始を告げる。

少年は用紙に目をやり解き始める。


やはり数か月間の不安定な生活で、基礎学力が下がっている事を少年は痛感した。

国語は現代文のみなので、社会常識の範疇でこなせる。しかし数学と英語はさっぱりだ。

わからない問題を飛ばしながら解いていたので、試験時間が60分を過ぎた頃には一通り終了していた。

こんな調子で転学したとして、はたしてやっていけるんだろうかと残りの30分間、少年は不安に駆られた。


「試験終了です。ペンを置いてください。」

やはり事務的に男性職員は告げる。


少年は指示通りペンを置く。


「お疲れさまでした。疲れたでしょう。10分後に面接がありますから、それまで休憩していてください。」

そう言いながら男性職員は少年の試験用紙を回収すると、にこやかな顔に戻り去って行った。


「ああ、疲れたなあ」

少年は大きくあくびをしながら独り呟く。



休憩が終了すると先程の男性職員と白髪の老人それと中年男性が入室する。

「お待たせしました。弊学の校長と教頭です。」

男性職員がそういうと二名の男性を紹介する。

白髪の老人が校長で、中年男性が教頭との事だ。


「それでは面接試験を始めます。」

男性職員がにこやかな顔で少年と校長、教頭に告げた。


校長は主に聴いているだけで、質問は教頭が行った。

「これまでとは違う特殊な環境で学生生活が始まりますが、うまくなじめそうですか?」


「はい、私は信仰とは縁遠い環境で生きてきましたが、出来る限り努力は致します。」

少年はすました顔で応える。


「あなたの生活は不安定だったと聞いていますが、その受け答えをみると相当修羅場をくぐって来たでしょう。中学生が大人相手に物怖じせず話せるとは大したものです。」

教頭は感心した表情で少年の目を見つめる。


「ただ目の前を必死に生きただけです。大したことは何も。」

少年は中学生らしからぬ謙遜をする。


その後はありきたりな面接が続いた後、学校沿革などの説明を受けた。


1時間程で面接が終了した。


校長と教頭が離室すると、少年は男性職員に案内され校門へ連れられた。


「試験結果は後日、書面でお送りします。それでは。」

そう言うと男性職員は校内へ戻っていった。


試験終わりを見計らったように公用車が少年の前で停車する。


「おつかれさん。」

児相職員が少年に缶コーヒーを手渡す。

少年は車に乗り込み、コーヒーをひとすすりすると、落ち着いた様子で姿勢を崩す。


「試験はどうだった?」


「これで受かってたら裏口入学も同然だな。」

少年は窓越しの入道雲を眺めながら、苦笑した。

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