第18話 神の行方
朝、照りつける太陽の輝きも虚しく、大地は冷たさに支配される。
窓には霜がおり、口からは白い息がタバコの煙のように上る。
「寒っ……」
今日は火曜日、朝の小テストは漢字テストだ。
結局、昨日学校を休んだことについて、色々な言い訳をつけることになった。
日曜日の1日中悩み続け、妖怪に襲われ、気がついたら次の日だったなんて誰が信じようか?
「やっべぇ……もう小テスト開始10分前じゃん……今走っても15分はかかるから間に合わない……」
疲れ切った体に鞭を打って、準備を済ませたが、遅刻することが確定してしまっては学校に行く気にはなれない。
加藤の気力が削がれたのは遅刻することもあるが、1番の理由は昨日休んだ英単語の小テストの罰として、英単語を書き写さなければならないというだ。
「行ってきます……」
元気のない加藤の言葉に加藤の母も心配になるが、何も言わずに送り出す。
"男の子なんだから、何事も経験し、自らの手で解決しなさい"
加藤は頬を叩き、重い足を前に踏み出す。
『少しよっていけ』
何処からともなく響く声は、加藤の心に安らぎをもたらす。
その一瞬のうちに姿を現した鳥居は、街中にあるにはあまりにも不自然だ。
加藤の頭の中は、学校に着いた後の教師への遅刻の言い訳や、英単語等の立ち回りばかりを考えていた。
しかし、この美しい声を聞いた瞬間、そんな考えは全て吹き飛び、体が勝手に鳥居の方に向かっていた。
「華月さん」
加藤の目の前には、いつもと変わらない笑みで、加藤を見つめる華月の姿があった。
銀色の髪は朝日に照らされ光り輝き、緋袴の赤は周囲の景色が霞むほど存在感を放っている。
白銀神社は、いつもと変わりない景色が広がっている。
「加藤君、また遅刻かな?」
「そ…それは、昨日あんな目にあったからであって、俺は遅刻常習犯じゃないですよ!」
「そうかそうか……なら私にも責任の一端はあるな」
「別にそう意味で言ったわけじゃないですよ」
加藤は慌てて訂正する。
しかし、加藤の慌てふためく姿を見て気を良くしたのか、華月はさらに笑みを強めて言葉を続ける。
「契約したし、私と加藤は一心同体。加藤の遅刻は私の遅刻だ。ガッコーまで送ってやろう」
「華月さんの遅刻ってなんですか……」
「だが、1つ条件がある」
「じょ……条件……?」
華月は加藤に近づく、その手を取り本殿の方に引っ張る。
突然のことで驚きはしたが、加藤は華月に連れられ本殿が作る日陰へと入る。
華月は、握っていた加藤の手を放し、本殿の袂に腰かける。
「5分だけでも良い。私と話せ。ダメか?」
「話すくらい大丈夫だけど……そんなのでいいの?」
「十分だ」
その笑顔は今までの笑みとは違い、本当の笑顔だった。
人と話すという何気ない行為でさえ、立場によって感じ方が異なる。
華月の笑みをそれを実感させる。
「今日は寒川さんの元気な姿が見れるかな?」
「むっ……」
「え? どうかしました?」
「別に。ただ、そのお友達に憑りついていた祟り神は、まだ野放しにされたままだ」
「何か問題があるんですか?」
「私にとっては何も問題ないな」
少しテンションを下げた華月は、興味がないと言わんばかりに素っ気なく返事をする。
空を泳ぐ雲はいつもよりも早く、すでに時間にして2分は経っていた。
「だが、また他の人間が被害に遭うかもしれんな。奴の恨みは消えてはおらん」
「え……じゃあどうすれば?」
「妖怪と違って妖気がないから、私にも奴の居場所は分からん。今は、次の事件が起きるのを待つのみだな」
「なるほど……もし何かあったら頼ってもいいですか?」
「えーどうしようかなー」
「えぇ!?」
「時間だ。遅れるぞ」
「やべぇ、じゃあまた後で!」
「では、また」
加藤は慌てて鳥居をくぐる。
見た目は何の変哲もない鳥居だが、その鳥居を抜けた先は、蛍雪高校の裏側だ。
こうして、加藤は遅刻せずに済んだのであった。
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