沈丁花
邪悪なうどん屋さん
第1話沈丁花
沈丁花
高級ホテルの一室で、僕はまだ新しいネクタイに視界を奪われた。
学校に行くとき自分でネクタイを結ぶのにも不慣れなのに、彼女はベッドの上から床に座る僕の頭を襟首に見立てて慣れた手つきで結っていく。
左手の人差し指だけ柘榴色に塗られたネイルが、どんな動きをしているのか気になった。
瞼に軽い圧迫感を覚えたかと思えば、背中に彼女の体温を感じる。
それから心が落ち着く木の香りと、微かな柑橘、複数の甘さが複雑に混じり合った大人の女性らしい香りがふわりと漂ってくる。
両親に連れられて旅行をしたときに入ったヒノキ風呂のことが浮かんだけれど、
「これは保険みたいなものだから、緩んでも目を開けてはダメよ」
クチリとしたリップノイズが思い出を吹き飛ばす。
耳元にかかる微かな熱気。不意に耳から伝わる甘噛みの感覚にビクリと身体を震わせた。
直感的に、この甘噛みは僕への脅迫だと思った。
口調は幼い子供を諭すようだけれど、君が条件を呑んだのだから反抗は許さない。
抵抗を示した瞬間、甘噛みでは済まない何かをされるのだと心地よく脅されたんだ。
背後から衣擦れの音がして、少しだけベッドが軋む。
「手を後ろへ」
何か温かい帯のような物で手を縛られると、少し待つように言われる。
シャワーの音が聞こえ始めると僕は少し怖くなっていた。
手枷を外そうとしてみたけれど上手くいかず、そう、上手くいかず慣れないことの連続で少し疲れたんだ。
恐る恐る立ち上がってベッドに腰掛けたら自然と力が抜けてしまい、心拍数のあがった自分の心音が響く中ベッドに横たわった。
そして、こんな事になった原因をぼんやりと思い返したんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます