ゲーム中に異世界召喚されました

とら

第1話 召喚


「このゲームPVはきっと俺を裏切らないはずだ!」


新作ゲームを開封している最中の少年カズの姿がそこにはあった。…10分前までは。


「異世界好きの俺にたまんねぇクオリティだぜ!」


カズは発売前から決めていたキャラクター設定を行っていた。


「えーと、名前名前…なんだったかな」


この前書いておいたメモ帳を探しにカズは立ち上がるとメモ帳の置いてある自分の机に目をやった。


このメモ帳には今までのプレイしてきたゲーム情報を書き込んでいた為かなり使い込んでいる。


ふと昔のページを見てみた。


【名前▶カズマスター】


懐かしむように見ていたが、はたから見たらタダの黒歴史だ。カズは少し苦笑いをして昔の趣味全開の自分がどれだけ痛い奴だったのかを思い出す。


思い出に浸っていると自分の右ポケットから振動が起こった。


(こんなに忙しい時に…)


カズの母親は夕飯のリクエストを大体この時間にメッセージアプリを通して聞いてくる。すぐに答えなくては大嫌いなゴーヤチャンプルになることが多かったため無視は出来ないのだ。


画面の光ったスマホを見てみた。やはりメッセージだ。

開こうとした瞬間にケータイ画面に母親からの着信音が映し出された。


「もしもしカズー?夕飯何がいい?お母さんゴーヤチャンプルー食べたいんだけど…」


「勘弁してくれよあれはマジで緑の悪魔だぞ?それ以外の物なら何でも良いよ」


「しょーがないなぁ、適当に決めるからね!何になるかな?…」


流石に面倒臭い茶番が挟まれる気がしたので電話を切った。


(さてと、ゲームの続きを…ってあれ?母さんじゃないの?)


ふと先程のメッセージが気になるだけど内容を読んで送信するのが面倒臭かったため無視する。


すると自分の目の前でフラッシュの様な物がたかれ強い光に目を痛めたカズは何が起きたのか現状を把握できずに尻もちを着いて困惑する。


チカチカしていた目が落ち着いてくるのを感じたのはもう時すでに遅しの、状態だった。













あたり360度全てが木で覆われた森の中だった。


(俺…寝落ちでもしたのか?)


自分の頬っぺを引っ張ったカズは少し長い痛みを味わった。


「痛てっ!て事は夢か、良かっ……っっ!!」


夢では無い、今目の前にあるこの光景は現実である。ジャージズボンにパーカーそしていつも通りの裸足。自宅にいたはずの自分がそのまま何処ぞの人気の無い森に連れて行かれている。


「これって……異世界召喚?」


だが異世界かどうかもまだ分からない、まず辺りを探索することにした。


日光が木々のの間から差し込んでいる。何にせ森が深いせいで方向が全く分からない。


ふと脳裏に「異世界召喚」と言った文字が通過して行った。だったとしたら近くに誰か召喚主がいるパターンがお決まりである。


自分の出現した近くを歩いていると足に物体が当たるのを感じた。裸足だった為少し濡れた感触と柔らかい感触をだということを把握出来た。


(柔らかい何?)


かなり大きいサイズだ自分の身長位だろうか…感覚を手に集中させてと触ってみると好奇心が一瞬で恐怖に変わる。


「人だ!」


恐らく召喚主だろう。湿った感覚もきっと血液だ!


血の流れから見て恐らく腹部を何かで突き刺されて殺された様だ、血の温かさから見て数秒前だろうか、心臓を一突き、即死だっだろう。


恐らく犯人は近くにいる事が分かった。


カズは全力で日が差す方向に全力で走った。足に枝が刺さって凄く痛いが気にしない。ひたすら光を目指した。


「…」


抜けた!っと思って後ろを振り返ったらテンポの早い足音がこちらに近ずいてくるのが分かったカズは再び走り出した。


「追われてる!!」


森をぬけたそこは草原のような場所だ。追いかけてくる正体はわからない。だが振り返る余裕などない感じるのはただ殺意だけだった。


目の前に見えた草むらで追跡者を巻く作戦に急遽切り替えたカズは草むらをめざして走り出す。


カズはゲームこそ好きだが陸上部に所属していた為体力とスピードには自信があった。


(あと少しなんだ!)


