ある日、突然日常は壊される
某掲示板でブラック企業と書き込まれていた会社で働いていた頃でした。連日のサービス早出とサービス残業で、頭がぼんやりとしていた帰り道に事件は起きました。
残れるギリギリの時間まで仕事をして、社員通用口を出て駅に向かいエスカレーターに乗っている時でした。
ほんのわずかですが、足に何かが触れた感触がしました。ぼんやりとする頭で、「あぁ、後ろの人の傘でも当たったのかな?びっしょり濡れた傘でなくて良かった」と思いつつも、「でも、今日は雨は降っていないはず」と気付き、「人もまばらな田舎の駅でこんなに近くに他人が立っていることがおかしい」と不信感を抱いたと瞬間に、頭が覚醒し振り向くと、アンドロイドのスマホを右手に持った男性が私の真後ろに立っていたのでした。
駅の改札口に向かうエスカレーターには、私と男性しかいません。隣に並ぶ階段にも誰もいませんでした。まだ電車が来ない時間帯だったのでしょう。割と静かでした。もし、この場に赤の他人がいたとしたら、私と男性は知り合いと勘違いするであろう距離です。
男性が急いでいて、私を追い越したいのであれば、私がよけるように足音は必ずしたはず。ですが、そんな足跡も気配もありませんでした。こんな真後ろに人がいたなんて、スマホが当たるまで私は全く気付きもしませんでした。
真後ろの男に、「スカートの中を盗撮された」ということにすぐ気付きました。撮っている瞬間は見ていませんし、シャッターの音はしませんでしたが、確信がありました。もし仮に私の勘違いでも、男性は「写真フォルダの中を見せて無罪を証明できるはず。
私は口を開きました。「今、スカートの中、写真撮りましたよね。盗撮しましたよね?」
「いや、撮ってないです。」とひたすら否定する男性は、スーツではなくカジュアルな私服。
秋葉原にいるような定番な「THEオタク」という感じではないけれど、そういう臭いがした。そして「陰キャです」というオーラを出している男性。体力のある厳つい男性と仕事した経験がある、チビでもない私には、ひょろひょろとした弱さを感じさせた。幼稚園児の時に、身長も高く力もある父親に、お化けと言われるくらい顔を殴られた私には、こんな男は怖くなかった。物怖じせず主張ができました。
「足に当たったんですよ。絶対写真撮ってますよね。撮ってないって言うなら、写真のフォルダの中見せて下さいよ。無実なら見せられますよね。近くの交番に一緒に行って、そこでしっかり証明して下さい」と男のスマホに手を伸ばす。
拒否する姿勢に、やっぱり確実に盗撮していると確信した瞬間、男は逃げた。長い階段を猛スピードで。
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