第9話

前回迄のあらすじ


奇妙な夢を見る様になり、俺は更なる記憶を取り戻す事となる。

記憶が戻るのはふとした切っ掛けだ・・・

俺は、過去に起きた事故に見せ掛けた事件に関わった事により重症を負い記憶が途切れてしまった様だ。

それをある日突然思い出した。

だが、心の奥底ではこの事をまだ周囲に、特に琴音に対して告げてはいけない様な気がした。

けれど、雫さんが既に俺の記憶が戻った事を察していた。

俺が記憶喪失になる事により、琴音たちが安全に暮らせるのであればそれに越した事はないのだから。

そう考えていたはずなのに・・・

俺は過去に2度程琴音を救った経緯があった。

だが、その2つの事故、いいや、事件だ。この事件は櫻木家に因縁を持つ者たちの仕業だった。

また琴音の命が奪われそうになったら、次こそは俺は・・・

完全に記憶を取り戻したと思っていた俺だったけれど、たった一つ、重大な記憶が戻っていなかった。

俺は琴音に全てを話する為部屋に呼んだ。けれど琴音の様子はいつもの2人きりの時の様子そのものだった。

2度目の交通事故を装った犯人が起こした事故の時、俺は友人が家に置き忘れていった本を返すつもりでカバンの中に入れていた。それを琴音が見たから現在の琴音の態度があの様な状態になっていたのだろうと踏んでいた。でも実際はそうでは無かった。

その時琴音は俺のカバンを開けていなかったのだ。

俺が考えていた事実は間違いだった。

では、何故琴音は「変態」を演じていたのだろうか?

俺の頭の中の整理が付かずその日は眠る事にしたのだが・・・

やはり琴音は変態を演じ続けており、いつもの通り俺の布団の中に全裸で横になっていた。

そろそろ本気で目の前の少女をまっとうな人間に更生させなければいけないんだと言う強い気持ちが宿り、俺ははっきりと変態趣味は無いのだと告げた。

少しごもりながらも琴音は部屋を出て行ってくれた。

翌朝、起きてみると机の上に手紙が置かれていた。

琴音の手紙・・・

手紙でも女優を演じていた様で、表での琴音、そして・・・

本心からの琴音の気持ちがしっかりと綴られていた。

俺の目には琴音は映っていないのだと・・・

それでも俺を好きでいる事が自分の生きがいなのだと。

家の中には誰もいなかった。

俺は急いで琴音を探し出そうとした。だが、その時だった。

突然、頭が割れる様な痛みが襲い、同時に俺は気絶した。


「ことちゃん・・・」


気が付いた時には記憶が全て繋がっていた。

そうだ、俺はあの時琴音の事を「ことちゃん」と呼んでいた。

そして俺たちは将来結婚するんだと約束をしたのだと。


学校へ行ったがことちゃんは教室には来ていなかった。

急いで学校中を探したが見付からなかった為、真木谷に学校から出る事を先生に伝えて欲しいと学校を後にした。

そしてことちゃんの家に行った。

全ての記憶が繋がった。戻った事をインターホン越しに伝えると、櫻木家のお手伝いさんが今の俺ならことちゃんの居場所は分かるはずだと告げてくれた。

そうだ、置手紙に書かれていたことちゃんの本当の想いとは・・・

「琴音」と呼んでいた俺ではなく「ことちゃん」と呼んでいた時の俺の記憶、それが俺は抜けていた。だからあの様な手紙を・・・

最高の俺の女優「櫻木琴音」の居場所に俺は直ぐに駆けつけた。


廃墟となった元劇場だ。

俺が扉を開けた瞬間から既に俺たちにとっては最高の舞台が始まっていた。

ひと言、ひと言アドリブだらけの演劇だ。

冷汗が俺の頬を伝った。

これは急いで、走ってここへ来たからでは無い。

そしてそんなスポーティーな汗なんかじゃない。

目の前の俺の最高の女優(パートーナー)が手にしているナイフは本物だ。

俺は、そのナイフがことちゃんの喉元に触れ掛かっていた状態で頭の中をフル回転させながらここからハッピーエンドにする為のシナリオを即興で書ききった。

そして俺は演じた。

イチかバチかの状態だった。

だが、俺は言った。


「1人でひっそりと幕を下ろそうとしていた所悪かったな・・・」


そして続けた


「悪かったな・・・ことちゃん・・・」


と。

そして俺が当時琴音の事をことちゃんと呼んでいたと確認した。

こうして無事にことちゃんの命を失わずに済み、俺たちのハッピーエンドの舞台へと物語は進行した。

そう、この後もアドリブだらけの舞台だ。

共に永遠の愛を誓い合った、俺たちだけの舞台を・・・

忠誠の誓いの口付け・・・

まるで結婚式で唱える様な言葉を次から次へとよくも出てくるよな?とツッコミを入れられてしまう程だ。そして誰か他の人が周囲にいたらそれこそ俺は顔から火が出てしまいそうな程恥ずかしいセリフをこの時は淡々と言えた。

それ程目の前の少女の事を本気で愛している証拠じゃないかと思う。

学校へ戻り、事情を説明した。

どうやら真木谷が雫さんに話を通してくれていたのと雫さんの察しの良さのおかげもあって、何事も無く普段の日常に戻る事が出来た。

帰宅した俺たちだったのだが・・・

どうやら俺の記憶が全て取り戻せた事だけでなく、琴音の断片的に途切れてしまった記憶がある様で、こちらの方を次は取り戻す事になった。

だが、雫さんが言うには風谷さんや五条さんも同居する事が条件の様で、俺は一体この後どうなってしまうのだろうか!?











