必死の追いかけっこ

逃げた。逃げた。逃げられた。

必死に追いかけながら、頭の中でシュミレーション。写真をネットにアップされたら、消すことは絶対不可能。


でも、ざぁまみやがれ。

お前は、可愛い下着とストッキングを妄想して撮ったかもしれない。

残念ながら、実際は腹巻タイプの薄手のスパッツだ。しかも、よれよれのオバチャンっぽい色のやつ...。

しまむらで安いのを探したら、そんな色くらいしかなかったけど、もっといいやつを買えば良かった。というか、何故買い変えなかったのか...。

後悔という2文字が頭に過る時は、毎回遅すぎる。


実りのない収穫の腹いせに、顔写真と一緒に晒されたら...。

そんな恐怖が頭に思い浮かぶ。


気付かないうちに、つけれれていてエスカレータにたどりつく前に、顔写真撮られていたら?そんな妄想が頭を駆け巡る。

でも、確実にあいつは、よれよれスパッツの写真を見る。見られてたまるもんか。


しかし、私の足は遅い。長距離も短距離も後ろから数えた方が早い成績。

なんとか長い階段を下り終えると、ロータリーを走るアイツの姿はまだ見える。差はつけられたけど、まだ遠くではない。頑張れば追いつける可能性ある。


仕事で鍛えた筋力と根性で、火事場の馬鹿力を見せてくれと私の足に祈る。

ライブに遅れるものかと、必死に駅まで走っていた時に、自転車で帰る職場の先輩が追いつけなかった言った程の奇跡の走りをするのは今。

追い上げるんだと必死で走る。大丈夫疲れていても、ちゃんと足は動く。

けれど、仕事に合うデザインで選んだ靴擦れしにくいペタンコ靴は、私の足より少し大きかった。ストッキングがすべりを良くしたのか脱げた。転びそうになる。


靴を脱ぎ捨ててアスファルトを走るのは、素足に近いストッキングでは不可能と、慌てて脱げた靴を追いかけて履くけれど、この靴で追いつくのは難しいと判断した。


周りの人に助けを求めよう。

田舎の駅でも、ロータリーには人がちらほらいる。誰か1人かは親切な人がいて協力してくれるかもしれない。都会は不親切だけど、田舎の人は親切説を思い出す。全員に聴こえるように、大声で叫ぶ。「この男の人捕まえて下さい。」


反応が薄い。「いったいなにごと?」と私を見てはくれるけれど、面倒ごとお断りといったところか?でも、世間は悪い人ばかりではない。そう信じて何度も叫ぶ。

力のある男性に頼りたいけれど、声が聞こえたはずの1番近くにいたスーツ姿の男性は、駅を目指すばかりで、関わりたくありませんオーラが見えた気がした。

私はただ絶望した。

「泣き寝入り」という言葉が頭に浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る