お客様は神様です

またたび

お客様は神様です

「うわっめっちゃ神々しい!?」

「ほら鈴ちゃん! ちゃんとイラッシャイマセーって言わないと!」

「でも店長、めちゃくちゃ眩しいんですけど!」

「鈴ちゃんはまだ働いてばかりだから仕方ないけど、どんなお客様でもしっかり対応するのが仕事というものなのよ?」

「いやだからそれ以前にですね」

「ほら、せーのっ」

「「いらっしゃぃませ〜」」


 ♢ ♢


「お客様、ご注文はいかがなさいますか?」

(ていうか眩しすぎるだろ)

「ところでお嬢ちゃん。私がどんな神様かはご存知かね?」

「えっとそのぉ……うーん、分からないですね〜」

(しらねぇよ)

「私はね、とある辺境で讃えられている知る人ぞ知る神様なのさ。流石にキリスト様やブッタ様レベルはファミレスに来ない。あの方々たちは三つ星レストラン常連だからね……」

(なぜ私は神様たちの諸事情を教えられているのだろうか)

「じゃあ生ビールとハンバーグで」

「えっ!?」

「ん? 何か問題でも?」

「いや、あの、その……神様って、お酒や肉は控えめなのかなぁーって」

「私の宗教では問題ないから」

「えっ」

「私の宗教では問題ないから」

「そ」

「私の宗教では問題ないから」

「は、はい、分かりました、申し訳ありません!」

「それと灰皿ちょうだい」

「えっあ、その」

「私の宗教では問題ないから」

「いや、そのですね」

「私の宗教では問題ないから」

「ここ禁煙なんですよ」

「……えっ禁煙なの?」

「ええ」

「……すまないね」


 ♢ ♢


「お待たせしました。注文は以上でよろしいでしょうか?」

「おお、意外とすぐ来たな。ではありがたく……ほないただきます!」

(流石に食事中はベラベラ喋らないからな。さっきからこの客相手だと疲れるんだよなぁ……)

「あっその前に」

「えっ」


 カチ


「何の音?」


 カチ

 カチ


「えっとお客様……少しよろしいでしょうか?」

「別にいいけど」

「何をしてるんでしょうか?」

「背中につけた懐中電灯を一個ずつ消してるだけだが」

「えっ、懐中電灯?」

「うん、懐中電灯」

「えっ、えっ、はっ!?」

「このままじゃ眩しくて食べづらいだろ? 当たり前じゃないか」

「後光じゃないんですかそれ!?」

「まあ辺境の神様だからね、後光が出るほどの信仰心はないよね、基本」

「なぜ懐中電灯を?」

「だって神々しさを醸し出したいだろ? 雰囲気だよ、雰囲気」

「意味分からん」

「お嬢ちゃん、声に出てるよ?」


 ♢ ♢


「お会計は1250円になります」

「神様も課税対象なの納得いかないよなぁ……あっポイント使えるの?」

「はい、できますよ」

「まあ使わないでおこうかな。信仰心全然貯まらないしポイントくらい貯めたいからね」

「そ、そうですか」

(なら最初から言うなよ)

「美味しかったしまた来るから」

「えぇ……」

「」

「あっ、いえ、またのご来店をお待ちしてます」

 ニコッ

(お客様は神様……お客様は神様……怒るなよ、私、本音を言ってはいけないぞ、私)


 ガチャ チャリンチャリン


「仕事やめよ」


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 後日、店長に止められました。


「お願いやめないで鈴ちゃん!」

「……ならやめませんからシフト変えてください」

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お客様は神様です またたび @Ryuto52

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