月曜日、中城家の朝




♪ピピピピピピピピピピ・・・ピピピピピピピピピピピピピ・・・ピヨピヨピヨピヨ・・・ピピピピピピピ




「ん~何だ~?家、こんな目覚まし時計なんて無いはずじゃ・・・」




聴き覚えの全く無い目覚まし時計が朝を知らせる。俺が枕の上辺りから聴こえて来るであろう目覚まし時計のスイッチを目を閉じたまま手をふらつかせ止めようとする。

ようやくボタンと思われる部分に指先が届きそうになったその時だった・・・




「ん~・・・もう朝なの?・・・折角の初夜を迎えられた余韻に浸っていたんだけどな・・・」




間違い無く俺の耳元から聞き覚えのある声が聴こえて来た。

これは夢だ!きっと・・・俺、ずっと疲れていたし、ことちゃんの事があるからな・・・

よし、夢よ覚めろ!そしていつもの朝になってくれ!




シ~~~~~~~~ン・・・・・・・




ふむふむ、よくあるよな?こう、夢だから覚めてくれと意識を集中するんだけど、夢から覚めずしばらく時間が経ったと思えばいつの間にか目が覚めた事って・・・

きっとこの状況も同じはずだ。しばらくすると目が覚めてくれる・・・はず・・・zzz




♪ピピピピピピピピピピ・・・ピピピピピピピピピピピピピ・・・ピヨピヨピヨピヨ・・・ピピピピピピピ




デジャヴ!?・・・いや、これはスヌーズ機能か?いや待てよ?今俺は1人で寝ている状態だ!特に隣には抱き枕などのふかふかとした寝具なんて置いていない。至って普通のシングルベッドに布団を掛けて寝ている状態だ!

なのにこの柔らかくて温かい感触は何だ?




♪ムニッ・・・ムニムニ♪




「あれ?目覚まし時計止めたっけ?俺?・・・それに今凄く柔らかい感触が手に・・・」


「アンッ♡もう~浩輔君ってダ♡イ♡タ♡ン・・・何だから♪おはよ♪昨夜は激しかったね♡」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ん?どうかした?私だよ?五条奏だよ?」




いやいやいや、俺絶対に疲れてるな!ここは何事も無かった様に再び寝る事にしよう!




「zzz~」


「ふ~っ♡お♡は♡よ♡う?もう、朝だよ?起きよう?学校行かなきゃね?」




ダメだ、この変な状況のまま起きるととんでもない事になりそうな気がする!

ここはこのまま眠っていよう。時期に現実世界へと戻れるから!




♪バサッ!!




「ほら、もっと私と一緒に寝たい気持ちは分かるけど、そろそろ本当に起きないと遅刻しちゃうわよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・?」


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~!!!!!!!!!!!!」




朝食




「えぇっと・・・それで?何で俺の部屋で一緒に寝ていたの?」


「だから、これは私たちが琴音ちゃんの記憶の断片的な部分を取り戻す為にやっている行為なの!だから、明日は栞ちゃんで、その次は・・・」


「いやいやいやいやいや、ことちゃんの記憶を取り戻すのに俺の部屋で寝る事とは一切関係ないでしょ!?」


「いいえ、これは雫先生のアドバイスですからしばらくの間、順番に浩輔君の添い寝係を毎日交代して当面の間続けて行く事になりましたわ!そして今宵、浩輔君のお供をさせて頂くのはこの私、風谷栞と言う事です」




話が全く見えないのだが?

確かに昨日雫さんが言うには、ことちゃんの精神的な刺激を与える必要があると言っていたけど、こんな事をして何になるって言うんだ?

とりあえず、朝からひと言も話をせずに目が炎のマークになっている凄いオーラを出した1人の美少女が立っているんですけど?




「あ、あのさ・・・もう少し考えてみて他の手段でも記憶を取り戻す方法を探さないか?」




こんな状況が毎日続けば俺の身が持たないぞ?

一先ずここは、どうにかまともな考え方で記憶を取り戻させる方向で話を進めて行く必要があるな。




学校にて・・・




「そう言えば、俺って中城じゃなかったんだよな・・・」




この間の雫さんの話で俺は中城家に引き取られていた事も思い出していた。

櫻木琴音は俺の父方の従兄妹に当たる。

と言っても、俺の家系も色々と複雑で俺は最終的には捨てられた様なモノだからな。

さて、こうやって色々と記憶が戻った事で心配な事が出て来た訳だが・・・




「このクラスに中城浩輔っているか?」


「中城は俺だけど?何かあったのか?」




突然俺を訪ねて来た男子生徒がいた。

その生徒は俺に手紙を渡して来た。




「おぅ!悪いな?中城浩輔ってお前か。手紙預かってさ、これ渡しておく。人に見られない様に1人の時に読んで欲しいってさ?じゃぁな」




そう言って手紙を俺に渡して直ぐに去って行った。

普通の至ってシンプルな白い封筒に入れられた表には何も書かれていない手紙。

1人になれる場所なんて、トイレで読んでしまおうか。

そう思い、休憩時間の時にトイレの個室に入り読んでみる事にした。




櫻木浩輔


お前に大事な話がある。

放課後、世善木(よぜぎ)町の神社裏まで来い。

勿論1人でだ。もし誰かを連れて来た時は・・・

分かっているだろうな。次は、必ず・・・




何て恨みの篭った内容なんだ!?

