第23話 魔王と呼ばれた男
「……これは……
瓦礫の下にあったのは、炭化した黒い何かだった。
降りしきる雨は、彼女の凍結魔法の影響によって、瞬時に雪となり瓦礫の山へ降り積もって、全てを白いベールの下に覆い隠していく。
「……最悪」
帰還者が巻き起こす事件に、一般人が巻き込まれることは今の世の中珍しくも無い事だ。だが、彼女にしても、彼女の知人の家族が目の前でそうなったのは今回が初めての事だった。
「
「……最っ悪」
上から聞こえる戦闘音に、協議会の奴らが暴れているのは想像できた。だが、それがよりによってあのふたりとは。
ここでとれる選択肢はふたつだった。
一つは、帰還者を保護するため、対象と協力してオルトロスを退ける。
だが、その場合。
一つは、帰還者を無視してこの場から撤退する。
だが、その場合。帰還者を保護するという解放戦線の理念に反することになる。
「どちらにしても、デメリットはあるけど……」
「綺麗ごとばかりは言ってられないわね」
彼女はそう言うと、ギリと歯を食いしばった。
「
屋上での戦闘は激しさを増していき。最上階が戦場になるのは時間の問題だった。
「わっ、分かりました」
そして、彼が呪文を唱えると、それはみるみる形を変えて行き。一羽の巨大なカラスとなる。
「その式神で直接
「えっ? あ、ああ、分かってます」
「これで大丈夫ですかね?」
グルグル巻きにした
「そうね、ワンクッション置けば大丈夫みたいね」
準備が出来た
★
「ははは、そうか、現代社会も中々に複雑だな」
「そーでもないさー! 要はテメェが元居た世界のように好き放題やっていいって事だからなッ!」
「いやまったく、儂らのような人種にとっては生きやすい世の中よ」
ハリネズミのような武装で、花火のように攻撃をまき散らす
瞬間移動のような歩法を使い、死角から死角へと移動し、的確に打撃を与えようとする
1対2の戦いだというのに、
「おいおっさん!」
「ああ、そうさな」
不意にふたりは攻撃の手を止める。
「おや? どうしたの、もう終わりかい?」
その様子に、
「うむ、そう言う事だな」
「へっ、だが勘違いすんなよ、テメェが実力を見せてないように、俺たちだってまるっきり本気って訳じゃねぇ」
「なーんだ、残念。それで結局ふたりは僕にどうしてほしいんだい?」
「あ? んなモンさっきバトルの途中に説明しただろ?
今この世界には俺たちみたいに異世界帰りの奴がわんさかいる。それを取り締まる仕事を手伝えって言うんだよ」
「左様、貴様の腕なら十二分にその役割を果たせるだろう」
「んー、でもそれって、誰かの下について働くって事だよね。僕そう言うの苦手なんだよねー」
「は? テメェは俺たちの説明を聞いて無かったのか? 俺たちが異世界から持ち帰った力は有限だ。ウチの組織に加入しなきゃ直ぐにエンストしちまうぞ?」
「魔力消費のことだよね。確かにこっちの世界じゃ著しく消耗が激しいけど――」
そのセリフの途中で、
「なッ!」
「チッ!」
ふたりが危険を察知し、反射的に振り返ろうとした時、すでに
「がぁあッ!」
「くっ!」
軽く手を添えられているだけ、なのにかかわらずふたりは苦悶の声を上げ跪く。
「あはははは。やっぱりだ! その程度の問題、僕のスキル・エナジードレインで何とかなるよ!」
「調子乗ってんじゃねぇぞこのビチグソがッ!」
「あはははは。だから効かないってそんなこうげ――」
「吻ッ!」
そう笑う
「破ッ!」
続け様に肘が撃ち込まれたと同時に、衝撃に耐えきれなくなった屋上が崩壊する。
「ええい、この安普請が!」
足場が無くなった
「あはははは。全くだよね、この程度の打撃でさッ!」
「なんとッ!」
彼がいた異世界では、見上げるほどの大きさの鬼を一撃で仕留めた必殺の一撃だが、
「お返し――だッ!」
「くッ!」
「クソガキがッ!」
「ははっ! 僕が飛べないって何時言ったよ!」
「何ッ!」
しかし、
爆音が鳴り響く。
「テメェ、ぶっ殺してやる!」
「あはははは! やれるものならやって見なよ!」
当初の目的など、既に爆炎の向うへと消え去った。
血に飢えた
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