第30話 捕食者
「なんでお前がここに」
そう問いかけるも、もちろん答えなど帰って来ない。
奴は
(武器が必要だ、奴相手に素手では厳しい)
そう思い、横目でちらちらと周囲を確認する。
(あった!)
俺は奴からジリジリと距離を取り、なじみ深いその武装を手に取った。
(これならいける)
手にした感触はかつての相棒と瓜二つ。重さ硬さ共に申し分ない逸品だ。
それを手にした時と同時に、
「お前のパターンなんて見飽きてんだよ!」
紙一重で奴の攻撃をかわすと同時に、中心の複眼に鉄パイプの先を抉り込む。
懐かしの味となった奴の紫の血液を全身に浴びながら、鉄パイプに全体重を込め、奴の脳髄をシェイクする。
「にしても……なぜ奴がここに」
奴を仕留め終わった俺は、鉄パイプについた返り血を振り落としながら、侵入者たちを追うため、基地の内部へと逆戻りした。
★
「くっ!」
内部は酷い有様だった。敵帰還者たちの攻撃により、特殊合金性の通路は見るも無残に荒れ果てていた。
戦闘音を頼りに、奥へ奥へと進む俺は、奇妙なデジャヴに襲われた。
(何か……見覚えが……)
このシチュエーション自体が、あの時の洞窟を思い出させるのだろうか?
(だとしても、異様に既視感を感じる)
いや、そもそもこの既視感は、ここに入ってからずっと感じていた。
それが、今の様に廃墟同前となった事で、それは確信となった。
「もしかして……この地下基地は、あの異世界の洞窟なんじゃないのか?」
ひとつの結論が出た事で、記憶は鮮明によみがえった。
土砂崩れで潰れた通路は多々あったが、全体の間取りは確かにあの洞窟と一致していた。
「どういう……ことだ……?」
俺が行ったのは異世界では無く、平行世界の日本だったのか?
それとも……。
「いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない」
俺は頭を振って、余計な考えを振りほどく。
「今はみんなを助ける方が先だ!」
奥からは、戦闘音や悲鳴と共に、あの悪臭が漂ってくる。
間違いない、奴は一匹だけじゃない。
★
「ボス、ボス! これはちょっと異常だぜ!」
「ああ、一体何が起こってるんだ」
何もない空間が突如ひび割れたかと思えば、そこから件の化け物が現れて来る。
続々と、止めどなく。
「空間転移系のスキルを有しているというのか?」
「かもな。だが異常はそれだけじゃない。いいかボス、奴の周囲をよーく見てみろ」
化け物は、協議会の連中も区別なく襲っている。だが、彼らだってやられっぱなしという訳では無い。各々が得意とする武装やスキルで反撃を試みているのだが――。
「これはッ!」
火炎は化け物の周囲で消失し、氷柱は体表に届く前に溶け消える。
それは、他の魔法系のスキルも同等であった。
あらゆる攻撃が化け物の体表に届く前に掻き消えていた。
唯一届くのは現実世界の物質で作られた銃弾であったが、それも大部分は硬い表皮に阻まれ、小さな火花を生むだけだった。
だが、異常はそれだけでは無い。
化け物に接近戦を挑んだ者たちは、化け物に近づくだけで、その力を吸い取られたかのように、急激に力を失った。突然の脱力に足をもつれさせ、そのまま化け物の餌食になる物たちも居た。
「ああ、間違いない。スキル無効化スキル……それもあの小僧よりも格段に強力な奴だ!」
「おまけに、ステータスすら、消し去ってる」
帰還者たちの現実離れした強さの半分は、一般人を遥かに凌駕する肉体的なステータスによるものが大きい。
例え、筋力評価がEクラスであっても、それは帰還者というカテゴリーの中での最低クラスというだけで、一般人からしてみれば十分にオリンピックでメダルを狙えるクラスなのだ。
「という事は、奴らの能力は、
「そうみたいだね。奴らは1m程のスキル無効化フィールドを持っている。その中では異世界から持ち込んだ一切のチート能力は無効化されると見た方がいい」
「では……
「ああ、あの小僧のスキルは、スキル無効化スキルだけじゃない。対スキル無効化スキルも持っていたって事になるな」
スキル無効化スキルを持っているのはこの基地において
「くっ!
「B―23! 一番の鉄火場に飛び込んで行ってやがる!」
「下がらせろ! 今ここで彼を失う訳にはいかない!」
化け物の出現が今回だけならば問題はないかもしれない。だが、今後の事を考えると、対スキル無効化スキルの研究は急務といえた。
「駄目だボス! 今までの戦いで配線がやられちまっててアナウンスが使えない!」
「なら俺が出張る!」
「アンタが!? 無茶だ! 敵は俺たち帰還者だって手を焼く化け物だぞ!」
「はっ、大人を舐めるなって話だ!」
そう言うが速いか、
★
協議会の帰還者たちが、待機場所として利用している公園は、突如現れた化け物たちの襲撃により大混乱の極みにあった。
「金剛符! 剛力符! 疾風符! くそ! なんで作用しないんだよ!」
「助け! 助けて!」
「どけよ! 邪魔だ!」
ここでは、人間など一般人・帰還者の区別なく、全て化け物に狩られるもの、エサでしかなかった。
化け物たちは狭い公園からあふれ出し、周囲の民家にも向かっていく。
彼らの力の前には、木造建築などマッチ棒で作られた建物の様なものだった、いやそれが鉄筋コンクリートだとしてもそれ程の差がある訳では無い。
破壊・蹂躙・捕食。
無機物、有機物の区別なく、全て彼らの口内へと消えていった。
「どけよ! どけ、どけッ!」
「ど……あれ?」
先程まで重くてたまらなかった体に力が漲ってくるのが感じる。
「こっこれなら!」
彼は護符を取り出し、式神を召喚する。
「やった! 出来た!」
彼はそう叫ぶなり、助けを求める声を足蹴にして、夜空へ舞い上がった。
だが――
「え?」
化け物の一体が、彼に向って尾を向ける。
その先端が輝いたかと思えば、衝撃波を伴って何かが発射された。
彼が呼び出した式神は、正しく紙切れの様に散り散りになり、彼は化け物の群れの中心へと落下したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます