魚類と人類

雛山

其の壱 邂逅


 僕は衆煎寺というお寺の裏手にある池に、一人で遊びに来ていた。

 僕は人見知りなので、辺りに人がいないかをキョロキョロと見回す。


「よし、誰もいないな」


 僕は持って来た竹で作った釣り竿に餌を付けると、針を池に投げ込む。

 少し時間が経った辺りで声が聞こえた。


「ちょっとー、アンタ―ここ釣り禁止なんですけどー」


 僕は辺りを見回すが、誰も見当たらない?


「え? 幽霊?」


 僕はオバケが苦手なのだ……


「どこみてんのよー、あーしはここよ」


 下の方から声が聞こえる、僕は恐る恐る下に視線を向けると……

 そこには30センチほどの魚が、足の生えた魚が立っていた。

 何故か女の人が着るような水着を付けた魚がそこにいたんだ。


「ちょっとー、何ジロジロみてるのよー」


 そう言われても普通はまじまじと見ちゃうよ、魚が喋ってるんだし。


「そうそう、アンタ名前なに?」

村田聡むらたさとし。十歳です」

「年齢は聞いてないけどー。ま、いっか」


 う、そうだった……聞かれてなかったよね。


「で、あーしはステファニーよ、ステファンって呼んでね」

「わ、わかったよステファン」

「じゃあ、あーしもアンタの事はサトシって呼ぶわよ」


 何故僕はこの不思議な現象を、あっさり受け入れてるんだろう?


「で、サトシー。ここは釣り禁止だからー注意しなさいよー」

「わ、わかったよ」

「あんた、一人でここにきたのー」

「そ、そうだよ。悪い?」

「べつにー」


 なんなんだよ、まったく。僕は一人が好きなんだ。

 ステファンは何処からかスマホを取り出し操作しだした、魚類がスマホを持ってるなんて……


「それ、スマホだよね?」

「そうよぉ、見てわかんないー?」

「いいなぁ、僕持ってないんだよ」

「これ、あーしが拾ったのよー」

「いいなぁ」


 そもそも魚類が操作できるのだろうか?


「これ耐水性だから、助かってるのよねー」


 器用にエラで操作していた。


「あらー、そろそろ充電切れるんですけどー」

「そう言えば充電とかどうしてるの?」

「んー? そこのお寺から電気もWiFiっていうのも貰っちゃってるのよねー」

「お寺にWiFiが飛んでるんだ」

「じゃないのー? 使えてるからそうだと思うのよねー」


 僕も欲しいけど、お母さんがダメって言うんだよなぁ。


「お子様にスマホなんて勿体ないってーの。どうせゲームして親のカードで勝手に課金するのがオチよーオチ、ガキはGPS付の簡単スマホでじゅーぶんなのよ」

「課金なんてしないよー」

「返金がーどうとかーっていうけどー、アレ親の監督不届きよねー、一種の自業自得みたいなー。そう言った家庭ってー子供もクズだけど親も大概よねー。運営会社に罪なくないー?」

「そんな難しいことわかんないよー」

「はぁ? アンタもどうせスマホ持ってても、ソシャゲで課金しまくるでしょーが」


 僕の友達……クラスメイトも何人かがソシャゲをやっているなぁ。

 僕はスマホを持ってないからプレイできないけどね。


「そんなことはしないよー」

「どうだか」


 何故か魚とスマホの課金ゲームについて話すことになっていた。

 そして、この不思議な魚と話をしていたら、あたりが暗くなり始めていた。


 僕は時計を見るとそろそろ夕方の六時になるところだ、門限に帰らないとお母さんに怒られちゃうや。

 そう思っていたらステファンの方から。


「サトシ、もうそろそろ帰らないでいいの?」


 ステファンから帰らないのかと声をかけられた。


「そろそろ晩御飯だから、僕も帰ろうと思ったとこだよ」

「あら、そう? それじゃあ気を付けて帰りなさいよー」

「うん、じゃあまたねー」


 こうして僕とステファンは出会うことになってしまった。

 ……やっぱ、喋る魚は変だよ、そう思いながら僕は家に帰った。

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