一体誰からだ?

それに宛名が「櫻木」名義になっていると言う事は

過去の事件の犯人か関係者と言った所だろうか。

一先ず何をしでかして来るか分からない。放課後に書かれてある通り世善木町の神社に向かう事にするか。

ただ、もし過去の犯行の続きとすれば、ことちゃんや俺を狙っているはずだろう。

命に関わる事かも知れない。




放課後・・・




「浩輔、今日もちょっと寄り道して行こうぜ?」


「あっ、悪い、今日、どうしても外せない用事があるんだ!」


「そうか、まぁ、お前も色々とあるだろうし分かったじゃぁな!」




いつもの様に真木谷が誘って来たが断る。




「じゃぁ、ご一緒に私たちと♪」


「いや、ごめん。本当に大事な用事があるんだ!悪いけど先に帰っててくれないかな?」




風谷さんが声を掛けて来た。そこには勿論五条さん、そして・・・




「ふっ、ふん!どうせ新しい女でも出来たんでしょ?このスケベ!!」




無茶苦茶な言いがかりを付けて来たな・・・

まぁ、3人にも先に帰ってもらわなければ万が一にも何かあってからでは遅い。

それから直ぐに例の神社の方へ俺は1人で向かったはずだった・・・




ガサガサッ!




「・・・・・・・・・えぇっと、俺言ったと思うんだけど?大事な用事があるから先に帰ってて・・・と、それなのに何で3人集って俺の後を付いて来てるのかな?」




まぁ、大体察しは付いていたけど、流石に危険が及ぶ可能性が十分にある為ここは鬼になってでも彼女たちが家に帰ってもらう様に言わないといけないだろう。




「え、えぇっと、私たちこっちにお洒落なカフェがあるから一緒にどうかなって誘って来たんだけど、ぐ、偶然よね?さ、2人共行きましょう?あっちの裏側にあるからね?ね?」


「そ、そうなんだ・・・ふ~ん、じゃぁ仕方が無いわね!偶然同じ方向だったって訳よ!か、勘違いしないでよね!?あんたの事が気になって尾行なんてしてないんだからねっ!!」


「そ、そうですわ!お洒落なカフェ♪そうです!是非私も立ち寄ってみたいなと以前から思っておりましたの♪さぁ、参りましょう?」




バレバレの嘘をついてまでどうして俺の所に・・・

まぁ、急がなきゃ下手に相手を刺激しかねないな!

そして俺は駆け足で神社の方へ向かった。




神社にて・・・




「ここが手紙に書いてあった神社だと思うんだけど・・・」




♪カサササッ!!




「ん?何か物音がしたみたいだけど・・・相手はまだ来ていないのか?」




♪カササササッ!!




「何だ?もう来ているのか?えぇっと、名無しの手紙の主さん?」




♪タタタタタタタタッ!!




「そこか!」




ガシッ!!!




「っ!!ぐっ・・・・どうしてあたしのスピードについて来て・・・」


「女の子?・・・」




物音がした後何度か周囲を行き来する様な音が聞えた為俺はその音を辿って気配を察した。

そして相手の腕を掴んだ。するとその相手はショートカットの銀髪をした女の子だった。




「お前のせいで全てのシナリオが台無しになった。」


「え?俺のせいで、シナリオが台無し・・・ってやっぱり君が手紙をくれた相手だったのか?」


「そ、そうだ!?私があの手紙を書いた人物だ・・・」


「ちょっと色々と聞きたい事があるんだけど良いか?」


「ふんっ!それはこちらのセリフだ!」




俺が聞きたかった事、それは中城としての俺ではなく、櫻木としての俺を知っていると言う事だった。そして恨みを持っている様な文脈で書かれていた事。一体どうして俺にこの様な手紙を寄こし、ここに呼んだのか?




「こう君危ないっ!短刀がっ!」




突然、少し離れたしげみから声が聴こえた。




「止めろっ!!」




ガシッ!!




「くっ!!私がこんなにもあっさりと・・・やはり全てを思い出したと言う事か・・・」


「何者だ!?君は一体・・・」


「良かった・・・」




そうひと言放ちほっとした様子で相手は俺から離れた。




「良かった?・・・何を言っているんだ?こんな状況で良い事なんて無いだろ」


「改めて、手合わせを願おうか」




訳が分からなかった。俺を短刀で切るつもりで襲い掛かっていた訳じゃないと言うのか?

手合わせ?一体何を言っているんだ?全く理解が追いつかないぞ。

それはそうと・・・




「先ずは・・・さっきからコソコソしげみに隠れて「あんっ♡浩輔君素敵」だの「浩輔君なら必ずあいつを倒せるわ♡」だの・・・「浩輔様の夜の手合わせをお願いしたいです♡」とか訳の分からない事を言っているそこの3人はとりあえず帰ろうか?」


「しまった!私たち気付かれていましたわ!」


「ここはもう少し下の位置から伺うべきでしたね!」


「あんっ♡浩輔様素敵です♪その凛々しい浩輔様で夜のお相手は♡」




ダメだこりゃ・・・何だかことちゃん以外の2人もキャラが崩壊気味じゃないのかな?

