確保

二人で住宅街に続く狭い道へ進むと、アイツが捕まっていた。アイツは、逃走途中に証拠隠滅のためにスマホを投げ捨てていたらしい。そのスマホも、仲間の人達がしっかりと拾ってくれていた。


諦めていたのに、アイツが捕まっている。今度こそ泣き寝入りしないで済む。その興奮と彼らへの感謝の気持ちで、頭の中はいっぱいだった。そのため私は、危険なミスを犯すのだが、それに気付くのはだいぶ後のことだった。


アイツを駅前にある交番に連れて行こうということになった。5、6人の男性達と私とアイツで交番に向かう。

私は、最初に話しかけてくれて、安心できる言葉をかけてくれた人と並んで先頭の方を歩く。後ろの方を歩くアイツがまた隙をみて逃げやしないかと、不安になり後ろを振り向いたが、大勢男性に囲まれているため、逃亡は無理と諦めたのか、意外にも素直に後をついてきていた。

証拠のデータを消させないようにするためか、男性達の一人がアイツのスマホを持っていてくれた。

完璧な対応だった。でも、私は失礼なことにアイツのスマホの中の写真フォルダを見やしないかと、ちょっとハラハラした。不意をついて逃げたりしないか心配で、後ろをたまにチェックしつつ交番に向かった。


交番に着くと誰もいなかった。田舎とはいえ、乗り換え無しで都内にも行ける駅前なのに誰もいないことに驚いた。(別件で警察に相談した時に、110番通報があった時は、一番近い場所にいる警察官が行くために、交番が留守になる場合もあると教えて貰った。)

交番の外に、お巡りさん不在の時のための呼び出し電話があった。このあたりのことは、捕まえることができたという安堵感からか、あんまり記憶に残っていない。

たしか、アイツが自ら呼び出し電話をかけていた気がする。あんなにも必死で逃げときながら、自分から電話するのかと、驚いたような記憶があるような気がする。助けてくれた男性達も、自分で電話するの?と驚き笑っていた気がする。


警察官が来てくれるまで、彼らと外で待つことになった。救急車並みにすぐ来てくれそうなイメージがあったが、10分~15分くらい待っただろうか?

待っている間、彼らは「知らない人がこの状況を見たら、俺らが悪いことしたって思われそう」なんて言って場を和ませてくれた。確かに知らない人が見たら、犯人のアイツがカツアゲされて、彼らがカツアゲ犯にも見えなくもない。本当に失礼だが、服装や外見のイメージでは、そんな感じだった。

もしかしたら彼らは、何もしていないのに、見た目から職務質問を受けた経験があるのかもしれない。


子供の頃募金をしてた時に、意外にもサングラスをかけた怖そうな見た目の人が、お札を入れてくれたのを思い出した。特に千円札一枚ではなく、数千円、5千円札、と大きな金額を入れるのは、見た目が怖そうで、パッと見た感じ「ヤ」が付くお仕事の人って感じだった。(見た目だけかもしれない)

社会人になって、第一印象は大切なのは知っているが、さっきも思ったけれども、改めて人を見かけで判断してはいけないと思った。


何故なら、見知らぬ私を助けてくれて、「捕まえたので、さようなら」で去って行っても良いはずなのに、一緒に待っていてくれて、警察が来るまでずっと冗談を言って、暗い雰囲気を消し去ってくれたのだから。

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スカートの下には、スパッツを履きなさい!!!! 佐倉 佳和 @momoka_siba

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