と思って草むらに接近した。急いで飛び込もうとしたら、草むらの中から一本の線の様な物がカズの真横を通過して後ろで「バタリ」と倒こむ音がした。


足音が消え振り向いても大丈夫だろうと判断したカズは、見てみるに全身を黒で覆ったフード姿の人が見事に心臓をぶち抜かれていた。


「グボォッ!!…ゲホゲホ!く、クソっっ!」


カズはもがき苦しむ追っ手を見て混乱と吐き気に襲われた。


「うっ!!」


森の中では暗くて死体も見えなかったが実際に見てみるとかなりグロテスクだ。カズはゲーム好きと言ってもここまで血が出てくるゲームはやった事がなく主にRPGゲームが主流だった為少しばかり刺激が強すぎた。


(もしかしたら…さっきの攻撃は俺に向けての物だったのか?!…)


だとしたら今すぐにでも逃げ出したい。


気が付けば自分は草の上に尻もちを着いておまけに腰を抜かしてしまった絶体絶命状態だった。


草の中何かが近ずいてくる…ガサガサと音を立てて徐々に距離を詰めて来ている


きっと助からない


カズは死を前にして気が気じゃなくなった。


「嘘だ!急に呼び出されて早々殺されるとか!嫌だ!殺さないでくれ!!」


混乱するカズを襲ったのは殺し屋でもなく殺人鬼でもなく『安心』だった。


「命の恩人に人殺し扱いは酷くねぇか?」


「?」


中から出て来たのは白髪で左手には弓を右手には矢を持った男性が出て来た。ローブの様なものを羽織っていて付け加えるとイケメンだ。


「恩人?俺を狙って外したんじゃねぇのかよ?」


「馬鹿言うな、アイツは『ジェブラード王国』から送られてきた殺し屋だ。このローブと紋章が証拠だろ」


「じぇっ、ジェブラード王国?ここって日本じゃ無いよね?」


「日本ってのは知らねぇけどジェブラード王国知らねぇってのは驚いた!お前どっから来たんだよ?」


「日本って国から…ってここ何処ですか?」


「ここは『カナル王国』ってんだけど…そーかぁー外国人かぁ。なんでジェブラード王国の奴に狙われてんだよ?」


「心当たりが無さ過ぎて逃げることしか出来ませんでした。この度は助けて頂きありがとうございます。」


カズは彼に深くお辞儀を見せた。すると男性は、


「行く宛てとかあんのか?お前が良ければ街まで一緒行ってもいいけどよぉ?」


フレンドリーかつ親切過ぎる男性のお言葉に甘えることにした。


「俺はカズって言います。ホソダ カズです。」


「俺の名前はラーク!ラーク・ジャーナーだ!」


「職業ってやっぱり冒険者みたいな感じですか?」


「あぁ、王国の外などの魔獣を狩ったり魔物や、悪人の討伐なども引き受ける職業の事を『冒険者』と言うんだ!」


ラークさんは聞いてもない事を…聞く予定だった事をペラペラ話してくれた。


「ラークさんは一人なんですか?」


「ラークさんって俺まだ18だぞ?ラークで良いっつの!」


「18歳?俺と同い歳ですか?!意外過ぎる…えっ?その歳で冒険者やってるんですか?」


確かにラークと身長などはあまり変わっていない意外に装備もしっかりしている。本当に『冒険者』なのだろう。


「んで、さっきの質問者だけど今日はパーティーメンバーが都合上集まらなかったってだけで普通はギルドに所属してパーティーを組み、依頼やクエストを引き受けるってのが一般的だ。」


「資格とか得ればその『冒険者』になれるのか?」


「いんやっ、別に資格なんかなくても18歳以上なら誰でも『冒険者』になれるんだぜ!俺も今年入ったばっかりだからなっ!!」


ラークは、得意気に親指を立てて歯を光らせて見せた。


「そっか。じゃー町まで宜しくなラーク!!」


「おうよ!」


こうしてラークが乗ってきた『龍』と呼ばれる恐竜の様な生き物に乗ってカナル王国を目指した。








「結構乗り心地悪くないな」


カズはラークと一緒にカナル王国を目指していた。


「何だよ?乗ったことねぇのかよ?」


「俺の母国にはこんな生き物いなかった。」


「逆に何に乗ってたんだよ?」


「普通に車とか?」


「『竜車』ならこの国にもあるぜ?」


どうやら車を知らないらしい。知ってたけど…


「俺の母国の車ってのは完全に燃料で動くタイプの車なんだぜ?」


「何言ってんのかサッパリ分かんねぇや。」


ラークは当然知らない車の話に首を傾る。これも予想内だから別に詳しく教える必要もないけど…


「もうすぐ着くぞ」


雑談をしているうちにカナル王国に、到着した。








「本当にありがとうなラーク!」


「おうよ!またな兄弟今度会ったら1杯奢れよ!」


「酒飲めねぇよ!」


「何だよつまんねぇな…」


(この国何歳から飲めるんだよ…)


「とりあえず、また会ったら宜しくな!」


ラークは後ろを振り返らずにグッドサインだけ出して人混みの中に掻き消えていった。


(良い奴だったな)


にしても召喚主の死を確認したのは良いがこの先どうすればいいのか分からない。


「『冒険者』っての目指してみるか…アニメやラノベみたいに上手くいけばいいんだけどよ…」


「ん?待てよラークが魔法がどうとか言ってたな…俺にもあんのか?」


(そんなことよりまず考えるのは衣食住だな

。)


街は市場に買物でやって来た人々でごった返している。『武器屋』や『宿屋』や『服屋』など様々なジャンルに分けて店が並んでいる。


流石は異世界。だが何処の世界でも『お金』は必要不可欠である


「銅貨3枚です。まいどー!」


「あぁ…平和だな…」


カズは街行く平和な人々の光景をボーと眺めていると、ある男が目に止まった。


怪しい動きをしている男が老人に近づいて行き堂々と財布を鞄の中から抜き盗り去って行った。


「なんで気付かないんだ?」


だが老人は全く気付いていない


カズはその男の跡を付ね人気も少ない路地の中に入って行ったのを確認した。カズも男を追跡する。


「あのババァちょろいな!ヒャハハハハッ!」


男が老人から盗んだ財布を手の上で遊ばせていた。


見ていたカズも流石に頭にきた。


大きな足音を立てて男の視線をこちらに向ける


「おい!その財布はお前の物じゃないだろ!!」


「あぁ?テメェ跡付けてやがったな?」


きっと男の『音魔法』か何かによって老人は全く気付くことができなかったのだろう。


この世界には複数の属性魔法が存在するらしい


主には『火属性』『風属性』『光属性』『闇属性』『水属性』『木属性』その他もろもろ……

などなど存在している。これら以外の魔法を使える、もしくはこれら全て使える魔法使いの事を『オリジナル』などと呼ぶらしい。


『オリジナル』はとても珍しくここずっと確認されていない事から『幻』や『作り話』として考えられているらしい。


竜車に乗っている間この世界の知識を少しラークから教えて貰い携帯のボイスレコーダー機能に入れた事を忘れていた。


(よく考えてみたら戦闘に、なった場合俺はどうずればいい?)


神様からチート能力を貰った覚えはない。貰っていても使い方も分からない


ポケットからナイフを取り出してきた。これ普通に俺は死ぬやつだよな?


(一日に2回も死にかけるとかマジで勘弁してくれよ…!)


「みやがったなテメェ?死ねぇー!!」


咄嗟に攻撃を避けた……


上に!!


軽くビルの4階位はいっている!


「あ?アガアァァ!!高いぃ!!高いよっっ!!待て待てぇ!落ちたら痛いよ痛いよぉぉ!!」


無事着地した。痛くも痒くも無かった。


神様ありがとうチート能力無しで異世界はさすがにキツかったわ。などと考えながらカズは調子に乗って男に決めゼリフを放った


「その程度なのか?まだやりたいなら協力するぜ?」


「何だよ化物ぉ!!お前王国騎士だろ?!クソっ!」


短時間に男は急に弱音を沢山吐くことが出来るってのが分かった。クソどうでもいいけど。

財布を投げ付けて逃げて行く。


(ぉ…!!俺、強い?!なんで?)


なんて事を一瞬考えたが


(異世界あるあるか…)


『異世界あるある』などと言った意味がわからん言葉で今は保留しておく。


そんなことよりカズは普通に嬉しかった。



「正義は必ず勝つ!フフフフ…フハハハハ!!」


笑い方は完全に悪役の方だった。だが、昔から喧嘩を好まないカズには初めての勝利だった。


(これをさっきのばあちゃんに届ければ俺ってヒーローじゃね?)


などと考えながらさっきのばあちゃんを探していたら


「あ!私の財布!!泥棒!!スリよ!衛兵さん!!!!!!!!!」


「うっそ…」















「お前恥ずかしくないのか?親御さんが泣くぞ?」


「俺はスリから財布を取り返した方なんですけど…」


カズは王国刑務所の方に連れて行かれていた。


「それにお前の情報が全く無いってのが不自然だ!!まさかお前ジェブラード王国の『忍』か?」


(今『忍』って言ったか?)


カズ以外の召喚者が文化を受け継いでいたのか?っと疑問を持ったが今はあまり余裕が無い。


「とにかく俺は違います!!」


「兄ちゃんは違うもん!!」


「そそ!兄ちゃんは…って、え?」


(誰この子?)


「アメこの怪しい兄ちゃん追いかけてたもん!そしたら財布を盗った男の人を追いかけてたもん」


「彼女は小さな目撃者さんだよ。」


もう一人の女捜査官がやって来た。


「いやぁー悪いね!早とちっちゃった事は謝らせて貰うよ」


「おいアンジェロ!こんなちっちゃな子連れてくんなよ!」


「なんだい?ロバートこの子も立派な協力者だよ?あと君本当にごめんね靴も履いていないような貧しい子がジェブラードの『忍』じゃないよね!」


さりげなくディスられた気がするが豊かな心でスルーした。


何やらこの『アンジェロ』って人と『ロバート』って人が喧嘩始めようとしている


「すみません、俺は帰ってもいいですよね?」


「あぁ、すまないこれはほんの気持ちだよ」


アンジェロさんは銭袋を渡してきた。この世界の硬貨はどのぐらいの価値なのかよく分からないが貰っておいて損は無いだろう


無事何事もなく刑務所を出られた。


一緒に出て来たこの子は何故か猫耳の様なものが着いている


「ありがとね助けてくれて。」


「ううん、大丈夫だもん!」


「そう言えば一人で大丈夫?」


「…」


(あー、黙っちゃったよ。これはほっといたら駄目イベントかな)


多分この子は迷子なのだろう。まず小さい子が親無しで協力者だなんて迷子以外ありえない…と、思う。普通はおや同行なはずだ。


さっきの刑務所的な場所で保護してもらった方が良いか……いや、このイベントは俺がこなす事に意味がある。


この世界の常識は分からないけど…


「探すか。ママかパパ?」


「良いの?」


「良いよ」


カズは小さい子が好きだった。町内ではよくおばちゃんや小さい子供たちにとても懐かれていたため面倒みがとても良いと評判だった時代があったくらいだ。


(コイツ可愛いな)


カズがロリコンだったことはまた別の話……











「お前の名前は?俺は『カズ』」


「変な名前だねー、アメは『アメ』って言うんだもん!」


「おぉ、『アメ』は『アメ』か!」


無邪気なうちはどんな生き物でも可愛いのだ。大人は金が絡むと汚れていく何処の世界でもこればかりは共通するだろう。


「『カズ兄』は何処から来たの?」


「『カズ兄』!」


普通に響きが良すぎて気持ちがいい


「俺は日本って所から来たんだよ、だからここのことよくわかんないから教えてくれよ」


てなわけで捜索&散策がはじまった。














きっと迷子の原因はこの多すぎる人混みで前が見えなくなったのだろう


だからカズはさっきからアメを肩車して家まで連れていっている


「アメこの街詳しいもん!カズ兄になら教えてあげるもん!」


などとと言うもんだからかなり時間を食う事になりそうだ


(肩車って意外とキツイんだな…)


カズは心の中でボソボソ呟いた。























そんのままアメに街案内をしてもらってからやっとお目当ての家に到着することができた。


(さすがにもう夕方とか俺ピンチじゃね?)


こうして二人は無事何事もなくアメの、家にたどり着いたのだ。


「アメ何処行ってたの!!心配したんだからね!」


「カズ兄に助けて貰ったもん」


(あ、俺いい仕事したわ)


着いた瞬間感動を見せられたカズは自分の時間の無駄を許すことが出来た。


「ありがとうございます!カズさん?でいいですか?」


「あ、うん」


(若いママだなぁ…)


その後少しアメのママと少し世間話をした。勿論貴重な情報が豊富な会話なので録音も欠かせない。


「へー、ここ宿なんですね。俺ここ来たばかりだから全っ然なんにも分かんなくて…」


「そうですか…カズさんは旅をしてらっしゃるんですよね?なら今日はうちの宿に泊まって頂けませんか?」


(今一番求めているのが巡り巡ってやって来た!)


流石は異世界イベントだ!いや、異世界あるあるだろうか。








こうしてカズの一日目は無料ただで衣食住を手に入れる事が出来た。


召喚者カズの異世界生活は始まったばかりである。




















































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