一先ず相手は悪い人物じゃなさそうだから、あそこにいる3人には言っても聞かない事は目に見えているし放っておいても良さそうだな。




「白を切るのはそれ位に留めて私と一勝負と行こうじゃないか?」


「えぇっと、ひょっとして誰かと勘違いしてない?俺、そんな武術とかやってないし、一勝負と言われても困るんだけど・・・」


「でりゃっ!とっ!はっ!!!」


「っ!!とっ、突然何するんだ!?」


「はっ!とりゃぁぁぁぁ!!」




突然、短刀を再び俺の方へ振るって来た女の子は、目が真剣そのものでこれは本気なのだと感じた。




「くっ!!・・・止め・・・ろ!」




あまりにも早い動きに俺は一先ず相手の腕を掴み動きを止めた。




「ふんっ!やはりな」


「何がやはりなんだ!こんな危険な物振り回しておいて!いい加減にしてくれ!」


「ふむ・・・おい、そこでコソコソしている3人、この男が本気を出せないから今日の所は引き上げろ。これでは勝負にもならん!」




そう言うと3人は渋々帰って行った。

え?俺の言う事は聞かないのにこの子の言う事は直ぐに聞くのか?




「改めて、手合わせを願おうか?」


「いや、その・・・あれが見えていないの?」


「何だと!?・・・」




帰ったと思われた3人が拝殿の角からひょっこりと顔を出している姿が見えた。




「ふんっ!仕方が無いな!」




そう言って溜息をついた少女は俺の方へ走りながら迫って来た・・・




「きゃぁっ!!!」




と思ったのも束の間、俺の真横をすり抜け3人固まって立っていた場所まで走って行くと真っ先にことちゃんを引っ張り、喉元に短刀を突き付けた。




「おいっ、止めろっ!そこの3人には関係無いんじゃないのか!?俺が相手なんだろ?」


「ふふっ!全く気が緩み過ぎでは無いか?さっさと帰っておけばこの様な事になどならずに済んだのにな?」


「ぐぅぅぅぅぅ!止めて・・・」


「どうする?私と一勝負してくれるか?それともお前の大切な子を殺めてしまっても良いと言うのであれば無理強いはしない・・・」


「うぐっ!」




仕方が無い。あまり見せたくは無かったけど、俺に拒否権は無い様だ。

唾を飲み込み、ゆっくりと一呼吸おいた後に俺はこの様に言い放った。




「ことちゃん。俺が君を助けたのは2回だと言っていたね?」


「え、は、はい・・・そうだ・・・けれど・・・」


「風谷さん、五条さん、悪いけれど・・・」




察してくれたのか2人はそのままゆっくりと神社の階段を降りて行ってくれた。




「待たせたな。琴音から離れてもらおうか?お前の狙いは俺だろ?」


「あぁ!じゃぁ、この子は大人しく私たちの勝負を見ていてもらおう」




そう言うと少女はことちゃんから離れた。




「こう・・・君?」


「断片的に記憶が途切れている・・・ことちゃん、さっきのしげみに隠れていてくれないか?」


「う・・・ん・・・」




不安そうな表情で俺を見つめながら先程いたしげみの方に戻ることちゃん。




「さぁ、もう邪魔者はいない!思う存分腕を振るえ!」


「あぁ、そうだな!」




そう言い俺は構える。少女も持っていた短刀を横に捨て構える。

そして一瞬の間が空いたその時!




「はっ!とっ!!とりゃぁぁぁぁ!!!!!!」




少女は正面から一瞬にして俺の1歩手前に立ち止まり攻撃を開始した。




シュンッ!シュッシュシュシュッ!!!




「はっ!どりゃぁぁぁぁ!!!!!!!」




シュッ!ビュンッ!シュシュシュッ!!!




遅い。動きは早いけどこの程度のスピードで俺に攻撃を加える事は到底無理だ。

だが、相手は本気の目をしている。ここは少し力を緩めて・・・・




ドガッ!!バギッ!!!




「うっぐっ!!・・・・・・・・・・・・」




バタンッ!!!




