第15話 逃走記

野営生活の1日は早い。

空が白みだす午前5時には身支度を整えシェルターを後にする。

出入りを周辺住民に悟られない為の対策だ。


朝日の眩しさに照らされながら公園で缶コーヒーを飲む。施設内は嗜好品がそう多くは無く、飽き飽きしていた少年にとって至福の一時だ。


午前8時に部活へ向かう友人と合流し弁当を分けてもらう。朝昼兼用の食事だ。

「すまないな、こんなものくらいで」

友人は謙遜する。

「何を言ってるんだ。おまえの母親の飯は本当に美味い。」

少年は屈託のない笑顔で応える。


午前9時から午後4時まで図書館で過ごす。

冷房がきいていて座る事が出来るからだ。その上、冷水器で口を潤せる。

少年はキャンプブックで野営生活に活かせる知識がないか探す。そこで得たロープワークの術を使いシェルターの骨組み強化を計画する。


午後5時、スーパーへシャワー兼洗濯に向かう。夕方は店内が忙しい為、トイレがノーマークになるからだ。身体を洗った後、着ていた服を洗濯板で手洗いする。


午後6時、塾へ行く前の友人と合流する。友人の母親は教育ママだ。夕食と夜食用の弁当を子どもに持たせている。暗に遅くまで勉強をするよう強要しているようだ。

友人が通う塾近くで弁当を1つ貰い夕飯だ。

この時間にする友人との他愛無い会話が少年の安らぎだった。時が昔のまま止まったような気分に浸れるからだ。少年の生きる時間軸は常人のそれとは逸脱している。


午後8時、シェルターへ戻り簡易物干し竿に洗濯物を干す。懐中電灯を使うと目立つので、洗濯が完了するとすぐ床に就く。

朝が早い事もあり1時間もすれば入眠してしまう。だが屋内の生活とは違う為、物音で数度目が覚めてしまう事が少年の悩みの種だ。


自分の生活のみじめさとノスタルジーの境で少年は酷く葛藤していた。


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