第19話 聴取及びカウンセリング
二度目の一時保護は個別指導から始まった。
一保の生活に関しては前章「塀の中」を参照してもらいたい。
しかし以前と変わった箇所がある。
一切、他の入所者と会わないのだ。
・食事は居室へ配膳され先生と卓を囲む。
・学習の時間も居室にて先生の指導下で行う。
・入浴や洗濯は一般入所者と時間をずらして行う。
少年にとっての会話相手は基本的に先生以外いない。
しかし例外がある。
それは児童心理司のカウンセリングと児相職員の事情聴取があるからだ。
カウンセリングは本来、作業の時間である午後に行われた。
担当の心理職員と日常会話から始まるが、次第に少年の成育歴と感情、思考パターンについて踏み込んでいく。
・父親の死とそれについてその時どう思ったか?そして今、心境はどのように変化したのか。
・母親の蒸発と他の身内に受け入れられなかった事実をどう捉えているか?その時、感じた怒りと悲しみの感情はどのように変化したのか。
・児相の不適切な措置により経歴に汚点が出来た事についてどのように感じているか?今後、その感情は消化できるのか。
・窃盗の罪を犯した事についてどう考えているか。
上記、四点を主題にカウンセリングは一週間に渡って進行した。
「事象が起こった時の心境」と「現在の心境」について照らし合わせ、「未来の心境」を見出しいていく。そんな流れだ。
少年は辛さを隠す為、過去も未来も見ずに、現在起こっている事だけに目を向けていた。
つまるところ、マインドフルネスを本能的に行っていたのだ。
そんな生き方をしている少年が、過去に目を向けるのは容易な事では無い。
その証拠に、初日のカウンセリングは辛さのあまり嘔吐してしまい途中で中断した。
だがここで向き合わなければ、前へ進む事や社会へ復帰する事が、叶わないように少年は思えた。その為、少年はカウンセリング以外の時間も自身を見つめ続けた。
正解は見い出せなかったが、客観的に自己を捉える事が出来るようになった。
児相の聴取は警察が行うようなものではなく、日常会話の延長に近い。
施設内の体制、人間関係について事細かに聞かれた。
だが決して質問責めではなく、会話のキャッチボールの中で自然とポイントを抑えてくる。
ベテランセールスマンのヒアリングより長けているように思えた。
一通りの聴取が完了すると、今後の生活についての希望を問われる。
その為、少年は以下二点の条件を要求した。
・里親家庭への委託。
・少年が母親と暮らしていた際に通っていた中学校へ復帰させる事。目的の達成にあっては
越境通学が出来るよう便宜を取り計らう事。
児相職員は毅然とした態度で言った。
「最大限、考慮する。」と
実にお役所的な返答だ。
だが少年の進退を決めるのは彼等だ。従う他無い。
一週間後「他の入所者との生活に合流しても差支えが無い」と判定され個別指導が解除された。
少年は大部屋の一般宿舎へ移った。
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