「気が済んだか?」


「ふ・・・ふんっ・・・やはり・・・な・・・」


「あぁ、君が思っている通りだ。あの日、琴音の命を狙おうとしていた時に横の影から見ていた通りだ・・・」


「ふっ、流石櫻木家頭首候補とまで言われた男だな。私なんかの力では足元にも及ばないと言う訳か・・・」


「中城だ・・・今はそう、中城浩輔だ。ただの高校生、ごく普通の高校生・・・」


「ふっ、そうか・・・」


「一味は何処にいるんだ?もう全滅したって聞いてるぞ?」


「あぁ・・・全滅させられたよ・・・お前にな・・・」


「じゃぁ、どうして君が俺の元へ?」


「そうだったな。あの時影からお前の活躍を見ていた私は、お前を・・・お前を・・・」




あれ?何だろう?この憎悪と言うか嫌な予感と言うのだろうか?この後のセリフを聞くのが怖い・・・




「ま、まぁ、全滅と言うのであればもう大丈夫だと思うから俺は、帰るから・・・ことちゃん帰ろう、早く!!」


「う・・・うん!」


「待てっ!私のセリフを最後まで聞かずに去ると言うのか?」


「えぇっと、俺急ぐから・・・じゃ、じゃぁ!」




急いで俺はことちゃんの手を引いて走って神社の階段を降りて行った。

聞きたく無い。これ以上のセリフは絶対に・・・聞いてはいけない気がする。




「全く・・・乙女心を全く理解していないぞ?だが、これで逃げられたと思うな?お前の遡上は既に把握出来ているからな♡」




帰宅途中




「こうくん、大丈夫だった?」


「ちゃんと見てただろ?俺はかすり傷すら無かった。それに・・・」


「それに?」


「いや、何でもないよ。さぁ、帰ろう。2人が先に帰ってるだろうし・・・はぁ~・・・」




溜息をつき俺たちは家に帰るのだった。




自宅




「浩輔く~ん!!怪我は?怪我はありませんか?」


「私たちすっごく心配してたんだよ?あいつは一体何者だったの?」




想定通りの反応だけど色々と話をするとややこしくなりそうだから適当にあしらっておくとしよう・・・




「何やら武道を持ち掛けて武術をやっている相手を見付けては対戦したいって面倒くさい人だったよ。何とか話をつけて人違いだって伝えたんだけどね。やっと分かってくれた」


「な、何だか奇妙な人物が世の中には大勢いらっしゃる様ですわね。ですが浩輔君が無事で何よりですわ」


「あまり変な人と関わりを持たない方が身の為って事ね・・・ホントだよ?浩輔君も気を付けてね?優しいからそう言う人に対してもちゃんと相手するんだから・・・」


「そっ!そうよ!なっ、なんであんな変な奴相手してんのよ!?ばっ、バカじゃないの!?」




いやいやいや・・・そこでどうしてツンデレやってるんだろ?今、家だし・・・パニックになっているのかな?




深夜




♪コンコンコン




「いいよ。起きてるから入って来ても」




突然ノックされたがことちゃんだと俺は分かっていた。




「失礼します・・・」




少し余所余所しい態度に思えたのはまだ風谷さんや五条さんが完全に眠っていないかもしれないと思ったからだろうか。

入って来て灯かりを点けて絨毯の上に座らせた。




「ホットミルク・・・温まったら眠れるでしょ?」


「あ、ありがとう・・・ごめんね、夜遅くに・・・」




俺はキッチンで牛乳を温めてマグカップに移した物をことちゃんに渡す。




「大丈夫だよ。あの子はもう襲っては来ないから。それにあの子が言っていた通り犯人たちはもういない。」


「でも・・・また犯行を繰り返す可能性が・・・」


「そうか、その頃の記憶も無いんだね。結構、色々な記憶が戻っていないみたいだね」




そう、犯人たちは崩壊させられた。

最終的には、俺の両親が・・・屋敷に犯人たちを集め火を放ち全員この世を去った。

その後の現場検証でも間違い無く犯人たち全員がその屋敷で発見された。

だが、たった1人だけ当時、中学生だった少女はその場にはいなかった。

それが今日俺の前へ現れたあの子だと言う事だ。




「何か、とても重要な記憶が失われた状態である事は把握出来るけれど、思い出せないの・・・ごめんね?」


「いいや、俺も随分と長い間記憶が戻らなかったから仕方無いよ。慌てなくても良い。思い出したい事、思い出したくない事、色々とあると思うし、今言える事は、もう、ことちゃんは安心して良いと言う事だけだ。だから今日は安心して眠れば良いよ」


「・・・・ゴクッ・・・うん。ありがとう・・・ミルク飲んだから体が温かくなって、これならゆっくり眠れると思う」


「そうか、それなら俺も安心だよ。じゃぁ、そろそろ寝ようか」


「うん」




と言って俺たちは深夜と言う事もあり眠る事にした。




はず・・・何だけど?




「えぇっと・・・確かに寝ようかとは言った、俺が言った事は認めます。でも、どうして俺の隣で眠っているのでしょうか?」


「え?だ、だって・・・まだ震えが止まらないから・・・」




確かにそう言って俺の体に密着しながら答えることちゃんだったのですが・・・

あれ?俺まで震えて来たぞ?これって俺も怖かったのか?いや、でもな・・・




「ちょっ!!ちょっとそれはマズイですから!!止めて、本当健全だから俺たち!そんなモノ使っちゃいけません!直ぐに捨てて下さい!!」


「で・・・でもももももも・・・この・・・しんどどどどうがががが・・・き・・・気持ち良くて・・・・んっ♡」




はい、全部台無しです!ここまで結構シビアな展開だったから俺たちの雰囲気も凄く良かったなって安心して眠るつもりだったのですが・・・

残念・・・結局はこう言う落ちなんですね?

さてと、この変態性癖の根本的な原因を解明しなければいけないと言う重大な事がまだ未解決のままだった。これは記憶とどの様な因果関係があるのか、一体いつ頃何が切っ掛けだったのだろう?




それから1時間程が経過した頃




「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


「ん?・・・何だ?もう朝?ってまだ暗いし・・・って真夜中じゃないか?どうしたの?」


「さ、さ、櫻木さん酷いです!!本日は私の番ですのに、どうしてこんなにべったりと浩輔君と一緒に眠っていらっしゃるの?」


「い、いや・・・それはその・・・勝手にこの子が・・・」




って「本日は私の番」って何だ?俺の隣に添い寝する順番とか勝手に決めないで欲しいですけど?




「ん・・・むにゃ・・・こう君・・・大好き♡・・・むにゃ・・・zzz」


「ま、全く幸せそうな寝顔を見せながら・・・何と言う浅ましさでしょうか!?」


「い、いや、夕方あんな事があったからね・・・今日だけは許してあげてくれないかな?・・・って言うか俺の隣に寝るのとか勝手に決められても困るんだけど・・・」


「こ、浩輔君がその様に仰るのでしたら今日の所は諦めますわ・・・ですが次の櫻木さんの順番の時は私が浩輔君と眠らせて頂きますから!そのつもりで!」




いや、だから俺の隣で寝るって勝手に決めないで欲しいのですが?・・・もう俺の決定権は無いのでしょうか?







♪ジリリリリリリリリリリリリリリリ~




「んふぁぁぁぁぁ~・・・何だか疲れが取れないな」


「んっ・・・ふぁぁぁぁぁ~・・・こう君、もう朝?ずっとこのままが良いな♪」


「何を言ってるの!?ほら、もう朝だから支度しなきゃな?」




そう言って俺は布団を捲り上げたのだが!?




「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~!!!!!!!!!!!!」


「ん?どうかしたのかな?そんな大声で・・・」




もう、お察しだとは思いますが、改めて状況説明をさせて頂きます。

夜中、ことちゃんが俺の部屋にやって来て色々と話をして眠ったのですがことちゃんが例の振動する何かを身に着けていらっしゃった。それだけでも十分にギャーと叫ぶ自体だったのですが、その時はその事以外で叫ぶ様な状況では無かったんです。ですが、今布団を捲り上げた時に信じられない事態が又発生してしまったのです。そうです・・・




「何でどいつもこいつも寝ている間に全裸になるんだよ!!!!!!!!!」


「あら?私とした事が無意識で・・・ごめんなさい。ですが何れにせよこの体はこう君のモノになるんだからそんなに驚かなくても・・・」


「いやいやいやいやいや、驚くでしょ!?年頃の男女が同じベッドで寝ている時点で十分に驚くべき状況だけど、夜中ちゃんとパジャマ着てたよね?なのにどうして朝になって全裸になってるの?どう言う不思議?」




と言う事で、昨日、変な人はこの世には多い様な事を誰かが言っていたけど、まさにそれでしょ!?この家にはそう言う「変」な人ばかりじゃないですか?

俺はこの世界の「まとも」な人と「変」な人に遭遇するとすれば明らかに「変」な人と遭遇する確率の方が高いのですが?どうしてなんでしょうね?




「と、と、兎に角早く服来て!!」




学校にて・・・




「浩輔?何だか顔が青いけど大丈夫か?昨日何かあったのか?用事が関係しているとか?」


「あ、あぁ・・・大丈夫だ。いつものやつだから・・・」


「いつものって、お前まさか!?」


「いや、勘違いしないで欲しんだけどな?真木谷が思っている様な事じゃないと思う」


「そ、そうか?まぁ、あんま無理するなよ?」




こうしていつもの朝がやって来たのだが・・・




「はい、始めるわよ?皆席に着いて~?今日は先に転入生を紹介するわ。入って来て?」




♪ガラガラガラ




「じゃぁ、簡単に自己紹介をしてもらおうかな?」


「はい、本日よりこのクラスへ転入して来た秋澤(あきざわ) 彩華(いろは)です。色々と迷惑を掛けてしまうかも知れませんが宜しくお願いします」




キターーーーーーーーーーー!!!

やっぱりこう言う下りだったのか・・・

何かとてつもなく嫌な予感がしていたけど、この事を物語っていたのか!?

そして俺の真隣には何故か狙われた様な空席が1つだけ・・・




「と言う事で秋澤さんは色々と苦労をして来たみたいだけど、今はモデルの仕事もしていると言う事で、海外へ時々出て行く事もあるみたい。皆、仲良くしてあげて頂戴。それで、秋澤さんの席は・・・えぇっと、丁度中城君の隣が空いているみたいだからそこを貴女の席にしましょう♪」


「はい」




やっぱりか!?やっぱりなのかこの展開!?

そして物凄くニヤけた顔でこっちへ歩いて来る昨日の少女・・・

っておぃおぃ嘘だろ!?目がハートマークだぞ?

この作品ってハート目の子多いな?ってそんな事言ってるんじゃなくてだな・・・

これはマズイぞ!?何か良からぬ事を企んでいる様な・・・




「・・・・・・・・・」




あれ?ことちゃんの表情が・・・そうだよな、昨日の今日だし記憶もはっきりとしていないあの事件の真相だから仕方が無いか・・・




「ことちゃん、大丈夫だから!」


「う・・・うん!」




空席の反対側の席にことちゃんが座っている。要は俺はことちゃんと転入生に挟まれる感じで座っている状態である。

ことちゃんはきっとまたこの秋澤さんが何かして来るんじゃないのかと言う不安を抱えているはずだ。でも俺は絶対にそれだけは無いと確信していた。

何故なら・・・




「やぁ、おはよう!今日から楽しくなるね♪宜しく頼むよ♡」




ほらね・・・宜しく頼むと言い切る直前までは凛々しく格好良い印象を持てるんだけど、一番最後、マークが入っていますよね?これなんです!これが、もう俺たちに何もして来ないと言う証拠となっている訳ですよ!完全に恋する乙女みたいになっちゃってるんですよね!流石に俺でもこう、何度も同じ状況を繰り返して来たら分かりますよ!これはまた、俺が完全に疲れる方向へ話が進んでしまうって言う事に・・・




休憩時間




「秋澤さんってモデルやってるの?凄いわね!!すっごく綺麗でクールなイメージだから・・・」


「私雑誌見た!ホント凄い子が転入して来たよね!?サイン頂戴?」




もう、それはそれは凄い人気で転入生だと言う事だけでも話題の中心を独占するのに更にモデルで活躍中だと言う彼女は更なる人気がクラス中から、そして学校中からも注目の的となりつつあった。




「このクラスって神掛かってるな!櫻木もいて、更に超絶美少女が転入して来たとか!?」


「あぁ!俺もサイン貰おうかな・・・」


「す、すまない・・・君たち、私は逃げも隠れもしないから、少し話をしたい相手がいてだな・・・」


「そうなんですか?残念です」




ヤバイ!これは俺の方に流れて来る展開?

よし、ここはとりあえず・・・




「よ、よし、真木谷ちょっとトイレ行こう?教室の中熱気で凄い事になってるしな!」


「何だ、トイレに行くのか?折角秋澤さんがこっちに向かって来たのに?」




男子トイレ(個室)にて




「ふぅ~・・・あの手のタイプも苦手なんだよな・・・

昨日まであんなに緊迫したムードだったのに手の平を返した様なあの態度・・・

あの時、俺は本性を現さなかったらことちゃんの首元にあったあの刃先はどうなっていたのだろうか?

それより、最初の手紙を持って来た相手は一体?」


「君は私の様なタイプは苦手なのか・・・それは残念だ。私は特に手の平を返した様な態度をとったつもりはないのだけれど・・・元より君に会いたかったと言う事と君の腕を見てみたかった・・・櫻木琴音・・・彼女の首を獲るつもりも毛頭なかったよ。君が一番慕っていた子があの様な状況になった場合、君は本気を出してくれるだろうと思ったからさ・・・」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!!!!!」




つい口に出していたのを完全に聞かれてしまった!!

って言うよりここ男子トイレ、しかも個室だぞ!?どうして簡単に入って来ているんだよ!?

やっぱり俺の周囲に集まる人は「変」な人だらけだ・・・




「そんなに驚く事は無いだろ?昨日手取り足取りやった仲ではないか!?」


「ちょっ!誤解される様な言い方しないでくれ!!」


「ははは♪大丈夫さ、今は誰もここにはいないから。それはそうと、手紙を渡した人物だったね。あれは朝、登校途中で見掛けた適当な子に伝えて渡してもらう様に頼んだだけさ」


「そ、そうか・・・なら良いんだ。それよりここ、男子トイレだから出て行ってもらえないかな?」


「そうだったね。男子トイレの個室にいる意中の男子生徒を除く女子生徒・・・意外と面白い図式だけれど、あまり覗いていても行為に集中出来ないだろうから私は教室に戻る事にするよ♡・・・ふむふむ・・・意外と大きい・・・か」


「えっ!?・・・おっおぃっ!どこ見て言ってるんだ!?早く戻ってくれ!!」




全く、変態も度を越えると相手にするのも大変だな・・・




放課後




「・・・・・・・・・・・」


「櫻木琴音さん・・・昨日はすまなかった。君に危害を加えるつもりは無かった。ただ、櫻木浩輔・・・いや、中城浩輔だったな、彼の本気が見たかった」


「本当にもう何もしないのですか?」


「あぁ!私は確かに櫻木家を良いイメージで見ていない家の元に生まれ育った身だ。けれど、あの時・・・いや、君は覚えていないだろうが、私も直接彼が襲われる姿を見ていた。だが彼は強かった。それを見ていた私は自身の両親や仲間がしていた事が醜く汚いものだと悟った。それと同時に・・・」


「どうしてあんな卑怯な手段でこう君に!?・・・」


「2人共記憶喪失になっていたと言う情報を知り確認しようとしていたんだけれど、どうやら浩輔の方が記憶を取り戻せたと聞いて、それで一度確認してみたかった。あの時の強い彼をもう一度見てみたかった。私も武術は幼少の頃より習っていたけれど、やはり彼は各段上を行っていたよ。君も見ていただろう?私が何度も彼を殴ろうとしていたのに彼はあっさりと避けていた。更に私は彼に手加減されながらも倒されてしまったよ。中城浩輔、彼は本物だ」




放課後、話をしたいと彼女は私を誘って来た。

2人きりでと言われて、最初は怖かったけれど、こう君がもう大丈夫だからと言ってくれた事を信じて私は彼女と話をする事にした。

でも、やっぱりこう君の言っていた通りだと分かった。

彼女もまた、こう君の事をきっと・・・




職員室にて




「ごめんなさい。ちゃんと話をしておくべきだったわね」


「いえ、大体の事は分かって来たけど雫さん・・・先生は信じていたんですか?彼女がもう大丈夫だと」




放課後、雫さんに呼ばれて職員室へ向かった俺は、秋澤彩華が過去にどう言う状況にいて、どう言う事を考えていたのか聞こうとした。あの事件に関しては雫さんも把握していたはずなのに何も話が無かった事に対してのお詫びと言う事だろう。

だが、雫さんも彼女が何を思い、どう言う経緯に至ったのかをちゃんと把握したからこそこの学園に入れたのだろうと俺は察した。

いつも肝心な所でちゃんと考えてくれている人だから信頼出来ると言う点もあった。

後は、ことちゃんがその彼女から話があると誘われて校庭で話をしているが、ちゃんと職員室からも見えるし2人も穏やかな感じで話をしているみたいだ。




「どうかしら?琴音の記憶の様子の方は?」


「その事なんですが、どうやら秋澤・・・いや、白鳥澤家の陰謀の件についてはまだ記憶が戻っていない様です。恐らくこの一件が一番彼女の中ではショッキングな出来事なんじゃないかと思っています」


「やはりそうなのね?あの子にとっても忘れたい記憶の1つだったかも知れないわね。だとすれば彼女との接触で少し荒療治にはなってしまうけれど刺激としては前へ進めるかも知れないわね」


「そうだと良いんですが・・・」




一番の心配事と言えば、俺の時みたいに反動などで精神的な負荷が掛かり過ぎてしまうのでは無いのかと言った所だ。

俺でもかなりの苦痛を強いられて来た記憶が戻る時の反動がことちゃんは耐えられるだろうか?それともその衝撃によって更に記憶が失われてしまう恐れがあるんじゃないのかと言う何の根拠も無いけど俺はその事が唯一の不安だった。




帰宅前校庭にて




「待たせたな。じゃぁ、帰ろうか?」


「うん!」


「君たちは同棲しているらしいね?」


「あぁ、そうだけど?」


「年頃の男女が一つ屋根の下に暮らすと言う事はだな・・・その・・・間違いが起きてしまう恐れが・・・あるだろ?」


「あぁ、心配には及ばないよ!俺はそう言うのキッパリとダメだって言い聞かせているから!」


「そ、そうなのか?・・・いや、だが万が一と言う事もあるだろ?」


「万が一にでも無い様に言い聞かせているので!」


「いや、そう言っていたとしても間違いと言う事は誰にでもある訳で・・・」


「間違いは今の所ありません!これからも無いと断言します!」


「うぅっ・・・」




間違い無い!これは家に上がり込もうとする作戦だ!ここは維持でも断らなければ!




「ちょっと遅いよ!中々来ないから迎えに来ちゃった!」


「本当ですわ。少しお話があるからと言って先に帰っていたのですがいつまで経ってもお2人共お戻りになられませんでしたので・・・」


「?君たちは同じクラスの・・・」


「あら、秋澤さんではありませんか!?お話と言うのは秋澤さんとだったのでしょうか?」


「いや、俺は先生と話があって、ことちゃんがちょっとね・・・」


「そうだったんだ!秋澤さんってホント綺麗だよね?この学校の中で1位2位を争う程の美少女の櫻木さんと今人気急上昇中の秋澤さんが2人揃っている所を見られるなんて私たち戻って来て正解だった?」


「はは・・・ははは・・・そうだね・・・うん・・・じゃ、じゃぁ、そろそろ帰ろうか?」




こうして俺たちは家に帰って行く。そう、俺の家に帰る訳なのだが?




「えぇっと、どうして付いて来るのでしょうか?秋澤さん?」


「もう、水臭いな?彩華って呼んでくれと何度言えば良いのだろうか?」




いや、何度も何も今初めて聞いたのですが?それに貴女の家ってこっちなの?違った様に思えるけど?




「浩輔君?これはどう言う事でしょうか?」


「ちゃんと説明して貰おうかな?」


「・・・・・・・・・」


「えぇっと、話の主旨が見えて来ないのですが?秋澤さん?」


「だから、私の事は彩華と呼んでくれと言っているんだ♡」




意外とトラブルメーカーかこの子?それとも狙ってる?

とりあえず帰る方角が同じなのかどうか分からないから・・・




「秋澤さん?家どっち?先にどうぞ?俺たち遅いから・・・」


「そうかい、ならここで、皆、また明日♪」




ほっ。良かった。先に帰ってくれた。これで1人去ってくれたな。




「本当に世の中には変な人が多いよね?俺も色々と疲れちゃうよ・・・ははは・・・」




そして自宅に到着したその時!?




「えぇっと・・・どちら様?」


「お帰りなさい♪私にする?私にする?そ♡れ♡と♡も・・・わ♡た♡し?」


「お引き取り下さい」


「あっ!今日はハンバーグなの(レトルトの)・・・後、お風呂ももう直ぐ沸くから♪」


「わ~い♪ハンバーグだねじゃぁ、僕お風呂先に入るよ♪・・・ってひとん家(ち)勝手に入って何訳分からん事やってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」




鍵かけ忘れてたのか?

いや、確かにちゃんと閉めて行ったはずだけど、一体どうやって入ったんだ?


「安心してくれて良い!ちゃんと雫さんから鍵を預かって来た!」


「雫さん~!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




そう言う事で3人から更に1人増えて4人の女の子が俺の家に居候する事となった。

果たして、ことちゃんの記憶は無事に取り戻せるのだろうか?

その前に俺が燃え尽きてしまうかも知れないな?

いや、それはそうと、この後どうなってしまうのか想像が付かない。

変態がまた1人増えたと言う事だけは間違い無く悟ったけど・・・



















第9話 浩輔の本気、そして琴音の記憶は?・・・新たな人物が!? Finish

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